エピローグ
事件解決後も、救助や怪物から戻った街の人々を助けて回る日々がしばらく続いた。
魔女によって魔界と融合しそうになった世界は、大統領の手腕と人々の結束力もあってか、あの大事件があったとは思えないほど、傷を残しながらも回復していった。
身近な人の中にも、怪物になってしまうほどの悪意を抱え込んでいるかもしれないと知った人々は、さらにお互いのことを思いやって大事にし、協力し合って悪を正していこうと思っていた。少しでも、その思いやりという善で、悪を正せればと。
DHが経営しているカフェは、日々を頑張っている人々で賑わっていた。コーヒーも料理もおいしいし、何より、店員さんが不思議な美少女しかいない。
「待て来てニャ~!」と、ビーストガールは客を見送ったり招いたりしている。
「カードですね~。ありがとうございました~」と、レジにいるのはサイバーガールだ。(ったく、せっかくいい感じの体を持ったのに、よりにもよってレジ係かよ! これじゃあ、いつもと変わらん! てか私がウェイトレスとかやれば、もっとすぐ終わるだろって……なんで仕事の心配してんだ、私は⁉)「あら、いらっしゃいませ~」
「なんでアタイがいつも調理係なんだよ!」と、スナイプガール。
「いいじゃん、作るの美味いしさ。仕事が早くてお姉ちゃん、助かるわ~」
「お姉ちゃん、サボってないで、仕事して!」と、ウィザードガール。「サボってると、えっと、触手ちゃんにウニャウニャされちゃうよ!」
「みんながきれいに使うから仕事ない。さ~ぼろって、うわ~⁉」と、ゲームマスターガールは隠し部屋にいる触手怪獣に密かに連れてかれた。「このカフェどうなってんのよ⁉」
「コーヒー淹れるのって実験に似てる!」と、アムリタガールはノリノリだった。
「アリス、服着てね。 おれは配達に行くから、みんなもしっかりな」
カーガールは自動車と同じ速度と積載能力で、コーヒーや料理を配達に行った。
「カーガールって、そう言うことだったの」と、ボソボソとゴーストガール。
「あなた、いたの⁉」と、ウィザードガールは思わず言った。
しばらくまっとうに働かされることになったシニスターシスターズだった。
再建された大統領邸。
「大統領、お忙しいところ、申し訳ありません。その……えっと、DHさんです」
大好きな魔法少女から大好きなDHがやってきたと知って、大統領は喜んで彼を迎え入れた。
「今日はどうしたの、DH君? 二人は元気? クロオビ君とユノちゃん」
「……。二人は元気だ。ゼトリクスもな。担当直入に言おう。お前を失脚させに来た」
「……ふうん」と、彼女はDHを愛おしそうに見つめた。「今の私をこの座から降ろすと、社会情勢が大変なことになって、国中が、世界中が混乱する。そして、他のみんなに迷惑がかかるけど、どうするつもりかな?」
「ああ。だから少しずつやめたくなるようにしてやる。キッチリとお前のやるべきことを成し遂げさせたうえで、政治どころじゃなくしてやる」
「へぇ。その手に持った毛布の中に、どんな切り札を隠しいるのかな?」
「会わせたいやつがいる」
そう言うと、DHは抱いていた毛布に包まれた者を大統領に託した。大統領は微笑みをやめて、驚いたように目を見開いた。そう思ったら、本当に愛おしそうに抱きしめた。
「そいつが愛おしいか?」
「……ええ。もちろんよ、とっても、かわいい。この赤ちゃん、どうしたの?」
「先の事件の黒幕である魔女だった者だ。屈辱による精神的影響で、記憶まで乳児に戻っている。お前の力で悪に落ちないようにしろ」
「……。考えたね。これは、早く仕事を終わらせないとね。この娘のために……」
DHが黙って去ると、大統領は世界の何よりも、今まで手に入れてきたなによりも愛おしそうに、いずれ魔女となる可愛い赤子を抱きしめた。
ゼトリクス・ザ・アンノウンの異名を持つ怪少年は、路頭に迷っていた魔法少女に女体化された戦国時代の武士を助けていた。
「うお、ホントにいたぜ。よお、元気じゃなさそうだな」
「え? あ⁉ お、おぬしは……⁉ クロオビ殿との横で、巨大な野獣を投げてた方……⁉」
「……お、おう。助けに来たぜ。この時代でのこと学ぶところがあるんだ。行こうぜ」
ゼトリクスは、超人の少年少女や、この世界に迷い込んだ異世界や他の時代の者たちを支援している施設、いわば、学校のような場所に案内してあげた。
「かたじけない、ゼトリクス殿~!」
「おう! また来るぜ」
助けた武士をはじめ、友達になった絶滅動物少女や女体化旧世代人物、施設で働いている職員たちに見送られながら、ゼトリクスはまた新たに救いを求める者のところに向かって行った。
「さ~て、次のヤツはどこのどんなやつだ?」
そう聞いた相手は、彼がポケットから出した手のひらサイズのモノリスに全身が映し出されている、カノジョだった。彼女はデウスエクスマキナの影響で、他の世界や時代から迷い込んでしまった者を感知して、彼に教える役割を担っていた。
しかし、彼女はご機嫌斜めな様子で、頬をぷくッと膨らませていた。
「な、なんだよ、お前……」
「最近、全然デートしてくれない……」
「いや、だって、ほら、前のデート覚えてねぇのか? アイツ、ゲームのキャラに話しかけてんぞ……って目で見られてよ、変な心配みんなにされたんだよ!」
