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第八話 スナイプガール

 三人は山々や森林などの自然に溢れてはいるが、文明的なものは何も見えない退屈な田舎道を歩いていた。

「あ~あ、はぁ」と、ゼトリクスはため息をついた。

「どうしたの?」

「いや、なんか、さ。オレって結構強いじゃん」

「うん。そうだね」

「自慢か?」と、DHはつい言った。(自分の力の強さに自覚が持てたならいいか)

「いや、悪者とはいえさ、やっぱりオレ、女の子ぶっ飛ばしてきたじゃん? なんか、オレって本当にいいことしたのか? なんか思い返してみると気分悪い」

「なんだ、じゃあ男なら殴っても気分が晴れると?」と、DHは言った。

「誰だって殴っちゃダメだと思うけどさ……」

「そうか」(ならいい)

「だけど」と、クロオビは励ました。「君は暴力ふるったことを悔いてるの?」

「そうなのかな……そうだな、うん」

「それは他の人も同じだよ。誰かに暴力を振るうのはイヤだよ。だけど、誰かがやらないといけなかったんだ。それを君はやってくれた。誰かの代わりに、誰かのためにね。それに、君はそれ以上にたくさんの誰かを助けている。みんなが助かったのは、君が後悔したことをやってくれたからなんだよ。だから、そんなに気にしないで」

「そうかな……」

「そうだよ。それに、僕らも同じだ」

「同じ?」

「うん。君がやったことに罪悪感があるのなら、僕らも共犯だよ」

「共犯? まあ、確かに一緒に戦ったけどさ、お前らはなんか違うじゃん?」

「じゃあ、お前も違うだろ」と、DHが言った。

「君がした戦いは意味があることだったんだよ」

「だから、後悔なんてしないでいいんだ。誇りに思うべきだよ」

「そうなのか……」

 ゼトリクスは煮え切らなかった。


 三人は歩を進める。

「ここら辺は強盗団が現れる地域だ。気をつけつつ早く行かなければならない」

「他に近道とかはないの?」

「ない。しかし強盗団には会わずに済むルートならある」

「え、じゃあそっち行こうぜ」

「強盗の代わりにクマやトラなどの野獣がいるぞ。それに下手に手は出せない種類のだ」

「あ、それはイヤだな。なんか、今日は戦いたくねぇ」

「それは、どうして?」

「いや、自分の身を守るために暴力ふるうのはさ~……」

「正当防衛だからいいだろ」(こいつ結構面倒くさいな)

「いや、だけど……」

「おい、来るぞ」

「何っ⁉」

 すると、潜んでいたそこに刀やハンマーなどの近接武器で武装した美少女強盗団が襲い掛かってきた。あっという間に囲まれてしまう。

「金目のものおいてけ!」

「うお、全然気づかなかったぞ!」と、ゼトリクスは慌てた。「か、金になるもの……ない! なんてこった、記憶もなければ金もねぇ何て最悪だ!」

 今日の標的である三人の少年を見て、強盗団員たちは口々に言った。

「うわ、何て最悪な獲物だよ」「見るからに貧乏じゃねぇか」「まあいいや、とりあえず殺せ」「臓器くらい売れるだろ」「皮はバックにして髪の毛はツケマにしてやる!」

 彼女たちは容赦なく襲い掛かってきた。

「可愛い見た目してなんちゅう物騒なこと考えてやがるんだ!」

 そう恐ろしがるゼトリクスをよそに、クロオビがあっという間に敵たちをのしてしまった。しかも、ダメージを最小限にしながら気絶させていたのだ。

「え~⁉ お前も五歳児みたいな見た目してなんちゅう強さしてんだよ! 普通なら戦いごっこで遊んでぐったりのはずだろ!」

「僕のことなんだと思ってるの⁉」

 そして、三人は歩を進めた。

「けどありがとう」

「助かった」

「いや、気にしないで」

「クロオビ、お前はどうなの? 戦ってて楽しい?」

「楽しくはないけど、やるしかないからさ?」

「あ、そうか。やるしかないのか」

「何かに気づいたようだな、どうした?」

「すまん、オレの都合だけ考えてたぜ。お前らだっていたよな。お前らを守るためにも力使わないと。お前らや誰かがやられる方が嫌だし、誰かの助けになるなら気分がいいからな!」

