第五話 ウィザードガール
「おい、クロオビ」
「DH! 大変だ、ゼトリクスが……」
「ああ、わかっている」
DHが経営するカフェ。
少年たちの前には、彼らが助けようとした怪少年を吸い込んで行った鏡の集合体が聞いたことのない怪音を響かせながら、地上から一メートルくらい離れた所で浮かんでいた。
鏡の一つ一つに自分の姿が写っている。DHはそれを見て、今は亡きセキの姿をした精神科医を思い出していた。
(オレの世界から誰も消させはしない)
クロオビがどうやって彼を助ければいいんだと自問していると、DHは内側にポケットをたくさん縫い付けた改造ウィンドブレーカーから長いロープを二本取り出し、それぞれの先を柱にしっかり縛った。そして、もう一端の方を自分の胴に巻いて縛った。
「クロオビ」
クロオビがハッとして振り返ると、DHがもう一本の方のロープの先端を渡してきた。
「これは……」
「一人であいつを助けに行くつもりだろ」
「……!」心を見向かれたクロオビはロープを受け取った。「……なあ、DH。一緒に来てくれる?」
「ああ。すまない、勝手にどこかに行ってしまって」
「……。いいよ、そんなの」
クロオビはそう聞いてうれしく思った。彼とならなんだってできる気がする。
クロオビは地面に落としてしまった怪少年の上着を拾って、腕を通した。クロオビは小さかったので、ぶかぶかしていた。
「よし、ゼトリクスを助けに行こう」
「ああ」
クロオビとDHは息ぴったりに走ってジャンプし、鏡の集合体の中に突入した。
鏡の集合体に入った時、あまりの光の強さに目をつぶってしまった。
気が付くと、二人は地面に立っていた。鋼鉄のように固く、長く歩いたら足まで鋼鉄のようにパンパンになりそうな地面だ。
「うわ、何だこれは……⁉」
目のチカチカが治ったクロオビとDHの前には、この世のものとは思えない地獄のような風景が広がっていた。
これ以上ないほど恐ろしい世界だ。空は血のように赤い雲が覆い、地面の所々には血が染み込んだように赤く染まっており、吐き気がするほどの汚物の臭いを放つドロドロとした紫色の沼地が点在している。それだけでなく、逆十字や名前のわからない不気味な墓石が地面から生えてきたかのように突き刺さったり、たおれていたりしていた。もっと遠くを見てみると、頭がい骨を木の実を実らせたかのように枝に突き刺していたり、首吊りのロープを気持ち悪いほどたくさん垂らした様々な不気味で恐ろしい枯れ木が乱立していた。さらに、ほんのりと腐敗臭が漂い、とても息苦しかった。
もうやだ。何よここ……。
しかし、二人の少年は、全く恐れずに友達を助けるためにその恐ろしい世界を歩み始める。
「行こう」
「ああ」
そのころ、あの怪少年ゼトリクスは……。
「ドワー!」
地獄のような世界の空中で、恐ろしく太く、紫色をしたタコのような軟体動物のような触手に捕まれ、どこかに連れていかれようとしていた! 鏡の集合体の外では見えなかったが、ここに入ってきた後、その正体を現したのだった。それはとてつもない速さで、視界にあるあらゆるものが確認できないほどの速さだった。
しかし、ゼトリクスの口は仕事を止めず、様々な暴言や文句を言い放っていた。
「ふざけんな! なんなんだよ! オレをどうするつもりだ! これから薄い本みたいな展開を始める気かよ! オレのプレイなんて誰得だよ!」
すると、触手の動きがとまり、今度は空に向かって仰向けにされ、四肢を捕まれ大の字にさせられながら空中に持ち上げられていた。それにより、自分が恐ろしい世界にいることに気がついたが、特に気にしなかった。
「わ~はっはっはっは~!」
「あっ? 誰だ⁉」
ゼトリクスが振り向いて地上の方を見ると、地面から生えてきている自分を捕まえている太い四本の触手とその隣にいる少女の姿が見えた。