「ふうん。私より周りからの目の方が心配なんだ~。ふうん、ふう~ん!」プイッ。
「え、お、おい! ちょっと? も~し、もしもしもし⁉」
「ゼトリクス?」
少しの間しか離れてないのに、懐かしいと感じる声がして、思わず振り返った。
「クロオビ⁉ 学園じゃなかったのかよ? なんで、ここに、リーダーだろ?」
「いや、そうだけど、ユノに忘れ物届けに行ってたんだ。おっちょこちょいでさ……」
「おう、そうか。じゃあ、オレはまた誰かを助けに行くぜ」
「ゼトリクス! ……どうして、急にいなくなったの?」
「……」と、ゼトリクスは黙って背を向けて行こうとした。だが、我慢できなかった。「すまん。オレの正体、カノジョから聞いちまったんだ」
「……ゼトリクス⁉ ……そう、だったんだ……ごめん」
「なんで謝んだよ。オレのために、隠しといてくれたんだろ、わかってるよ。オレが聞かなかったんだ、オレが悪いんだよ」
「だけど、それで悲しいなら、余計に……。な、なんで相談しなかったの?」
「お前らに、これ以上迷惑とか、掛けたくなかったんだよ。だって、オレがこの世に存在してるせいだろ。恐竜の娘たちや違う時代のみんながこの世界に迷い込んだのも、悪い奴らが暴れてるのも。だから、その……みんなのところに、いちゃいけない気がしたんだよ……」
「ゼトリクス」と、クロオビは彼に歩み寄った。
振り返ったゼトリクスが見たクロオビの姿はやはり小さな幼児。やはりその安心させる気配は大きくて、頼りがいがあった。
クロオビを見ているゼトリクスは、やはり本当に背が高くて快活そうな美少年。だが、その気配はやはり、どこか子供らしい、漠然とした不安を抱え、影を落としている一人の少年であった。
「ゼトリクス」クロオビは自分の気持ちを言った。「いちゃいけないなんでこと、ないよ。君にいてほしいから、僕らは世界を正し続けることにしたんだよ。君が生きててほしいから。君が生まれてくれて、僕らは救われて、嬉しかった、楽しかった。幸せなんだ」
「く、クロオビ……」と、ゼトリクスは素直になりながら、涙を流して言った。「オレ、その、また、えっと、お前らと旅してもいいかな?」
「うん。もちろんだよ。……行こう」
「……おう」
ゼトリクスとクロオビは、二人で一緒に救われるべき誰かの元に向かった。
(よかったね、ゼトリクス)モノリスなカノジョはロングコートの内ポケットで喜んでいた。(大切な人が出来て。私が外に出たい、誰かに会いたいなんて言ったから、あのデウスエクスマキナから出て行っちゃったんだものね……。だけど、それは、あなたを私に束縛なんかしたくなかったからなんだ……時々それを忘れて、あなたを自分の物にしたくなっちゃう。……だから、せっかく謝ろうとしたのに、なんか気まずくなったじゃん!)
DHが大統領邸から学園に帰ってくると、予測が的中して嬉しかった。
「DH、おかえり」
「ああ、クロオビ」」
「おう、DH、久しぶり。お、おかえり……?」
「ああ、ゼトリクス。そろそろ戻ってくると思っていた」
「え、怒んないの?」
「怒ってほしいのか?」
「いや、やめてください、おねがいします……洒落にならねぇ……」
「なんだ、俺は怒らせるとお前ですら歯が立たないサイコだと?」
「どこからそんな要素出てきたの⁉」と、クロオビは思わず訊いた。
「あのバカ娘たちが俺たちをサイコとお人好しとバカの三人と呼んでいた。名前を呼ぶのも恐ろしかったようだな」
「ただ単に僕らの名前を知らなかっただけなんじゃ?」
「そんじゃあさ、オレがサイコで、お前らはお人好し担当だな」と、ゼトリクス。
「もう一人のバカはどこに行ったんだ」
「それになんで、君がサイコなんだよ……」
「なんかダークヒーローって感じでカッコいいじゃん、サイコって。よくわかんないけど」
「意味が分からないのに名乗るとは、バカか、お前は」
「てか、こんな会話してる僕ら全員が馬鹿らしいのでは?」
クロオビはそう言うと、三人は思わず大笑いした。
「うあ、ああっ⁉ 感動の再会のところ、ごめん! 大変なの!」
と、モノリスなカノジョが、ゼトリクスの懐からから飛び出して、三人の中で浮いていた。プカプカと。
「……君、飛べたの⁉」
「すげ、お前も飛べたんか⁉ 空中飛行デートできるな!」
「へへ、いいね。じゃない! それより、うわ、私、飛んでる!」
「魂が成長すると、それに応じて依り代も成長するようにした。そのうち体もできる」
「こんな所で新要素⁉ え、なんで最初からそれらしい体、作ってあげなかったの?」
「・・・・・・シニスターシスターズ」(みたいに魂に見合わない力を持たれたら困るだろ)
「……ああ、そう言うことか」(それにしても、やっぱり厳しくない?)
「で、どうしたんだよ、カノジョ?」
「みなさん!」と、キャプテン・ルミナスが飛んできた。「敵国の将軍が、独断で攻め込んできました! 協力いただけませんでしょうか⁉」
「そう、そう! これ! これを感知したの!」と、モノリスなカノジョは言った。
「わかった。二人とも、一緒に来てくれる?」
「ああ。任せろ」
「おう!」
三人は、また今日も、世界とみんなを助けに向かうのだった。