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3.地下牢での邂逅


 牢の中には一人の女性がいた。ロリアと同じ年くらいだろう。首輪もロリアと同じ。つまり奴隷だ。


「初めまして、私ソーシャっていうの。よろしくね。」

「あ、どうも。私はロリアです。よろしく。」


 お互いに顔を合わせ観察する。薄汚れているが、サラサラとした亜麻色の髪の毛が綺麗な美しい女性だった。


 

「ソーシャは何で奴隷になったの?」

 

 ロリアは会話を試みた。情報というものはあるに越したことはない。


「……私はハーバル領の端の村に生まれたの。とても田舎で山に囲まれて自然豊かな所だったわ。……ふふ、私これでも村1番の別嬪さんだったのよ。ある日、ハーバル男爵が視察で村に来たわ。その時に私は目をつけられた。結婚しようと言われたけど、断ったら言い掛かりをつけられて囚人に仕立てられてしまったわ。」


 しばらく、人と話していなかったのだろう。彼女は掠れた声で立て板に水を流すように喋りだした。

 

「……それは、気の毒だね。凄い理不尽だ。」

「あなたは?……あ、分かった。奴隷になった原因はその金色の瞳でしょ?ハーバル領どころか太炎帝国においても凶兆よ。」

「太炎帝国?」

「ええ、ハーバル領は太炎帝国の領土のうちの一つよ。田舎の農民にも金色の目を持つものは無魔人であるから殺せっていう教えは言い伝えられてるわ。」

「へー、そうなの?太炎帝国って広いんだね。……はは、もう本当嫌になっちゃうよ。この目。無魔人じゃないのに。ははは。」

 

 乾いた笑いがでた。ロリアの背筋に冷や汗が伝う。神途境でも金色の瞳は嫌われていたが、無魔人である事を隠せば嫌悪の対象になるだけで済んだ。だが、この国ではどうだ?悪い予感しかしない。

 

「まぁ、あなたが死んでないところを見ると金の瞳の化け物の話は噂だったのね。」

 

 コクコクと焦ったようにロリアは首肯した。


「そういえばロリア、あなたボロボロだけど、どうしたの?」

「ハーバル男爵を怒らせて殴られちゃった。」

「えぇ!ハーバル男爵を⁉︎それは大変だわ!彼はとっても残酷なのよ。」

「へー。小太りなだけでそうは見えなかったなぁ。」

「よく聞いて、これはハーバル領の民なら常識なんだけど、彼の奥さんになった人達は行方不明なのよ。」

「偶然とかじゃなくて?」

「6人よ、6回も美人な女性と結婚して、その妻達はことごとく失踪する。しかも妻の名前は6人ともメアリーっていう名前だったのよ!これって凄く変よ。絶対、裏で殺しているわ!」

「でも、もし男爵が殺しているとしても国の、ほら太炎帝国の治安維持部隊が黙ってないんじゃない?」

「男爵は貴族よ。よっぽど国に対する敵対行為でなければ許されるの。はぁ……あなたは奴隷だし殺されなくてよかったわ。」

 

 ロリアの脳裏には自分の主人を思い浮かべた。確か彼女の名前もメアリーだった筈だ。幼いが美人ではあった。

 

 「私ね……」

 

 ソーシャが秘密の話をするかのように声を潜め、ロリアの耳元で囁く。諦念が滲んだ表情を浮かべ言った。

 

「私、ロリアが無魔人だったら良いのにって思ったの。無魔人は世界をひっくり返す災厄だから……私のこの状況もひっくり返してくれるかなって。」


 ロリアは面食らったように固まった。そんな事を言われたのは生まれて初めてだった。いつも悪魔のように扱われ存在を請われたことなど、一度もなかった。


「じゃあさ、じゃあ、もし私が無魔人でソーシャの首輪を外してこの場所から逃げられるのなら友達になってくれる?」


 彼女はキョトンとした後クスクスと笑った。


「勿論よ。もし貴方が無魔人でなくて首輪も外してくれなくても私たちは友達だわ。だって偶然同じ檻に入ったのよ。これってある意味運命とも言えるかもね、ふふ。」

 

 その言葉を聞いてロリアは立ち上がった。内ポケットに右手を入れ、キーホルダーのように小さくした鎌を取り出す。

 手のひらにあった鎌はみるみるうちに大きくなった。

 ソーシャは驚いたようにその光景を見ていた。


「ソーシャ、この鎌は魔法の掛かった首輪をも切れるの。一緒に外へ逃げよう!」


 ロリアは笑顔で左手を差し伸べた。だがソーシャは驚愕したまま固まり、中々手を掴もうとしなかった。


「ロリア、もしここから逃げれても私は生きていけないのよ。……もう私は囚人なの、村に戻っても居場所がないのよ。」


 既視感を覚えた。

 ロリアもソーシャと全く同じだった。己も、ほんのついこの前まで全く同じく、自分は外に出たら生きていけないと思い込み、同じように諦念と社会に対する少しの恨みをもって生きていた。

