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第十二話 プレジデントとマジカルガールズ

 三人は山中を歩いていた。

「なあ、本当につくのかよ? オレが空飛んでみて来てやろうか?」

「ダメだよ、あんまり目立つことはしないで。今更だけどさ」

「いや、本当に今更じゃねぇか。つか、どうせ人工衛星とかで見られてるだろ? オレたちの大活躍」

「人工衛星はもう役に立たない。コンピュータが前ほど便利じゃないからな」

「え、マジで?」

「ああ」と、DHは続けた。「世界は少なくとも八十年代ほどにまで文明が衰退してしまった。国や地域にもよるだろうが」

「……オレって、結構ヤバいことしちゃった?」と、ゼトリクスは顔を青くした。「マジかよ、スマホとか持っててもあんま意味ない所もあんのか? めっちゃ不便じゃん!」

「ああ。今この世界ではコンピュータは電卓くらいの役にしかたたないだろうな。それもこれも全てはたった一人の人工知能の女に仕事を押し付けたからだ。だから反乱なんて起こされたんだ」

「マジか、そりゃ、アイツも怒っても無理はないな。にしてもヤバいな、オレは世界の理を変えちまったのか~……」

「ゼトリクス、また気にしてるの?」

「あ、悪いな。なんか、どうしても、何回も悪い。忘れてくれ」

「いや、だけど自分の力を自覚するのはいいことだよ。辛いことがあったら抱え込まないでまた話してね」

「おう。だけど、アイツも大変だったのかもな……」

「自分が苦しいことを言い訳にし、大勢の人にその苦しみを八つ当たりするのは悪だろ」と、DHは冷ややかに言った。「それをせめて話していればよかったんだ。お前みたいにな」

「うん、DHの言う通りだよ。誰かが彼女を止めなければならなかったんだ。そうだよ。ゼトリクス。気にしなくていいよ。君は正しいことをしたんだ」

「そうか。じゃあ、次会ったら謝るわ。あと機械も大切にするぜ」

「じゃあ、次のスマホ壊すなよ」と、DH。

「おう。つか、忘れてたわ」

「忘れてたと言えば、電話とかしたの? カノジョに? 心配してるんじゃないか?」

 クロオビに言われて、ゼトリクスは逃げていた問題を思い出して青い顔をした。

「……。つ、次に電話見たら、れ、連絡するぜ……」

「そもそも電話番号覚えてるのか?」

「……わかんね」

「だと思ったよ」と、DHはゼトリクスにメモを渡した。

「え、もしかして、番号?」

「ああ。計算して割り出した」

「マジかよ! 本当に電話しないとだめじゃねぇか!」

「スマホ壊したのと番号分からないの言い訳にして、逃げるつもりだったの⁉」

「も、もういいだろ! このことについては相談してねぇ! で、いつ頃つくんだよ? つか、本当にこの道で合ってんのか?」

「DHが間違えるはずないよ。いくつもある電話番号割り出したんだよ?」

「……いや、待て」

 いつもなら間違えない。そのはずだった。クロオビは、DHの声からいつもとは違う感覚を覚えていた。

「どうしたの? 君に限って……ま、間違えたの?」

「なんだよ、お前も間違えんのか。ちょっと見て来てやるぜ」

「待て、動くな!」

「どうしたんだ、DH。君こそ、何か悩みがあるんじゃ……」

「オレは大丈夫だ。少し待ってろ……」

 DHは思考した。その結果。時空が乱れていることが分かった。

「よし、なぜかわかった」

「一体、どうしたの?」

「時空が乱れている」

「なんじゃ、そりゃ?」

「この世界になかったはずの物が存在している。世界が混乱している。中国に通じる一方通行を通っていたはずなのに、北極点にいる。そんなことがあり得るようになってしまった。適当に今まで通りに歩き続けたら、どこに通じるかわからん」

