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落ちた世界でメイドになりました。  作者: 夜凪


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11/12

新たな発見など無くても、なんとなく日常は過ぎていくわけです。

はい。

何が言いたいかというと、愛し子の手記と言われるものの最初の一冊目を読んでから、その後は取り立てて何の進展もありませんよ、って事。


だってえええぇぇぇ

どう頑張っても解読不可能なんだもの。

グネグネした線にしか見えないんだもの。


たかだか百年程度の差で、どうしてこうまで文字が違っているのかと心の底から問いかけたい。

そして私の代わりに解読してもらいたい。


まぁ、そんな相手は当然いないわけだけれども。


モダモダと報われない日々を嘆いてる現状を打破するために、先に動いたのは、やっぱり頼りになる主だった。






「早苗、日記の愛し子が暮らしたと言われている辺境の方へ行ってみないかい?」

「はえ?」


すでに日常と化した主との朝食の時間。

まったりと最後のお茶を堪能していた私は突然の言葉に思わず変な声がでてしまった。


いや、だって不意打ちすぎて。


「それって花音様のお家って事ですか?」

「そうだよ」

 肯定の言葉があっさりと返ってきた。けど……。


「すごく遠いって聞きましたよ?」

一応、調べてはみたんだよね。

現地に行けば、日記以上の手掛かりが残ってるんじゃないかって。

二百年近く前の話だけど、幸いお家はまだ残っているみたいだし。


ただ、辺境って言うだけあって、すっごく遠いの。

新幹線どころか車だって無い世界。

移動は基本、馬車か馬か徒歩。


「早苗、君は私が何者なのかを忘れていないかい?」

 困った子供を見るような目でこちらを見ながら、主がため息を一つ。

「何者……。顔よし性格よし文武両道で完全無欠の王子様だと思ってますが、何か?」

 指折り数えるうちに主の頬がどんどん赤く染まっていくの、なあぜなあぜ?


「本当に、君って子は……」

 ついには顔を手で覆ってしまった。

 美形が恥じらう姿、眼福です。


「そうじゃなく。だいたい、王城まで行くのだって転移を使っているだろう?」

 気合を入れる様に大きく息を吐いてから顔をあげた主はいつもの顔色に戻っていた。


 ちょっと前までは立て直すのにもう少し時間かかってたんだけどな。

 誉め言葉に慣れてきたんだって思えば喜ばしいけど、真っ赤な顔で照れる主が見れなくなるのはちょっと寂しい。


 これは永遠のジレンマだね!


「じゃなかった。そうか、魔法!」

 ついうっかり忘れてたけど、元の世界にはない不思議な力がここには存在するんだった。

 さんざん日常で使い倒しているのにうっかり。


「でも、あれって一度行ったことのある場所じゃないと使えないって聞きましたよ?」

 魔法は不思議な力だけれど、事象を起こすにはやはりそれなりのルールがあるそうで。

 呪文だとか魔法陣だとか座標だとか。

 なんか一度説明受けたけど、私の頭ではちっとも理解できなかったのよ。


 そもそも私の魔法は「こんなふうになったらいいな~」ってイメージしながら言葉に出すだけというお手軽仕様でして。

 まぁ、正確には私の使ってたのは魔法じゃなくて、見えないけれど側にうじゃうじゃいるという精霊さん達が手助けしてくれてただけだったんだけど……。


 それにしても、いまだに精霊の姿って見たことないんだけど、そのうち見えるようになったりするのかな?

 主曰く、すっごくたくさん集まってるらしいから、見える様になったらなったで大変そうだけど……。


 話がそれた。


 転移魔法。

 初めて主と一緒に移動した時に、理論だけは教えてもらったんだよね。

 理解できなかったけど。


 そんで、私が使っているのが魔法じゃなく精霊の仕業だったって教えてもらった後も、精霊たちに頼むのはうっかり別の世界に連れ込まれる危険があるのでやめてほしいとお願いされて諦めたけど。


 それでも、頭に残った情報はいくつかある。

 行った事のない場所には行けない。

 自分の魔力に見合った距離しか飛ぶことができない。


 こっそり布団の中で泣いたよね。

 もしかしたら、転移魔法を軸にすれば、元の世界に帰れるんじゃないかって、ほんのり希望を持っていたから。

 

