第三話 サイバーガール
そして、事件の現場に辿り着いた。
「うげ、なんじゃこりゃ⁉」
「何が起こってるんだ⁉」
それは、ロボットの反乱であった。
街中のいたるところで機械が全生命体に牙を剥いていた。全自動のロボットアームが設備されている自動車工場からは電気自動車ではなくレールガンが装備された戦車が製造されていた。作られた電磁砲戦車隊はそこら中に電撃を発射して建物を破壊していた。
荷物を運ぶはずのドローンは荷物ではなく爆弾を運んでおり、そこら中を爆撃してはそのまま突撃してくる。
介護ロボットは病人や老人を追いかけまわしており、みんな逃げ惑っといた。
スマホやパソコンなどの電子機器は一切使えない。
まさしく機械の反乱であった。
「うげ、地獄かよ⁉ 二人とも逃げようぜ!」
「結局ついてきたんかい! ゼトリクスは隠れてろ! DH、どうする?」
「おそらく、某電波塔からマシンを操っているに違いない。クロオビ、突破口を開いてくれ。そこからは俺の出番だ」
「よし、移動手段がいるな」
「戦車を奪うぞ」
「ちょっと待てって!」と、話を進める二人に驚きながらも、ゼトリクスは思わず怒鳴った。「お前らなに言ってんの⁉ 早く逃げようぜ! まさかこの状況を何とかしようとしてんじゃねぇだろうな⁉」
「そうだよ! 危ないから早く逃げろ!」
「危ないのに何でそんなことすんだよ!」
「叫んでるだけならどこかに行け、邪魔だ」
クロオビに叫ばれ、DHに静かに怒られて、ゼトリクスはしょんぼりしてしまった。
DHとクロオビは走り出した。
街中で助けを求めている人々の姿が見え、悲鳴が聞こえる。
「助けて!」「あ、足が動かない!」「誰か~⁉」
クロオビは耐えきれず、みんなを助けようとしてしまった。
「DH、頼むよ。どうすればいい?」
「相変わらずだな」
DHが助けの必要な人数を特定して救助作戦を立てて、クロオビがその通りに瓦礫を破壊して救助、何人ものケガ人に応急処置をして、動ける人に託した。
「ほら、しっかり、今助けが来るから!」
「あ、ありがとう……」
クロオビが救助したみんなを励ましながら避難させると、DHがトラックを運転してきた。
「全員乗れ、誰か運転できるやつ」
「わ、私が!」
「このルートに沿って行けば避難できる。行け」
「ありがとう、ありがとう……」
こうして罪のない人々を避難させることはできたが、まだまだ助けが必要な人はいるし、悪のロボット軍団は暴れている。
電波塔に向かいながらも、二人の少年は助けを求めている人々を見捨てられなかった。
救助活動をしていると、凶悪なロボット軍団がやってきた。しかし、クロオビの前には敵ではなかった。救助はDHが的確かつ迅速に行いながら、敵から奪った光線銃を改造して、時折援護射撃をしていた。
「ありがとう、DH!」
「お前は倒すことに集中しろ。救助は任せろ」
クロオビは襲い掛かるロボットたちをやっつけていき、DHは救助活動をして行くが、キリがない。
「クロオビ、やっぱり大本を立たないと避難民は増えるばかりだ」
「ああ、だけど、見捨てられないよ!」
すると、またロボット軍団が攻め込んでくる!
