表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5.鈴の音に招かれて

5話目です。いつもより少し短いです。


本来は3場面分この話に入れてしまおうと思っていたのですが、

今回の場面が思っていた以上に長くなってしまったので、一旦区切りました。


この辺りはリメイク前と展開ほとんど同じですが、楽しんで頂ければ幸いです。


【訂正のお知らせ】

・3話目:シロ達が見つけた薬の名前を「紫の夢」から「春の夢」(はるのゆめ)に変えました。


※小さな部分はサイレントで訂正していますが、設定が変わるものはここに記載します。

 暗がり始めた夕焼け空の中、鳥が何匹も連なって飛んで行きます。

 街の周囲にある山々は、背の高い木々に覆われています。そして、その部分部分に、木が途切れて背丈の低い草が生えた草原や、動物たちの水飲み場となる小さな湖が点在しています。


「ふっ」

「はっ!」

「はあっ!」


 そんな山の一つ。その中腹にシロは居ました。100m四方ほどの広さの場所で、木は一本も生えていません。代わりにロープの巻かれた丸太が端っこに差してあり、事情を全く知らない人が見ると、周辺との差に驚くでしょう。


 ここはヴァージュ先生とシロが協力して作った訓練場で、元々傾斜の少なかった場所を見つけると、木を切り払い、土を運んで平らにしました。


 わざわざこんな面倒なことをしたのも、魔法のトレーニングを行うため。"中級魔法"であれば、駐在所の訓練場を借りることも出来るのですが、"上級魔法"はそうもいきません。うっかり使い方を間違えた日には建物を2つ3つ、軽く吹き飛ばしてしまいます。


 勿論、木こりや猟師が山にいる場合もあるので、油断は出来ませんが、街よりずっとやり易いのは、言うまでもありません。


 魔法を使った格闘術は勿論、ナイフやその他の武器の練習、魔力量を増やすための瞑想……といった、予め決めたメニューを行っていきます。この内容も、ヴァージュ先生から教わったものです。回数を増やしたり、重りを付けたりと、工夫はしていますが、同じことをずっと続けています。


 ちなみにサラは居ません。勿論、彼女もトレーニングはしていますが、使う魔法が周りを巻き込むものでは無く、ここまで来るのに1時間近く時間がかかってしまうからです。とはいえ、週に1回はここに来て、2人でないと出来ないトレーニングをやっています。


 空が暗がり始め、夕焼け空の端が徐々に細くなっていくころ、一通りのメニューが終わりました。

 犬の遠吠えが、山びことなって響くのを聞きながら、シロは切り株に座って水筒の水を飲みます。


 その合間に、ボロボロの本をめくりながら、

「囲まれた時の対処を考えないと駄目だ。今日だって、もっと早く合成術の術者を仕留めれば、"上級"を使う必要は無かった……」

 とブツブツ呟くのです。


 見ている本は、基本的な魔法が書かれた魔法書です。これも、先生から貰ったものですが、相性が悪く、どうしても覚えられない魔法の以外、全部覚えてしまいました。

 だから、こうして今まで覚えた魔法を振り返りながら、新しい魔法を作れないか、試行錯誤しているのです。


 ただ、"中級"で『疾風の槌シュトゥルム・ガスタ』より威力を出すのは難しいし、かといって囲まれているときが前提なら、"上級"なんて出してる暇はないだろ……。無理に倒そうとすれば、それこそ袋叩きだ。


 ――とか何とか。


 いや、そうか。それこそ無理に倒す必要は無いんだ。前の敵だけ風で飛ばすことが出来れば、後は『疾風の蹄(シュトルム・ラウド)』で一気に抜け出せる。その前提なら、吹き飛ばす力と出の速さを確保すれば良いし、"中級"でも問題ないし……、よしっ!!


 パタリ、と本を閉じる音。どうやら考えがまとまったようです。


 シロは本と水筒を切り株に置いて立ち上がると、少し離れました。そして、足を肩幅に開くと、目を瞑り左手を胸の高さまで持っていって、掌を上に向けます。


 掌から薄い緑色の、もやもやとした"何か"が出てきます。これが、シロの魔力です。そしてシロの魔力が集まると、緑色は少しずつ濃くなっていきます。


 シロは作りたい魔力を思い描きながら、集まってきた魔力の"形"と"性質"をいじっていきます。


 「集めて」「曲げて」「留めて」

 「冷たく」「速く」「一気に」


 そうして、あれこれ試行錯誤を繰り替えしていく中で、シロの足元では、幾何学模様の光が現れては、消えていきます。それを繰り返しながら、模様がじわじわと広がっていきます。


 そもそも魔法とは、魔力を魔力以外に変えることを指します。随分大雑把な定義と思う方もいるでしょうが、それくらい、幅広い魔法があるのです。


 今みたいに、魔力の"形"と"性質"を変えると、それに合わせて光が浮かびます。そして、魔力が魔法に変わった時、その光は、丁度、円形の模様を描くことになります。


 ――それが、この世界において"魔法陣"と呼ばれているものです。


 この魔法陣は魔力をどのような"形"、どのような"性質"に変えたかの履歴になります。

(補足しておくと、途中でどのように変化させても最終的に必要が無かった場合、魔法陣の模様にはならずに消えてしまいます)


 そのため、魔法陣を覚えてその形状に魔力を流せば、同じ魔法が形成されます。当然、あれこれ考えて魔力を変えていくのとは、比べ物にならないくらい速いので、戦いで魔法を使うのなら、この方法が基本となります。

 何度も何度も同じ魔法を使っていくと、魔法陣の形状が体感的に解るようになり、やがて自然と魔法陣を形成出来るようになるのです。


 だったら、魔法陣を紙か何かに書いて形を覚えれば、どんな魔法だって使いたい放題じゃん!!