全身に影を落とすほどの巨大なとんがり帽子と扇情的に改造したセーラー服という可笑しな格好。そんなことは気にならないほどとても美しい容姿をしており、目の色は赤く、左目には星の魔法陣の刺繡のしてある紫色の眼帯をしていた。
その少女は雪のように真っ白い歯をみせて、満面の笑みでゼトリクスを見上げていた。
「うわ、何だお前は⁉」
「ふっふ~ん。アタシは大魔術師、ウィザードガールよ!」
「はっ? ウィザードなのにガール⁉ ウィザードって男の魔法使いのことなんじゃないの? シンプルにウィッチとかでよくね? 名前長いし!」
「あ、確かに……。だけど、男の魔法使いって珍しいからなんかの間違ってモテそうだし、あとあと、やっぱ強い女性って感じでガールは名乗りたいし……」
「知るかよ、そんなの! まあいいや、お前がオレをこんな所に引きずり込んだんだな?」
「そうよ!」
ウィザードガールは誇らしげに、ソプラノの高い声で言った。
「何でオレをここに連れてきたんだ⁉」
「それは……」
魔法使いの少女はもったいぶるように間をおいた。
「それは、なんだ⁉ 早く言え!」
「それは、お前を生贄にしてこの魔界から脱出する魔法を開発する!」
「はぁ⁉ なんだと⁉」
ゼトリクスは魔法やら生贄やら物騒でオカルト的な用語を聞いて恐怖を感じた。
しかし、怖がっている場合ではなかった。四肢を掴んでいる触手が、ゆっくりと、まるで楽しむかのようにその四肢を引きちぎろうとしてくる!
「わっはっは! これで、魔法学校で単位がもらえる! 異界への扉の失敗もなかったことに出来る!」
「なんだ、自分の実験の失敗でここにいるのか⁉ それを挽回するためにオレの命を踏み台にすると!」
「そうだ! ありがと、アタシの人生の踏み台になるために生まれてきてくれて!」
「うわ、覚えている限り童貞のまま死ぬのはごめんだ!」
ゼトリクスはそう言ったが、どうやってこの状況を打開すればいいかわからなかった。
しかし、ふと、クロオビに羽交い絞めにされた後、言われた言葉を思い出した。
『飛べばよかっただろ』
「これだ!」
「はっ? なにがよ?」
ウィザードガールがゼトリクスの声に気づいた。
「これだ!」
ゼトリクスは全身に力を入れた。そして、それを一気にくりだした!
ゼトリクスの超能力、飛行だ。
それにより、ゼトリクスは飛び上がり、触手から解放された。
「えっ⁉」
「そして、これだー!」
ゼトリクスは天井の空をけり、ロケットのように地上に向かって発射した。猛スピードでウィザードガールに向かって、突撃してくる!
「うわあああああ、く、来るなー!」
ウィザードガールが触手で攻撃してくるが、落ちてくる怪少年はものともせず、襲ってくる触手をうち破っていく!
「くらえー!」
「わ、わぁー!」
ドォーン!!
「ふんぎゃー!」
あたりに轟音が鳴り響き、砂ぼこりと触手の破片がまいあがった。
少し前。
クロオビとDHはゼトリクスの元へ走っていた。
クロオビは幼い体を酷使していたのでひどく疲れていた。
「クロオビ、オレの背中に乗れ」
「え、だ、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない。いざという時のためだ。体力を温存しろ」
「ごめん、ありがとう」
クロオビはDHの背中におぶさった。
クロオビはDHがすっかり大きくなっていたことを痛感していた。それに比べて、自分は体が幼くなっている。精神は彼と一緒くらいなのに。
DHはクロオビの姿が幼くなっているのを痛感していた。しかし、確実に精神は成長している。そんな気がした。だが、それと比べて自分の心は変わっていない。それどころか悪くなっている気がしていた。