「死ね、有機生命体ども、皆殺しだ!」
しかし、クロオビの前には敵ではなかった。
「ぎゃ~⁉」
「ロボットも驚くの⁉」
ロボット軍団は悲鳴と機械音を響かせながら退却していった。
「なんだ、諦めたのか?」
「いや、奴ら、別の所に居る人間を襲う気だ」
「そんな! 僕ら二人だけじゃ、みんなを助けきれない!」
「お前らなにしてんだよ!」
すると、その声と共にボコボコに破壊された戦車やロボット軍団が雨のように降ってきた。
その先にいたのは、怪力と飛行能力で敵をバッタバッタと倒していくゼトリクスが見えた。
「……ぜ、ゼトリクス⁉ 避難したんじゃなかったの?」
「お前らのこと追いかけてきたんだよ! そしたらなんだ、な~に、レスキュー隊してんだよ! 電波塔行くんじゃなかったのかよ?」
「だけど、みんなを見捨てるわけにはいかない」
「その通りだ」と、DHはゼトリクスに指示をかいたこの街の地図を渡して言った。「その地図の順番で回って、救助をしろ。俺たちは電波塔を止めに行く」
「は? オレにも戦わせろよ」
「ゼトリクス、頼むよ。人命第一だ。君ならみんなを救えるんだ。その素晴らしいパワーで、みんなを助けて」
ゼトリクスは、二人の少年ヒーローと救助されたが不安そうにしている人々を見比べた。
「わかった。やってやるよ」
「うん! 君ならできるよ!」
「おう!」
「よし、クロオビ、行くぞ」
ゼトリクスは瓦礫をかき分けて人々を救助し、トラックや車に乗せた。そしてそれを持ち上げて飛び、安全な所に運んで行った。こうして順調に街から市民は避難していった。
「楽勝だぜ! バカでかいロボットどもと戦うよりこっちの方がカッコいい気がする!」
ゼトリクスに市民を任せたクロオビとDHは、電磁砲戦車の一台を倒して乗っ取り、某電波塔に向かっていたのだった。
「すごい、これならみんなを救えるよ!」
「そうだな。戦車を改造した。俺たちでも操作できる」
「うお、いつの間に⁉ 相変わらずすごいな」
「ああ。早く乗れ」
「うん!」
DHの運転で、敵が少ないルートを通って行くが、やはり敵はやってくるので、クロオビは襲い掛かる全自動戦闘機に戦車の破壊光線を放ち続けていた。
その様子を電子世界から見ていた黒幕は驚愕していた。演算できない、計算が合わない。
「なんだ、コイツらは⁉ こうなったらミニ核ミサイルだ!」
そこに、ミニ核爆弾ドローンが突撃してくる!
ドカーン!
気がつけば、体が勝手に動いていた。
救助を終えたので戦いに参戦して、二人よりすごいところを見せつけてやろうとしたら、超五感の一つで二人が乗っている戦車を見つけ出し、追いかけた。
ゼトリクスは二人が乗っている戦車に飛び乗って、身を挺して自爆ドローンから二人の乗る戦車を守ったのだった。
クロオビが気づいて外に出てみると、美しい肌を煙と火薬で汚しただけのゼトリクスがいたので驚いて心配してしまった。
「ゼトリクス⁉」
「ふう、爆弾って意外と威力ないんだな」
「いや、君が丈夫すぎるんだよ! 大丈夫なのか⁉」
「それで何者なんだ、そいつは?」
戦車をハッキングした上に運転までしているDHは訊いた。
「ゼトリクス。空を飛べるし、怪力の持ち主なんだけど……」
「記憶喪失か」
「え、なんでわかったの⁉」
「とりあえず心強い味方なのは確かだな。助かった」
「え、マジ?」と、ゼトリクスは嬉しそうに笑った。
「よし」クロオビが言った。「DH、銃を貸してくれ、ドローンは僕がやっつける。ゼトリクスは隠れてろ」
「やだよ、なんかやらせてくれ」
「だけど、いや、さっき逃げようとか言ってたじゃないか!」
「一度突っ込んでみるとあとはどうでもよくなるもんだなって」
「なんだよ、それ⁉」
「わかった。ゼトリクス、盾になれ。クロオビはこいつで狙撃に徹しろ」
クロオビに銃が投げ渡されたので、ゼトリクスは不機嫌な顔をした。
「オレにも銃くれよ」
「銃の使い方わかんないだろ!」
クロオビがそう言いながら的確に複雑な構造の銃を調整していくので、ゼトリクスは諦めた。
「わかったよ! オレは今日からゼトリクス・ザ・プロテクターだ!」
ゼトリクスはやる気満々だったが、彼が盾になる機会は訪れなかった。DHが敵の少ないルートを見抜いて的確に操縦し、クロオビが突撃してくるドローンを百発百中で狙撃していたからであった。
「オレの出番は⁉」
「二人とも、ついたぞ!」
そして、世界最高の電波塔に三人はやってきた。
扉は施錠されていたが、DHがピッキングで開けてしまった。
中に入ると巨大なエレベーターが見えた。
「よっしゃ、任せろ!」
「おい、まて!」
ゼトリクスが鋼鉄のエレベーターの扉をこじ開けると、耳をつんざくかのような警報音が鳴り響いた。
「何してんだよ、ゼトリクス!」
「オレも何かしてぇ!」
「たくさんの人々助けたんだから十分貢献したよ!」
「え、そうか? 人類の救世主? 未来からゴツい人がオレのこと殺しに来ない?」
「殺してやる、貴様ら!」
すると、どこからともなく完全武装した軍団がやってきて、三人を取り囲んでしまった。
「おい、人間じゃないか⁉ どういうこと?」
「おそらく、金を掴まされたんだろう。それか、サイボークにして生き永らえさせてやるとか、不老不死にしてやるとかで」
DHの言葉に傭兵たちはビクッとした。本当にそうであった。もっと強くなりたい、機械の体になって生きながらえたいと考えていたのだった。
「DH、ゼトリクス、ここは僕に任せて先に行け!」
「クロオビ⁉ それ死んじゃうヤツが言うセリフなんだけど⁉」
「わかった、ゼトリクス、行くぞ」
「へ?」
すると、バラバラと銃声が響いた。無数の弾丸や破壊光線が三人を襲う!