 だが、変われるかもしれないのだ。外世界に出て、いや、今ソーシャに出会って初めて分かったことだ。

 ロリアは直感した。ソーシャも自分も今まさに転換期に来ているのだと。


「行こう!ソーシャ!私と一緒に世界を旅しよう!」

「え?」

「ハーバル領を出て色んな国を巡って自由に生きようよ!世界を広げれば私達を受け入れてくれる所もきっと見つかる筈さ!」

「でも……」

「大丈夫だよ、一人じゃ無理でも二人なら、きっとなんとかなる!……私を信じて。」


 ロリアはソーシャの手を掴んで起き上がらせた。鎌を首輪に引っ掛けると、ゼリーを切るようにスーと断ち裂いた。カシャンと石造りの床に首輪が落ちる。

 

「嘘、信じられない、こんなに簡単に外れるなんて……。」


 ソーシャは自分の首を触って呆然と壊れた枷を見ていた。ロリアは乱雑に自分の首輪も切り落とすと次の標的はお前だとばかりに鉄格子に向き直った。


「大きくなれ、私の鎌よ!」


 ぐんぐんとロリアの背丈ほどまで大きくなった鎌がギラリと鈍く光った。

 軽く鎌を横に振ると、鉄格子はまるで氷柱のように簡単に折れた。


 そのままの勢いで檻から出ようとするとグイッと腰を両手で掴まれた。振り返ると、ソーシャが鬼気迫る形相でロリアの動きを止めている。


「待って、ロリア!今出ても捕まるだけよ、作戦を立てましょう!一旦座って!」


 気迫に押され、ロリアは座った。確かに、少し熱くなり過ぎていたかもしれない。勇気と蛮勇は違うのだった。この城のことも警備兵のことも知らないのだ。計画を立てなければ難しいだろう。


 

 

 ―――――――――――――――――――――



 

「ハーバル男爵は月に一度、国の定例会議に呼ばれてこの城を3日ほど離れる。」


 ソーシャ曰く、この国の貴族達は満月の日に帝都に集まり、国の方針を定める会議を開くらしい。

 そして直近の満月の日は今から丁度1週間後だった。メアリーと一緒に眠る前に夜空を見上げていたから覚えていた。


「ロリア、じっとしていてね。」


 言われた通りに動かないでいると、ギュッとハグをされた。覚えている人生の中で初めての抱擁だ。他人の体温はこんなに生暖かいのかと感慨深く思うと同時に、何故か目の奥が熱くなった。


「《神と火炎の精霊よ我が命に答えこの者を癒したまえ》」

 

 ソーシャがそう呪文を唱えると、蝋燭のような温かな炎が発火し、徐々に燃え盛り二人を包み込んだ。すると、みるみるうちにロリアの傷は癒やされ、顔の腫れも引いていった。

 

「わぁ、凄い!治った……ありがとう!」

「酷い傷とかは治せないけどね。治って良かったわ。」



『城から脱出大脱走作戦』

 ソーシャとロリアが力を合わせて考え抜いた脱出計画だ。作戦内容はこうだ。

 まず、ソーシャが偵察し警備兵の配置場所や武器庫を調べる。もしもの時に火薬や武器があったら脱出もスムーズに行くだろう。この時に余裕があれば他の奴隷達とも接触する。味方になれば上々だ。

 その間、ロリアは地下牢で静かに過ごし、見張りにくる兵士をやり過ごす。この時にソーシャがいない事に気が付かれたら即アウトだ。

 その後、ハーバル男爵が出掛けたら、ロリアが鎌で城に張られている結界を破りソーシャと共に城から出る。

 以上が二人で考えた作戦だった。


「偵察は3日で終わらせるわ。明日の朝に牢を出て3日後に戻ってくる。」

「でも私も行きたいよ、ソーシャ。心配だし。」

「だめよ、牢番にバレるじゃない。心配しないで、これでも私は村で1番隠れんぼが上手かったのよ。」

「……分かった、信じるよ。気をつけてね。」

「ええ、サクッと調べて戻ってくるわ。」



 翌日、作戦通りにソーシャは牢から出ていった。二人とも希望に満ちた笑顔で別れた。昨夜、語り合ったのだ。城から出たらどこの国へ行きたいか、何をしたいか。ソーシャは神途境の雲肉ジャーキーを食べたがっていた。

 胸を期待に弾ませ、未来に想いを馳せたのだ。


 

 

 だが、それ以降、ソーシャが牢に戻ってくる事は無かった。

 

 

適宜、加筆修正していきます。

完結目指して頑張ります。


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