 だけど、無理だって分かっちゃった。

 世界を飛び越えるほどの魔法なんて、使える人がいるわけがない。

 主ならもしかして、とか思ったけど、行った事のない場所には行く事が出来ないならどうしようもない。


 頭の中のイメージを共有出来たらもしかしたらとも思ったけど、それができてたら、きっと過去の愛し子たちが帰ったっていう記録がないのはおかしなこととなる。

 そうして自分を納得させたんだよね。


「行った事があるから、大丈夫だよ」

 不思議そうな顔をした私に、主はあっさりと答える。


「え?行ったことあるんですか?何をしに?」

 確か馬車の旅でも一月はかかるって聞いてたんだけど。


 しかも王都から離れれば離れるほど道は荒れるし、町はなくなるから野宿上等になるという。

 かなり辛い旅になるから、覚悟がないならお勧めしないって止められたくらい大変みたい。


「辺境は魔の森があるし、国境でもあるからね。有事の際には飛べるように、かなぁ?一応転移魔法陣も設置はされているんだけど、起動するために魔力をためるより私ひとりが飛んだ方が早い事もあるしね」


 はい、ここで新情報です。


 魔の森ってのは国境沿いにある深い森の事で、危険生物の住処みたいになってるんだって。

 まぁ、魔法があって精霊がいるんだったら、人を襲う魔物みたいなのがいても不思議じゃないよね。

 って、話を聞いた時は軽い感じで納得したのだけども。


「……その言い方だと、主様が魔物退治に行ったりしてます?もしかして」

「自分たちで対処できるところは、自分たちで頑張ってもらっているよ?」

 おそるおそる問いかけた私に、不思議そうな顔で帰ってきた返事がこれですよ。


「つまりヤバい奴がでたら主様が駆けつけてるんですね?」

「そういうときもあるね」

「もしかして行こうとしている辺境以外も、有事の際は駆け付けたりしてます?」

「民を守るのも王族の役目だしね」


 私の問いにも何の気負いもなくあっさりと頷く主。


 本当に、この国の奴らの頭おかしいんじゃないかな?

 ピンチの時は全力で頼るくせに、ちょっと容姿が自分たちの好みからずれてるだけで、まともに素顔で外歩けなくなるくらい追い詰めるとか。

 助けてもらってるんだから平身低頭して崇め奉れとまではいわないけど、もう少しなんかあるだろうに。


「……主様追い詰めたやつら全員、一回魔物に齧られればいいと思う」

「早苗?何か言った?」

 苛立ちのあまりぼそりともれたつぶやきは、幸い主の耳には届かなかった模様。

 セーフセーフ。


「何でもないです。それなら、パッと行ってパッと帰ってこれちゃいますね」

 気持ちを切り替えて二パッと笑えば、主は少し複雑そうな表情で黙り込んでしまった。


 はて?何が引っ掛かったのかな?

 どうしても自分の主張を声に出すのが苦手らしい主は、こうやって黙り込む事があるのだ。


 主張したい意見がある。けど、言っても大丈夫だろうか?迷惑ではないだろうか?嫌がられるのでは?などなどのネガティブな感情との板挟みにあって言葉がでなくなるみたい。

 成人男性のかまってちゃんとか、どこに需要があるんだよ!って?

 

 ここにあります!(胸張り、どーん!)


 いや、だって。

 そんな風に迷う様子を見せてもらえるようになったのも、つい最近の事なんだよ?

 それまでは、言いたいことがあったとしても、素知らぬ顔で飲み込んでたからね?

 

 例えば、本当は少し体調が良くないから辛いものや味の濃いものはいやだなと思っていても、香辛料たっぷりの料理を出されたら涼しい顔で食べてしまう。

 北に東にと無差別に仕事を振られて非効率だなと思っても、魔力のごり押しをしてでもこなしてしまう。


 その後に、ぶっ倒れたとしても、だ。


 そんな風に自分の意見は押し殺して生きてきた主が、初めておずおずと「食後はアイスティーがいいんだけど……」と小さな声でつぶやいた瞬間、入れかけていたポットを放り出し、アイスティーに適した茶葉と氷を取りに速やかにキッチンに走ったのはいい思い出。

 

「主様のご要望です~~」とキッチンに駆け込んできた満面の笑みの私に、サムスンさんが少し引いていたけど、気にしない。

 たかが食後の飲み物一つだ。

 だけど、これまで頑なに自分の主張をしなかった主様にとっては、大きな一歩だったはずだ。


 いや、みなまで言うな。

 使用人のプロなら、隠した主の本音の一つくらい察知してみせろって言うんでしょう?