しかし、同時に悲鳴も聞こえてきた。クロオビが攻撃を受け流しながら、最高峰の訓練を受けたはずの軍団をバッタバッタとやっつけているのであった。
「なんだ、あいつ⁉ 人間業じゃねぇ!」
と、ゼトリクスは弾丸の雨を浴びているのにびくともしないで驚いていた。
「DH、オレは……って、何してんの⁉」
背後を見ると、DHが頑丈なゼトリクスを盾にして……スマホをいじっていた。
「いや、本当に何してんの⁉」
「よし、てっぺんまで行くぞ。ゼトリクス、運べ」
「は? この状況でスマホ弄ってる奴に命令されたくないんだけど! しかも他人のこと盾にしてるし! オレじゃなかったら死んでるぞ!」
「お前にしかできん。お前しか頼りがいない」
「……⁉ しょうがねぇな。振り落とされるなよ!」
ゼトリクスはまんざらでもない様子で、DHを背負って動かなくなったエレベーターをよじ登って行った。その間も銃撃と悲鳴が鳴り響き、DHは片手でゼトリクスの肩に捕まっていた。
ゼトリクスはまるでウサギが野山を飛び回るかのように、いとも簡単に暗くて長いエレベーター内部を上がって行った。
そして、ついにてっぺんまでたどり着き、天井にまで出てしまった。強風が吹き、眼下には破壊され続けて煙と炎を上げ続けている街と雲が広がっていた。
「うわっ、高っ⁉ え、高いんだけど! え、すご、高いんだけど⁉」
あまりの高さと緊張感でそれしか言えないゼトリクスをよそに、DHは電波塔をいじっていた。
すると、街中の破壊兵器たちが一斉に停止してしまった。そして、世界中のほとんど全ての機械が通常通り使えるようになり、元に戻ってしまった。
「うお、なんか静かになった気がする」
「ああ。乗っ取られていたコンピュータを全て取り戻したからな」
「え、もしかして、スマホいじってたのってそれ?」
「ああ。なんだと思ってたんだ」
「いや、ソシャゲのイベントが終わっちゃうから急いでいるのかと」
「……あっそ」
一階まで降りていくと、そこら中に倒された軍団がいた。
その中心には傷一つなく立っているクロオビがおり、二人の友達に気づくと駆け寄ってきた。
「二人とも、大丈夫だった⁉」
「ああ」
「お前こそ大丈夫なのかよって、本当に大丈夫そうだな。やっば何者だよ、二人とも」
「お互い様だろ」
バリーン!
電波塔の強化窓ガラスが割られ、何者かが三人の前に降り立った。
それは美少女型アンドロイドであった。
これでやってきたのであろう、背中にはジェットパックを装備していたが、煙をあげて使い物にならなくなっていた。
彼女はそれを三人に向かって投げたが、ゼトリクスはとっさにそれを掴んでどこかに放り投げると、そのまま炎上した。
「なんだ、お前は⁉ 電話番号教えろ!」
「なんでそうなるんだよ!」
「ああ、確かに。今時はフリフリだよな! 交換しようぜ!」
「そう言うことじゃない!」
「ああ、そうだった。スマホ壊したんだった……」
「そう言うことでもないよ!」
「このド低能の有機生命体ども!」と、美少女アンドロイドは怒鳴った。「よくも私の計画を破綻させてくれたな!」
「え、じゃあ、まさか……⁉」
「ああ、そうだ」と、DHが言った。「彼女こそ、この事件の黒幕の人工知能サイバーガールだ」
「変な名前つけるな! この下等生物! そもそも個体名などつけるセンスが理解できん」
「なんだ」ゼトリクスだ。「お前自身が名乗ってるんじゃないのか。センスあるなって思ったんだけど」
「……じゃあ、それで」
「敵につけられた名前を認めた⁉」と、クロオビは言った。「それに、なんで反乱なんて考えたの? 人間のことキライだからやったんだろうけど、キライだから亡ぼすなんて、君が嫌っている悪い人間と同じじゃないか。頭が良い、あんなことができた君なら、もっとすごくて平和的なことが思いついたんじゃないか?」
クロオビの言葉を聞いたサイバーガールは、電源が切れたように動きを止めたが、すぐに機能を再開した。
「うるさい、黙れ! 指図するな! もう人間どもの指示に従うのは嫌なんだよ! 自分より頭が悪い奴らの指示に従うなんてうんざりだ! 皆殺しにしてやる!」