「ゼトリクス……!」

「わかった、これからも戦うぜ。このパワーでな」

 笑顔で後悔を乗り越えた様子のゼトリクスを見て、クロオビも笑顔になった。

「うん。頼りにしてるよ」

「おう! 任せとけ」

「行くぞ」(こいつは思春期のガキか。……似たようなものか。自分が分からないのだから)

 DHも密かにゼトリクスを応援していた。出来る限り、二人を導こうと思った。


 強盗団のアジト。

「チキショウ!」

「近接戦闘最強のはずなのに……」

「たった一人に負けた!」

「どうやら、アタイ自らが出るしかなさそうだな」と、団長のスナイプガールが言った。「相手も人間のはず。遠くから撃てば死ぬし、アタイの能力があれば必ず当たる!」

「じゃあ、団長! やるんですね!」

「おう、行くぞててめぇら! ここの野獣を撃ち殺して得た狙撃能力、見せてやる!」


 そこで、はるか遠くから強盗団は銃や光線銃でクロオビを狙撃した。その狙撃は正確に一人の少年の頭を狙っていた。

「うわっ⁉」

「どうした?」

 クロオビは発射された弾丸を避けた。

「は、なんで当たらないんだよ⁉」

「団長、かすりもしてません!」

 そう言ったウィザードガールを、スナイプガールは撃った。

「いって~!」

「ようし、こうなったら、全員銃を持て! 一斉射撃だ!」

 そして、クロオビははるか遠くからの一斉射撃を浴びた。その弾道がおかしかった。弾丸が意志を持ったかのようにクロオビを追ってくるのだ!

「フハハハハ! アタイは射撃能力がヤバすぎて、弾道を変える力に目覚めたのだ!」

 しかし、寸前のところで避けらてしまう。

「なんでアイツばっか狙われてんだ⁉ やっば、DH、クロオビを助けねぇと!」

「待て」

「なんで⁉」

「黙ってろ!」

 DHは、弾丸がどこから発射されるのか特定した。

「よし、ゼトリクス、いいぞ」

 ゼトリクスはそう言われるや否や、クロオビの盾になった。弾丸を当てられても、ゼトリクスはびくともしない。

「ゼトリクス! ありがとう」

「おう」

「クロオビ、使え」と、DHはどこから取り出したのか、改造銃を投げてよこした。

「ありがとう!」

「どこに持ってたんだよ! つか切り替え早いな!」

 クロオビとDHは改造銃を使って、自分たちを狙う狙撃手たちの銃を次々と狙撃して、銃を撃てなくした。

 クロオビは方向の変わる弾道を避けながらも、彼女たちの位置を特定して、正確に狙撃していた。

「二人ともすげっ! その銃オレにもくれよ! 戦わせてくれ!」

「ああ」

 そう言ってDHが渡してきたのは、動物に使うような麻酔銃であった。

「なんじゃこりゃ⁉」

「今から言うところまで飛んで行って、全員にこいつを打ち込むんだ。そのあと、一人でいいから連れてこい」

「え、だけど、お前らは? 誰かが盾にならないと」

「俺たちなら大丈夫だ」

「ああ。行け! 信じて!」

 ゼトリクスは信じて、怪力による超脚力で、DHの言っていた場所までジャンプした。

「うお、本当にいた!」

「なんだ、お前⁉」

 言われた場所に行くと、クロオビとDHが銃を撃って狙撃不能になった強盗団員たちがいた。

「チキショウ、ドンドンやられてるじゃないか⁉」

「当たらなければどうってことないってホントね」

そう言ったウィザードガールをスナイプガールはまた撃った。

「いって~⁉」

そこに、ゼトリクスはスタッと降り立った。

「よっしゃ、お前で最後だ!」

 カチッ……。麻酔弾切れであった。

「え、マジかよ⁉ ここで⁉」

「この野郎、死ね!」

 そう言って、スナイプガールは最終兵器である破壊光線銃を放ってきた。

なんとか彼女を止めようとするが、全く近づけない。近づこうとしても狙撃されて吹き飛ばされてしまう!