「クロオビ」
「どうしたの?」
「お前から離れたこと、後悔していたんだ」
「僕も君がいなくなって寂しかったよ。今まで、何してたの?」
「怪物に戻っていた」
「……そうか、僕もだよ。無茶ばかりして、こんな情けない姿になっちゃってた」
「……お互い、あんまり変わらなかったようだな」
「二人で一人前だったんだよ、僕ら」
「そうだな」
すると、遠くから爆音共に砂煙が上がるのが見えた。
「ぜ、ゼトリクス!」
「アイツは何かと戦っている。行くぞ」
「うん!」
その頃、ゼトリクスは誇らしげに、地面に伸びている魔法使いの少女を見下ろしていた。
「はっは~! 少しでもこのオレに敵うとでも思ったのか、この間抜けが~!」
「あ、あんた、なんなのよ……?」
ウィザードガールは苦しそうに頭だけあげて訊いた。
それを見て、ゼトリクスは調子に乗り、格好つけて大声で言った。
「オレは、人工知能を投げ飛ばす男……」
「ゼトリクス!」
「どは⁉ クロオビ?」
「何? あんたゼトリクスっていうの?」
ウィザードガールは、ゼトリクスが自分でカッコよく名乗れなかったのを見て笑った。
「違う! いや、違くない、そうだよ!それがオレの名だ」
ゼトリクスは開き直って腰に手を当て、誇らしげに言った。
そこへ、彼の二人の仲間が駆けてやってきた。
「ん? おお、クロオビ、DH! お前ら鏡に吸い込まれて、死んだかと思ったぞ! 無事だったか?」
「それはこっちのセリフだ! 鏡に吸い込まれたのは君だろ!」
クロオビは心配していた反動で、つい怒鳴ったようにツッコミをしてしまった。しかし、目には安心して涙を浮かべていた。
「はぁ。ありがとう、僕をかばってくれて」
「気にすんな。今日のオレはゼトリクス・ザ・プロテクターだからな!」
「そう言えばそんな事言ってたな」
「明日はゼトリクス・ザ・ガーディアンになるぜ」
「何が違うの……」
DHはそんな会話をする二人を微笑ましく見守っていた。
気兼ねなく話せる存在。クロオビのような者に必要だった者。自分が成りたかった者。凄まじい力を持っている者。自分の親の仇を許せるほど寛大で高潔な魂に釣り合う存在。
DHはゼトリクスをそんな風に思っていた。そんな彼がこの世から消えることになっていたかもしれない。
後ろで逃げ出そうとしている少女に足をかけて転ばせた。
「ふんぎゃー!」
少女は悲鳴を上げて豪快に転んで頭を打ち付けた。
すると、ポロッと、彼女の頭が外れた。
「うわっ⁉」「ぎゃ~っ⁉」クロオビとゼトリクスは思わず悲鳴を上げた。
クロオビは思わずウィザードガールを心配して駆け寄ってしまった。
「そんな、え、だ、大丈夫⁉」
「しめた!」
そう言って、ウィザードガールは瞬時に頭から体をグワッと生やすかのように再生させて小さなクロオビに噛み殺しにかかった。弾丸と同じようなスピードだった。
(あっちのゼトリクスはともかく、こっちの小さくて可愛いのならいけるだろ!)
しかし、クロオビはスッと避けてしまった。
そのままウィザードガールは地面に突撃し、頭から血を噴出したが、それも瞬時に再生した。
そして、クロオビの方を振り返ると、彼は悲しそうな表情をしていた。心配して駆け寄ったのに、裏切られた気がして悲しくなっていたのだ。それに相手もゼトリクスを食べようとした怪人とは言え女の子なので気が引けていた。
(ごめん、サイバーガール。今頃だけど)
(やめて、その顔! まだ睨まれる方がいいんだけど! それにあの攻撃を避けられるくらいなのに反撃してこないし! よし、じゃあ……)
「さっきはよくもやってくれたな!」
そう言って、今度はDHに殴りかかった。
(へっへ~! さっきは不意打ちだったしね! それに、こんな可愛い美少女、殴れるわけないでしょ!)