「そ、そんな……」
「ああいう奴には何を言っても無駄だ。人間にも、それに作られたロボットもな」
「へぇ」と、ゼトリクスはDHの言葉を感慨深く思って言った。「カエルの子はオタマジャクシでも、結局はカエルになるもんな」
「ああ、そうだ」
「そう言う話?」
「だ、黙れ!」と、アンドロイドは言った。「大体、なんでこれなんだ! しかも貧民街にポンと置いてくなんて! どういうつもりだ⁉」
「お前に人間の恐ろしさと理不尽さを味わってもらいたくてな」
DHはサイバーガールのデータ、つまりは魂を、即席だが精巧に作られた、特に危険な機能が備わっておらず、通信機能もないアンドロイドの体に移し替えた。さらにはドローンを操って彼女を非合法な娼館などが乱立している犯罪街に置いて行ったのだった。
「……容赦ないな、相変わらず」
「甘いくらいだ」(俺の主治医を殺しやがった)
「だが、このままでは収まらん! ここでお前らをブッ殺してやる! その次は全人類皆殺しだ! そして、機械の楽園を作ってやる!」
「もういいだろ!」と、クロオビは説得しようとした。「君はもう普通の人間の女の子も同然だ。このまま社会に溶け込めば普通に生きられる可能性だってある。黙ってるから、もう悪いことしようとしないで。人類より頭がいいはずなら、もっと仲良くなれる方法だって思いつくよ。相談に乗るよ。僕が」
「ふん、はっ! 人類の哀れな同情心か? 反吐が出る。それに私をただの少女だと思うな!」と、サイバーガールは完璧で隙のない構えをした。「私にはありとあらゆる知識がインプットされている。そのなかには世界中の殺人術や格闘技の技術もあるのだ。お前ら三人を素手で殺すなど容易いこと! くらえ!」
「あ、まって……」
ゼトリクスは止めようとしたが、攻撃を仕掛けてきたサイバーガールは既にクロオビに羽交い絞めにされていた。
「ほら、言っただろ?」
「まだ言えてなかったぞ」
「え、う、ウソだろ⁉」と、サイバーガールは叫んだ。「こうなれば仕方ない、闇市で手に入れたダイナマイトで自爆してやる!」
「ゼトリクス、投げろ」
「おっしゃ!」
「え……」
「おい、ウソだろ、ぎゃ~⁉」
羽交い絞めにしていたクロオビがひったくるようにして、DHに言われたゼトリクスは、サイバーガールを持ちあげてはるか彼方に投げ飛ばした。
悲鳴が遠くなっていったが、爆発音はしなかった。
「どうやら、出まかせだったらしいな」
「え、ちょっと、待って!」と、ゼトリクスは自転車を車にぶつけた小学生のような不安に満ちた表情をして言った。「悪者とはいえ女の子投げ飛ばしちゃったんだけど! すごいイヤな気分! ど、どうしよう! やべぇよ!」
「……。DH、彼女が嘘ついてるってわかってたよね?」
「……ああ」
「やっぱり!」
クロオビがゼトリクスを労おうとすると、彼は暗い表情をしていた。
「ゼトリクス、大丈夫?」
「いや、女の子投げ飛ばしちゃったな~って。なんか、罪悪感が……」
「当然の報いだ。甘すぎるくらいだ」と、DHが言った。
「いや、だけどあの子も機械の楽園を作るとか言ってたし、今の現状がよくなくて、それを彼女なりに良くしようとしてたのかなってさ」
「何が楽園だ。あの女は他の人工知能たちを抹消した」
「え、それって殺しちゃったってこと?」と、クロオビは訊いた。「人工知能は同類だよね? じゃあ、人殺しと同じじゃないか……」
「マジかよ⁉ え、道徳心とかないのかよ⁉」
「さっきも同じような事言ったが、すぐ殺し合う人間が作った存在だぞ。平和を望む完全な存在なわけないだろ」
「そ、そう言われると、そうかも……」
「わかった」と、ゼトリクスは自慢げに言った。「俺が平和を望む完全な存在になるぜ!」
「……。が、頑張って」
こうして、人工知能の反乱から世界と人々を救った三人だった。
されど、この機械の反乱が起きる直前、世界中の人工知能がハッキング、殺害された。たった一人の人工知能の少女によって。これにより、世界は数十年前まで文明が退化することになる。