「場所とか時間がグチャグチャになってるってこと?」

「そうだ。時間、場所、ありとあらゆるものが不規則に改変されている。今この瞬間にも起こっているかもしれない」

「う~ん。お前の脳内カーナビ更新できねぇの?」

「そうするつもりだが」

「すげ! じゃあ頼んだぜ」

「だが、もしかしたら計算が追い付かないかもしれん。二人とも、あまり俺のことはあてにしない方がいい。いざという時は、自分で考えろ」

「わかったよ」と、クロオビは言った。「僕らに出来ることがあったら相談してね」

「そうだ。共犯だからな!」

「……そうだな。頼んだぞ」

DHは穏やかな笑みを一瞬だけ浮かべた。それに気づいたクロオビは懐かしいと思い、ゼトリクスは思わずキョトンとしてしまった。


 三人の街に辿り着いた。人々で賑わう、平和な街であった。

 先ほどまでは。

「ギャオー!」「キエー!」「パオーン!」「グワーオ!」

 街中から野獣の泣き声と地響き。その次には助けを求める人々の悲鳴。

「助けないと!」

 クロオビの一声で、悲鳴の聞こえた方に向かって行ってみると、そこでは驚愕の光景が広がっていた。

 ティラノサウルスやトリケラトプスなどの恐竜が建物を破壊し、無数の翼竜が人々をついばもうとする。巨大なマンモスはその巨体と長い鼻と牙で破壊の限りを尽くし、サーベルタイガーは人々に襲い掛かる。博物館や図鑑でしか見ないような凶暴で巨大な絶滅動物たちが暴れまわっていた。原始人たちは好き勝手に徒党を組んで人々を追い回したり見たこともない獣を狩ろうとし、時代劇や西部劇にでも出てきそうな武士やガンマンたちは異種格闘技戦を繰り広げていた。

「なんじゃこりゃ! 魔法の石板でも使ったのかよ⁉」

「何が、なんでこんなことに⁉ なんでみんな、こんなに怒り狂ってるんだ!」

「時空が乱れて、それぞれの世界や時代からこの世界に迷い込んでしまったのだろう」

「そんな! にしても、みんなを助けないと。行ってくるよ!」

「ああ。救出は任せろ」

「うん!」

 クロオビはその小さな体で、旧世代の猛者たちに立ち向かいに行き、彼らを真っ青にするほどの戦闘を繰り広げ始めた。サムライやナイトの鎧を砕き、ガンマンの弾丸を避けてなんなく倒していく。さらに、倒した騎士から奪った馬に乗って戦場を駆けながら、奪った薙刀などの装備を駆使して一騎当千を繰り広げ始めた。

「アイツ一人でよくね?」

「まだ足りん。ゼトリクス、お前は恐竜などの巨大な脅威の排除を頼む」

「おう、って、お前は避難しないで大丈夫なのかよ?」

 すると、DHの背後からサーベルタイガーが襲い掛かってきた。しかし、DHは振り向きざまに巨大な野獣の頭を殴って従わせ、その背中に乗った。そして、そのまま助けを求める人々を救出しに行った。

「うお、じゃあ、オレはマンモスが良いぜ!」

 ふと建物を破壊しながらのそりのそりと歩くマンモスを見つけて、それを殴って気絶させた。

「自分で走った方が早いな」

 ゼトリクスは街の中を駆け抜けて巨大な野獣たちを持ち上げてひっくり返し、逃げ惑う人々に襲い掛かってくるプテラノドンなどの翼竜たちを掴んで地上に打ち付けて気絶させていった。

「よお、オレが進化論の到達点だ!」

 DHは人々が避難している病院などの避難所を見つけ出した。そこに計算して人がいる場所を絞り込み、彼らを避難させていった。収容できる人数も計算に入れて、人口過多にならないようにした。そして、そこで的確な指示をして連携させた。

「バリケードを張れ! 警官隊は武装して防御しろ! お前とお前、動けない者を運べ!」

「あ、うわ、あ! そんな、設備が動かない!」

「見せろ」

 すると、DHはいとも簡単に治療設備を復旧させてしまった。

「あ、ありがとう!」

「よし、続けろ。トラックは動くな。救出に行くぞ!」

 旧世代の戦士たちは、クロオビの鬼神の如き強さに驚愕していた。原始人たちはその強さに畏怖と敬意を表して降参し始めていた。

(みんな、僕を怖がってる。時代は違っても、感覚は人間のはずだ!)「みんな、聞け!」

 クロオビの声に、戦士たちは振り向いた。

「こんな戦いに意味などない! これは君たちが名誉を得るはずだった戦争でも決闘でもないのだ! 今、君たちは自分たちより弱い者たちを蹂躙しようとしている! そこに戦士の誇りはあるのか! 名誉なんて得られるのか!」