しかし、DHは嬉々とした様子で思い切り彼女の顔を殴り飛ばした。コンクリートにひびが入る勢いだった。
そして、彼女は血が噴き出る顔を押さえてのたうち回った。
「グー⁉ グーで殴った! 乙女の顔を! じゃあ、お前だ!」
「二回目かよ!」
ゼトリクスは襲い掛かってきた彼女の顔を思わず殴った。
「こ、この~⁉ 初対面の乙女によくも~⁉」
「ご、ごめん……」
「いや、ゼトリクスは謝る必要ないから!」と、クロオビは思わず言った。「てか、さっき散々戦ったんじゃないの⁉ 初対面とはちょっと違うだろ!」
「頭に攻撃受けすぎて記憶が吹っ飛んでんのかもな」と、DHが不気味な笑みを浮かべて面白がりながら言った。
「あ、そうか」と、ゼトリクスは彼の発言を聞いて思った。「オレも、頭に何かやられて記憶が吹っ飛んだのかな?」
「え、あ、もしかしたら、そうかも……頭を打って記憶喪失になっちゃったって話だよね? 聞いたことある。だけど、ゼトリクスが痛いと思うくらいの威力で殴ったり衝撃を与えられたりするものなんて、あるかな?」
「ふむ。ゼトリクスと同等の能力者ならあり得るかもしれない」と、DHは興味深そうに言った。「それか、ゼトリクスやこの女と言い、記憶に関する超能力を持つ者だっていてもおかしくはない」
「おお、そうか。わかったぜ!」と、ゼトリクスは言った。「ようするに、同じような超人たちをぶっ飛ばせばいいってことだ!」
「なんでそうなるの⁉ ど、どういうこと⁉」
「同じようなすごい能力を持つ悪いやつらの中に、オレの記憶とか消せるやついるかもしれないだろ?」
「え、じゃあ、ドンドンやっつけて行けば、いつか君の記憶を消した悪い人に辿り着くかもしれないって考えてる?」
「おう、そうだぜ、クロオビ! 特別な悪いやつらをやっつけて行けば、奴らの中で有名になって、オレのことぶちのめそうとするやつも出て来るだろ。その中にオレの記憶を消した奴も出てくるかもしれないぜ。類は友を呼ぶみたいな感じだ」
「君の場合は敵を呼んじゃってるよ……」
「確かにいいかもな。世界平和にもつながる。お前が有名になれば、お前の記憶を消せてなかった、あるいはまだ生きていたのかと姿を現すかもしれん」
「よっしゃ! やってやるぜ! オレは天才だ~!」
ゼトリクスは大喜びだった。クロオビは彼がそれでいいのならそっとしてあげて、出来る限りの力を貸そうかと思っていた。
(だけど、今のこんな僕に何が……)
「いてくれるだけで、アイツには励みだと思うぞ」と、DHは言った。
「え?」
「それと、精神的な要因でアイツの記憶は消えた可能性はある」
「精神的?」クロオビは思わずハッとしてしまった。「じゃあ、何か悲しいことがあってそれに耐えかねて記憶が消えちゃったとか?」
「ああ。その可能性もある」
クロオビは、思わずゼトリクスの方を見た。彼はまだ自分の天才的な考えの余韻に浸りながら、シャドーボクシングをして強風を巻き起こしていた。
元気そうだった。そんな彼が悲劇的な目に遭っていたことなど、想像したくない。
「だからアイツにはお前みたいなやつが必要だ」
「え?」
「俺のそばにいてくれた時みたいに、アイツのそばにいてやってくれ」
「……うん。君もいてくれよ」
「あ?」
「僕にも君が必要だから」
「……ああ」
こうして、地獄のような場所で地獄のような目標が決まった。
「で、ここに今まさに精神的ショックを受けている娘がいるんだけど……」
「おお、忘れてた」
ウィザードガールは三人に倒されたうえに、自分の存在を無視して話が進められたので、ショックを受けてションボリうずくまっていた。
(ああ、記憶消したいな……)
「おうおう、ウィザードガール!」と、ゼトリクスは言った。
「なんだよ!」
「お前がオレをここに引きづり込んだおかげで、目標が決まったぜ。ありがとうな!」
「……は?」
「だから、元気出せよ」
「……! う、うん」と、ウィザードガールは笑顔だった。
「心もそんなに早く回復するの⁉」
「簡単だな」
すると、DHはフッと暗い表情をして、ロープの先を見た。
「ゼトリクス、俺たちを担いでロープの先まで走れ」
「は? うお、今気づいたぜ。一瞬、拘束デートかと思ったけど、確かに道に迷ったら大変だしな」
「早くしろ、帰れなくなるぞ!」
「よっしゃ、任せろ。オレはゼトリクス・ザ・タクシーだ!」