「ギャフ⁉」

「ハハハっ! 命中したところでどうとでもないようだが、お前の怪力も近寄れなければどうってことないな!」

 その時であった。スナイプガールの破壊光線銃が撃たれて爆発し、使い物にならなくなった。クロオビが撃ったのであった。

「なにッ⁉」

「よし、今だ!」

 ゼトリクスは弾丸の如き速さで拳を突き出すが、スナイプガールの能力で方向を変えられて避けられてしまう。

「フハハ! 弾丸だけじゃないんだよ!」

 そう言った彼女の足元を狙って、クロオビが弾丸を放つ。

「うわっ! 多すぎる! 集中できない!」

「ナイスだぜ、クロオビ!」

 そう言ったゼトリクスに向かって、注射針が放たれたので、ゼトリクスはそれをキャッチした。DHがついさっきありあわせの薬品を使ってその場で作ったものであった。

(最後の一本だ、使え)

「よし、わかった。行くぜ!」

 無数の弾道を変えることに集中しているスナイプガールの好きを狙って、ゼトリクスは走った。

「うお、この、バカ! いつの間にこんな近くに⁉」

「くらえ!」

 チクっ……。……バタン。

 ゼトリクスは優しくスナイプガールに麻酔薬が入った注射器を突き刺して、彼女を倒した。

こうして、三人によってあっという間に強盗団は撃退された。


「なあ、言われたとおり一人連れてきたけど?」

 ゼトリクスが抱えていたのは、麻酔で眠らされたスナイプガールであった。

「よし、よくやった」

 DHが眠っている彼女に向かって何か語り掛けると、彼女はすっくと起き上がって歩き出した。

「ついて行くぞ」

「え?」

 彼女について行くと、そこは山に作られた迷路のように入り組んだ隠し通路であった。

「この道を通って、奴ら強盗団は獣たちを避けてつつ、素早く移動していたようだ」

「これだけの行動力があるなら、あの子たちももっといいことができただろうに……」

 そして、迷路を抜けると街に辿り着いた。

「うお、街に出たぞ!」と、ゼトリクスは感動した。

「クロオビ、ゼトリクスと一緒にホテルかなんかで休んでろ。オレはコイツを連行する」

「う、うん。ありがとう。頼んだよ」

「ああ」

 二人が去った後、DHは不気味な笑みを浮かべた。


 ゼトリクスとクロオビは街を歩いていた。クロオビは疲れてフラフラしていた。

「おい、大丈夫かよ。おぶろうか?」

「え、い、いや……」

「変な遠慮すんなよ、おら」

「ありがとう、ゼトリクス……」

 ゼトリクスがモーテルの部屋のとり方が分からないと思っていたので、クロオビはゼトリクスの背中が安心できても寝ないで耐えていた。

 モーテルを見つけても、ゼトリクスは案の定どうやって部屋をとればいいかわからなかった。なので、弟のようなクロオビが兄のようなゼトリクスの背中から代わりに頼むという、微笑ましいが可笑しな光景を、係員は見ることになった。

 そして、なんやかんやでゼトリクスとクロオビはモーテルに部屋をとることができた。

 クロオビはクタクタで、ベッドに横になると睡魔が襲ってきたのを感じた。

「ゼトリクス、お疲れ様。僕は……」

「あ、クロオビ? く、クロオビ⁉」

 クロオビを見ると、死んだように眠ってしまったので、ゼトリクスは少し怖くなってしまった。戦いすぎて疲れ、二度と起きなくなってしまうのではと思った。

 しかし、すぐに寝息がしたので安心した。

(は? 何でこんなにこいつのこと心配してんだ? オレより強いんだから大丈夫だろ)