 と、思う方もいるかもしれません。


 初級魔法や一部の中級魔法であれば、そういう覚え方もあるにはあります。しかし、多くの魔法、特に"上級"以上の魔法は、魔法陣の形が非常に複雑で、到底覚えられるものでもありません。

 仮に覚えられたとしても、本人の持つ魔力の性質が魔法と合わなかったり、見た目からは解らない魔力の流し方をしないとその魔法陣は作れなかったりと、普通に覚える方がよっぽど簡単なのです。


 ――さて、シロの方ですが、魔力の変換が大分進みました。


 掌の上で風がスイカぐらいの大きさまで圧縮され、小さな台風のように渦巻いています。白い癖毛と、コートの先っぽが風でゆらゆらと揺れています。

 

 足元では土煙が巻きあがり、その下から1mぐらいの大きさの光の輪が、シロを中心として浮かびあがります。そして、足元から広がった模様が、そこへとじりじり近づいています。


 魔法が完成するまで、あと少し。同時に使用している魔力の量も最も多いので、コントロールが難しい正念場です。


 とはいえ、"中級"なら、何度もやってきたシロですから、この位はいとも簡単に――、


『ヴァージュさんは、厄災から街を護るために死んでしまった……! もし、また厄災が起きたとき、君が同じように死んでしまったら、嫌なんだよ……!』


 シロの指先がピクリと動きます。それと同時に圧縮されていた"風の球"の表面が、ぐにゃりと歪みます。

 微かに目を開き、顔をしかめるシロ。"風の球"を持つ左手が、プルプルと震えます。右手で"風の球"を押さえ、指先に力を込めます。


 そうやって、何とか形を留めようとしますが――、

 シロの脳裏に、あの日の記憶がよぎります。


 ガラガラと崩れていく家屋。

 上空から降る"刺"に貫かれる人たち。

 血まみれで、自分をじっと見つめる先生(ヴァージュ)


『……最期の……約束だ……』

『死ぬなよ……シロ……!』


"ジッ!! ジジッ!! バヂヂッ! バヂヂヂヂ!!!"


 はっ、とシロが目を見開いたとき、彼の手元にあったはずの"風の球"はぐにゃぐにゃに歪んでいました。更には足元の魔法陣は異常なまでに強く光り、火花を散らせています。


「っ!!」


 シロは咄嗟とっさに、左手を振り上げて、"風の球"を放り投げます。同時に魔法陣から飛び退きました。

 直後、地面と上空で、"ボボンッ!!"と、連続して爆発が巻き起こります。上空から吹き付ける風が髪を上から押さえつけ、足首には小石が跳ねて当たりました。シロは腕を顔の前に構えて風避けにしながら、じっと、その様子を見ていました。


 風の爆発が一通り落ち着くと、魔法陣のあった場所から煙が立ち上がっていました。額から落ちる冷や汗を拭いながら近づくと、地面には小さく穴が開き、燃えていました。

 魔力を多めに注ぎ込んでいたところに、集中力を乱したせいで、魔法陣を維持できずに、暴発したのでしょう。

 作ろうとしていた魔法が、中級魔法で助かりました。上級魔法であれば、シロ自身も無事では済まなかったでしょう。


 シロは黙って、切り株に置いた水筒を取りに行きます。燃えている場所に水をかけて消火していきます。地面が濡れて、火が小さくなっていく様子を見ながら、シロは深く、深くため息を付きました。

 

「どうしてなんだ……先生」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 火がちゃんと消えたことを確認すると、シロは切り株に戻って荷造りを始めました。水筒や魔法書をポーチに入れて、ナイフをホルダーにしまいます。

 

 もう日は落ちてしまい、間もなく星や月が出てくる頃でしょうか。『疾風の蹄まほう)』で走れば、すぐ戻れるとはいえ、あまり遅くなるとサラが心配し始めます。

 

「……帰ろう」


 荷造りを終わらせて、脚に風をまとわせた――、その時です。


 "リーン"


 鈴のような高い音が響きました。シロがはっと、空を見上げます。

 

 "厄災"の後、駐在兵の人達が魔法でいくつか"結界"を作りました。今鳴ったのは、一定以上の魔力を持つ存在を検知する"結界"で、街道以外、つまりは周囲の山に張られています。"厄災"や"魔獣"が山に発生したとき、もしくは、街道や検問所を通らずに街へ不法侵入者しようとした人が居たときに、わかるようにするためです。

 この音の種類でこの音量なら、西に2kmほどでしょうか。


 ただ、既に結界の音は止んでいました。静寂の中、風の音だけが聞こえます。

 

「気のせいか?」


 シロは首を傾げます。仮に、結界の範囲内に入ったままなら5分間隔で音が鳴るのですが、少し待っても、2回目の音は鳴りませんでした。


 なので、そのまま街へと帰ろうとしたのですが――、


「………」


 どうにも、気になります。


 「傭兵達の仲間が、山に潜んでいるのかもな。『星を見に行く』約束もしていたし、厄介ごとを片付けるなら、今日中だよな。それに――」


 (きびす)を返すと、シロは一気に走り出しました。


 ――それに、"先生の代わり"に"街を守らなきゃいけない"。そうだろ? 

 

 心の中で自分に言い聞かせると、山奥へ向かって駆けていくシロ。周囲の木々がガサガサと揺れ、木の葉が飛ばされて舞いました。

もし、宜しければ、ブックマークや感想、下の評価で★5をお願い致します。連載の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