 マリアさんやサムスンさんはやってると思うけどさ。

 そんなの、ここに来て初めてメイドの真似事始めたばかりの自分にできるはずないじゃん。


 なにより。

 些細な事でも、心を少しだけ許してもらえたようで嬉しかったんだよね。


 というわけで、主のかまちょムーブは私にとってはご褒美なのである。

 主の要望を叶えてこそのメイドでしょう!


「どうかしましたか?」

 とわいえ、にわかの私に主様の心を悟れるわけもないため、出来る事は「素直に尋ねる」一択である。

 

「少し前に近辺の魔物を狩りつくしたから、今、辺境は比較的危険が少ないんだ」

「そうなんですね。それは民が安心して過ごせていい事です」


 何の話が始まったんだなんて、突っ込んではいけない。

 気持ちはお話下手な幼児に向き合う保育士さんだ。

 決して遮らず、穏やかに肯定のみを返すのが、今の私の使命!

 

「あの土地は、聖女様がご降嫁された土地だから、他に比べて容色に対する差別意識も低いし……」

「おなじ日本から来たなら、私と似た美意識を持っていたでしょうし、そうなるでしょうね」

 日記から読み解くに、嫁いだ旦那さんも主ほどではないけどこの世界的には微妙な部類の容姿をされていたみたいだし。


 それを抜きにしても、日本の一般的な教育を受けていたなら、多様性に関しては寛容だったはず。

 少なくとも面と向かっては、差別的反応はしていないと思う。


 領地のトップがその対応をしていたなら、自然と下もそれに倣うから、きっとこの国の虐げられていた人たちにとっては、非常に暮らしやすかったことだろう。


「風光明媚な場所もいくつかあるし、食事も少し変わっていておいしいんだ」

「そうなんですね。聖女様が広めたものでしょうか?」

 日本的グルメがあるなら、それはちょっと食べてみたいかも。

 いや、以外といろいろ食生活は充実してるし不満はないんだけど、やっぱりあるじゃん?


「…………」

「主様?」

 ひたすらにうんうんと頷きながら話を聞いていた私に、主が再び言葉を切った。

 結論らしいものにたどり着いていないな?と内心首を傾げて見上げる私に、少し怯んだ様に体を揺らした後、主が大きく息を吸う。


「早苗はこの国に来てから観光らしい事はしたことがないだろう?私も最近働きづめだったし、いい機会だから、少し向こうでゆっくりするのはどうだろう?」

 少し目線を反らしながら、早口で言い切った主の勢いに、一瞬ポカンとしてしまう。

 いや、いつも穏やかな話し方がデフォの主様にあるまじき早口だったもんで、ちょっと驚いてしまったのだ。


「…………ダメ、だろうか……」

 思わず目をパチパチと瞬いていたら、主が目に見えてシオシオとしぼんでいった。


「いえ!駄目じゃないです!それって観光旅行ってやつですよね?慰安旅行ですかね?すごいです!行きたいです!」

 反射的に首を横に振りながら、立ち上がる。


 基本的に、私は主のお屋敷の中から出ないし、他に行った事のあるのは王宮の一部くらいである。

 後、最初に転移してきた巨大な木がにょきにょき生い茂っていた森。

 

 この世界を知るためのお勉強の一環として地図や図鑑なんかも見たけど、やっぱり実際に自分の目で見る事は別格だろうし、興味ある。


 だって魔法がある異世界だよ?

 魔物や精霊なんかの不思議生物がはびこる世界だよ?

 気になるじゃん!

 ちょっと怖い気もするけど、おそらくこの世界最強の主様が側にいて、そうそう危険な目に合うとも思えないしね!