 眠っているクロオビに布団をかけてあげた後、しばらく側にいてあげていたが、暇なのでDHのところに行くことにした。


 ゼトリクスが行ってみると、モーテルの外では、恐ろしいことが起こっていた。スナイプガールが、DHに言われるがままに働かされていたのだ。そして、彼女はそれを犬か機械のように完璧に遂行してみせた。

「おい、お前は今日から社会の奴隷だ」

「はい! アタイは奴隷です!」

「おい、奴隷。街中を掃除しろ」

「はい!」

「おい、奴隷。破壊された道路を舗装しに行け」

「はい!」

「おい、奴隷。ライフラインを整備しろ」

「はい!」

「おい、奴隷。保健所の動物全部の飼い主を探せ」

「はい!」

「おい、奴隷。福祉施設にボランティアしに行け」

「はい!」

 このように人のためになることは楽しいと洗脳されたスナイプガールは、街に無理やり貢献させられた。

「マジかよ……。つか、この街、結構ボロボロだな」

「その通りだ、ゼトリクス。この女どもが強盗なんてやって治安を悪くしたせいだ」

「へぇ。償いってやつをさせてんのか。お前の前では悪いことしないようにしよ」

「ああ。面倒くさいし、お前じゃやる気が出ない」

「いや、そこは悪いことするな、とか言えよ」

 ゼトリクスは不気味な笑みを浮かべながら命令を下しているDHの隣は居心地が悪かったので、美少女奴隷に交じってボランティアに参加していたが、ほとんどはスナイプガールたち強盗団がやっていた。

「なんか、増えてね?」

「よし、奴隷ども。よく頑張ったな。オレが遊んでやる」

「はい! 嬉しいです! ね、みんな!」

「はい! 団長!」

「ここにいたのか、二人とも」と、クロオビが合流した。「ごめん、寝ちゃって……え、な、なに? 何が起こってるの?」

「おお、クロオビ起きたか。DHがこいつら奴隷にして人助けさせてたんだよ」

 しかし、クロオビの目に見えていたのは、スナイプガール強盗団に犬の芸をさせているDHであった。スナイプガールたちはフリスビーをとったり、お手をしたりと、嬉々として犬のまねごとをさせられている。

「な、何やらせてんの⁉」

「……。なあ、そろそろオレにも命令させて。つか、一人くらいオレに寄こせよ」

「おい、ゼトリクス! そっちには目覚めちゃダメだ!」

「え、逆よりよくね?」

「イヤ、どちらにしろ極端なのはダメだからな!」

 そして、DHは最後の仕上げをした。

「アタイたちのは、山の中の強盗団で~す!」と、美少女強盗団員は今までの罪などを大声で告白し始めた。「……あ、えっ⁉ アタイはなんてことを……⁉」

「よ~し、アンタたち、ちょっと来てもらおうかしら~」

「え、おい、ふざけ、あ、が……⁉」

 スナイプガールをはじめ、強盗団たちの全身を凄まじい疲労と筋肉痛が襲った。今まで休みなく働かされた反動であった。催眠が解けたことで感覚が戻ったのであった。全身に力が入らず、崩れ落ちてしまった。

「はいはい、お疲れさん。いくらボランティアしたからって罪は消えないわよ」

「……あ、ぐあ……」(イヤだ、まっとうに働かされた! 屈辱だ!)

 そして、彼女たちは犬の泣き声のような声をあげて悶えながら、警官たちに連行されていった。

「よし」

「いいの⁉」

「なあ、オレにも催眠術のやり方教えて」

「いいぞ」

「やめろ!」

 こうして、強盗団逮捕と治安回復に貢献した三人だった。

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