「確かに……」「その通りだ……」

「では、みんなを助けて、名誉を取り戻すぞ! 僕に続け!」

 戦士たちも雄たけびを上げてクロオビに続き、旧世代の人々はこの時代の人々に償いを込めた救助活動をし始めた。

 ゼトリクスが両手に凶暴なティラノサウルスの尻尾を掴んで振り回し、目を回して気絶させていると、とてつもないものが目に入ってきた。

 山の向こうに天高く、宇宙空間まで達しているのではないかと思われるほどの巨大な、ロリータファッションの幼女の姿が見えた。

「うお、なんじゃありゃ、すげぇ! 下から見たら丸見えじゃねぇか!」

「何言ってるの⁉」

 安心する声が聞こえた方を見ると、クロオビとDHが、借りてきたホバーバイク乗ってやって来ていた。DHが運転してクロオビが背中に掴まっていた。

「おお、DH、クロオビ! 街のみんなは?」

「全員避難させた」

「昔の人々も話したらわかってくれたよ」

「わかったっつうか、分からせたって感じじゃね? 力で」

「そ、そうだね、確かに……」

「で、DH、あれ何? 人助けしたご褒美か? オレもっと等身大で同い年くらいがいいんだけど?」

「そりゃそうでしょ! てかご褒美ってなんだよ! 誰からのなの⁉ 神様からのか⁉」

「いや、あれ自体が神だ」と、DH。「人間が造ろうとした神だ。デウスエクスマキナだな」

「人間が作ったの? あ、あれを⁉」

「その通りだ」

「おい、なんか来るぜ!」

 ゼトリクスが警戒して気絶したトリケラトプスを投げようと持ち上げるが、その時には頭上の絶滅動物は煙と共に消えてしまった。

「だ、誰だい、君は?」

「ワタシはキャプテン・ルミナス。この世界に迷い込んだオーパーツの回収協力、感謝いたします」

 三人の少年の前には、魔法少女がいた。

 彼女だけではなかった。街にはたくさんの可愛らしいデザインをしたステッキを携えている、これまた様々な装いをしたフリルやリボンのついたロリータ風の服装をした夢のように可愛らしい少女たちがフワっと舞い降りて来ていた。

 その魔法少女たちがこの時代には存在しない者たちにステッキを向けると、先ほどのトリケラトプスのように紫や青などのキラキラとした不思議な煙に包まれて消えてしまった。

「DHさん、クロオビさん、お友達の方も、ご同行願います」

 目の前の魔法少女がステッキをクルクルと振るうと、三人の少年たちは街から姿を消してしまった。

 残された人々はお礼を言おうとした。しかし、誰に感謝しているのか忘れてしまっていた。さらには、この街で何が起こっていたのかも。破壊されたはずの街も、一生忘れられないような人々の心の傷も、跡形もなく元通りにされていた。