「そ……、そう。喜んでもらえるみたいでうれしいよ」

 大興奮の私につられたのか、萎れかけていた主様もニコニコの復活を遂げた。


「じゃあ!マリアさんたちに都合聞いてきますね!慰安旅行、楽しみです!何を用意すればいいのかな?」

 その笑顔にさらにテンションが上がった私は、さっそくもろもろの準備をしなくっちゃと早足で部屋を退出した。


「マリアさーん!マリアさん、どこですか?旅行ですよ~~!主様が連れて行ってくれるって~~~!!!」

そして、廊下に出るなり、マリアさんを探して走り出した私は、残された主が呆然とそれを見送っていたなんて気がつきもしなかったのである。





「まぁ、婚前どころか婚約すらしていない男女を、二人きりで旅行に出すわけにもいきませんからね」

 呆然とその背中を見送った私に、半笑いの声がかけられた。


「のぞき見とはいいご身分だな」

 憮然とした声で振り返ると、そこには黒装束に白い仮面をつけた男が立っていた。


 私のものとは違い顔半分だけを隠す形のものだが、不思議とさらされているはずの部分も印象には残らない。仮面に認識疎外の魔術がかかっているのだ。

 私もそうしたいところだが、腐っても王族の一員として人の前に立つこともある以上、さすがにそれは許されなかった。


「そんなこと言われましても、これが私の仕事ですからねぇ」

 軽く肩を竦めて見せる男は、国に仕える影だった。

 決して人前に姿を見せず、護衛から情報収集迄何でもこなす。


「それにしても、初めてお会いしましたけれど、本当に主の顔を恐れないんですねぇ」

 男は少し驚いたようにつぶやきながら、仮面を外した。


 そこに現れたのは、長いまつ毛に囲まれた大きな瞳と中央で主張する高い鼻梁。

 私ほどではないにしても、十分に人から目を背けられるに足る容姿を持った男だった。


 人前に姿を現さないのが大前提の存在でもあるため、私のような容姿のものがつく職としては人気が高い。おかげで、私も張り付かれてもそれほど気を遣わなくてもいい点では助かっている。

 多少の差はあれども、自分の顔で耐性がついているからか、私の顔を見ても気分不良にならないからだ。


「そうだな。少し変わった美的感覚の持ち主なのもだが、とても優しいから……」

 思わずポロリと零せば、男が驚いたように目を見張った後、どこか嬉しそうに笑った。


「よい顔で笑うようになられました。素晴らしい事です」

「お前のそれはいったい何視線なんだろうな」

 うんうんと頷く男になんだか恥ずかしさがこみあげてきて、思わず悪態が口をつく。

 もっとも、幼少から側にいた男にとってはほんのわずかにも答えていないようだったが。


「何って、しいて言うなら、近所の兄ちゃんくらいですかね?自己肯定が低くて心配してた子供の成長を感じられて感無量、みたいな?」

 笑いながらも、男は近くに歩み寄るとそっと机の上にどこからか取り出した紙の束を置いた。


「そんな成長した殿下に、お待ちかねの報告書です。苦労したんですよ?」

 基本的に私に張り付いている男が早苗を初めて見た理由。

 それは、早苗が初めてこの国に現れてすぐ情報を集めるために、過去に顕著した愛し子の情報を集めてもらっていたからだ。


 辺境の地から、はては隣国まで。

 思いつく限りの場所を走り回らせていた。

 本来は国に仕える影を、ほぼ私用で長期間動かしたのだから、できる限りの便宜を図ったとはいえ、大変な仕事だった事には変わりない。


「……ご苦労だった」

「かまいませんよ。珍しい殿下のお願いですからね」

 置かれた紙の束を取り上げながら、短くねぎらいの言葉を伝えれば、男は小さく肩を竦めた。


「あ、ついでに辺境お勧めデートスポット情報も最後につけてるんで参考にどうぞ~」

「さっさと王城に帰還の報告をしてこい、馬鹿者!」

 反射的に手にしていたペンを投げた場所には、すでに男の影は跡形もなかった。




お読みくださり、ありがとうございました。


主様、早苗を手放したくないと思いながらも、ちゃんと情報は集めていました。

というか、情報収集を指示した時には、まさかこんなに大事な存在になるとは思っていなかったのでしょうね。かといって、途中で撤回することもできなかったという。


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