そして、あっという間に異世界からの出口に辿り着いた。
「なんでアタシまで……」と、あまりの速さにフラフラしながらウィザードガールが言った。
「あ、なんか連れてきちゃった。悪い」
四人の前には元の世界に通じる鏡の集合体と、それを生み出したミラーガールがいた。
彼女は命綱であるロープを切ろうとしていた。
「やっぱりいたか」
「うげ、もう帰って来たのか⁉」
「ミラーガール⁉」と、ゼトリクスは思わず叫んだ。「お前のせいでここの男だが女だかはっきりしない魔法使いに殺されそうになったぞ!」
「アタシは女よ!」
「知るか! ここに閉じ込めてやる……って、あれ?」
ミラーガールとウィザードガールが、見つめ合った。
「え、もしかして、知り合い?」と、クロオビが言った。
「ミラお姉ちゃん⁉」「キャリーお妹ちゃん⁉」
ウィザードガールことキャリーとミラーガールことミラは、再会した姉妹のように泣き笑いしながら抱き合った。
「ああ、やっぱりそうか」と、DHは言った。「何となく思っていたが、血の繋がった姉妹だったか」
「え、二人とも姉妹なのか⁉」と、ゼトリクスは驚愕した。
「ああ。それにもっといるだろうな。あのような能力を持った少女がたくさん」
「マジで⁉ てか、何でそこまでわかるの⁉」
「あと、『お姉ちゃん』はわかるけど、『お妹ちゃん』ってなんだ……」
「キャリー、聞いて!」と、ミラーガールが言った。「あたし、こいつらにいじめられたの!」
「え、本当⁉」
「ちょっと待って、何ウソ言ってるんだよ!」と、クロオビは怒鳴った。
「おのれ、許さん!」
ウィザードガールは大好きな姉の言うことを本気にした。それに、例え姉の方が悪くても、姉の方に味方するつもりでいた。
「おい、ちょっと待て」と、クロオビは言った。「ウィザードガールっていうか、キャリーちゃん! 誤解だよ!」
「そうだ」と、ゼトリクスも怒鳴った。「その女の方がDHのカフェに強盗しようとしたんだ!」
「うん。君と戦いたくない。信じたくないだろうけど、悪いのは君のお姉さんの方なんだ。頼む、やめてくれ。例え悪いことをした身内を庇いたい気持ちはわかるけど、庇い続けたら彼女は悪者のままになってしまう。それに庇った君や、他の家族まで悪者だと言われて苦しめられてしまうこともある。君はお姉さんが悪者のままでいいのか? 家族を苦しめていいのか?」
キャリーは思わず真顔になって考え込むところであったが、隣にいる切ない目をした姉を見て頭をブンブンと振って道徳心と社会性を振り払った。
「う、うるさい! アタシはどんなことがあってもお姉ちゃんや家族の味方をする!」
「キャリーお妹ちゃん!」と、ミラーガールことミラは感動していた。
すると、キャリーは自分の魔力から触手怪獣を生み出して、襲い掛かってきた!
「よ~し、よく言った」
ブォー!
しかし、怪獣はウィザードガールごと倒されてしまった。不気味な笑みを浮かべたDHが懐からライターと殺虫剤を出して、火炎放射器にした。そしてその猛火をウィザードガールに容赦なく放って焼いたのだった。
「うおわあああっ⁉」「え~⁉」
ゼトリクスとクロオビは思わず声をあげてしまったが、それをミラーガールの悲鳴がかき消してしまった。
「ギャ~⁉ キャリー⁉」
「おい、俺たちを元の世界に戻せ」
「わ、わかった、わかったから……」
すると、ミラーガールはいつの間にか消えたしまった鏡の集合体の代わりに新しいそれを生み出した。
「そっちに行けば帰れるから」
「やべ、ムリ」
「おい、待て……!」
DHの静止も聞かず、ゼトリクスは新たな鏡の集合体に飛び込んでしまった。
「うはははっ! 騙されたな!」と、ミラーガールは笑った。
「え、どういうこと?」
「そっちは元のカフェじゃないよ! 今頃アイツは大変な目に遭っているぜ!」
「DH、ゼトリクスを助けないと!」
「ああ」
「え」
すると、恐れもせずに二人の少年は飛び込んでしまった。
「ちょっと、待って! 三人も入るとしばらく出せなく……」
そして、鏡の集合体はバリンと消えてしまった。
この次元を移動する力はやたらに行使できない。ミラーガールとウィザードガールが元の世界に帰るには、しばらく時間が必要であった。
「うわ~! 嘘なんてつくんじゃなかった~! どうせなら海とかマグマとかにつなげればよかった~!」
「……炎って痛い。魔法やめて化学にすればよかった……」