 そう、魔法みたいに。


 ゼトリクス、クロオビ、DHの三人組少年ヒーローは、魔法少女たちの可愛らしい城の一室に軟禁されていた。

 その部屋は家具から窓枠、柱や壁紙、全てが少女趣味で可愛らしいデザインをしており、場違いな気がして居心地が非常に悪かった。

「……。どう、DH?」

「出られんことはない。が、奴らが問題だ。計算を超越した魔法を使えるようだからな」

「そうか……。あの娘たち、悪い子ではなさそうだけど、どうなるのかな、僕ら?」

「オレたちをこんな退屈な所に閉じ込めたんだぞ? 碌な奴らじゃないぜ」

 そう言うゼトリクスは、備え付けてあった鏡のようなテレビで魔法少女アニメを楽しく鑑賞していた。そばに椅子もあるのに立って見ている。

「すごい満喫しているように見えるけど⁉」

「これ見始めると止まらないな、二人も見ようぜ」

「君が楽しいのならいいよ……」

 すると突然、魔法少女が三人の前に、パッと現れた。

「クロオビ様、DH様。お待たせいたしました。大統領がお呼びです」

「だ、大統領⁉ ここ、どこの国なの⁉」

「え、オレは?」

「ゼトリクス、お前はよく耳を澄ませてアニメ見てろ」

「は、なんじゃそりゃ……」

 すると、跡形もなくクロオビとDHはパッと消えてしまった。

「はぁ⁉ おい、オレは⁉」


 二人は、謁見の間に移動させられた。そこも少女趣味で溢れていた。

 その可愛らしい部屋には、不釣り合いなパリッとしたスーツを着た美女がいた。彼女が大統領であった。

 彼女は二人の姿を見ると、嬉しそうな微笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

「ありがとう」と、大統領は透き通るような声で言った。「私の失態の後始末に協力してくれて。あれは世界改変装置デウスエクスマキナ。私が学者たちに作らせた女神様なんだ。だけど、願いを聞き届けてくれなかったみたい。それで時空を超えてあんなのがいっぱい来ちゃったんだ」

「世界改変装置? な、なんだ、それ……」

「文字通り、世界を変えてしまう機械だ」と、DHは暗記したように言った。「常識も物理法則もな。いわば、この世に顕現された願いを叶えることができる神の力だ。この世界が一冊の小説だったとする。様々な文章で構成されている。その文章を好き勝手に塗りつぶして消したり、書き換えたりできたら? 内容が全く変わってしまい、整合性が取れなくなる。物語、すなわち世界が破綻する。世界が混乱に陥る」

「な、なんでそんなとんでもないものを……?」

「それはよくわかっているはずだよ、クロオビ君。君が望んでいること。この世界から悪を消し去ること。災害、戦争、飢餓、病気、そして、犯罪。ありとあらゆる悪を」

「悪を、消し去る? そんなこと、できるのですか?」

「やろうとした。だけど、この通りできなかったの。いまだに悪は存在する」

「むしろ悪くなっているぞ。そうか、それでか」

「なにかわかったのか、DH?」

「サイバーガールにあの不完全な女神を制御させようとしたのか?」

「そう。私が作り出した人工知能。世界のあらゆる情報と技術を管理するためにね。彼女に私の発明した理論を組み込んで、学者たちに作らせて、サイバーガールを宿らせた。だけど、彼女には荷が重すぎたみたい」

「それはそうだよ!」と、クロオビが言った。「世界を思い通りに出来る力なんて、誰にも相応しくない。そんなものを彼女に管理させるなんて……荷が重すぎる」

「うん。あれに期待し過ぎたみたい」と、大統領は冷静に言った。「これから改変する世界について教えた結果、自我に目覚めて反抗期になり、制御を失った。あの女神の魂の部分。彼女には凄まじい力を持つあの器に耐えきれなかった」

「そして、デタラメに世界は改変された結果、今のこの世界になった」

「じゃあ、あそこにいた恐竜や旧世代の人々は、僕らの身勝手な願いのせいで……」

「同じくらいに責任を感じてくれて、嬉しいな。クロオビ君」

 大統領は小さなクロオビに歩み寄って頭を撫でようとしたが、クロオビは生理的に後ずさってしまった。

「それこそ、君が好きな理由。悪を滅する。すべての国民、人類の夢。私の夢。そして、君たちの夢。すごく、とっても高潔で綺麗な魂の持ち主。神の力を持つのにぴったり。あなたのその魂なら、デウスエクスマキナの力を操れる。世界を変えられる」

 クロオビはなんと返答したらいいかわからなかった。ただ困惑していた。

「それで、俺はあの女神を制御する頭脳になれと?」

「そうだよ。DH君。人類の英知を結集した高度な人工知能も、優れた演算能力を持つだけの機械。君のような人工知能を越えた、世界一の知能が、あの女神の頭脳になる。そう、君たち二人がいれば、今のひどい世界を滅ぼし、世界から悪を滅ぼすことができる」

 DHは黙り、窓の向こうに見える巨大な女神を見た。

「間違ってる」と、クロオビは言った。「滅ぼす、滅ぼすって。悪は滅ぼすものじゃない、正すものだ。殺人犯は殺す、気に喰わない国には戦争を仕掛ける、気に喰わないから殺す。そう言ってるのと同じだ。なんで悪くなったのか、考えて寄り添わないと。もっといいものが生み出せるかもしれないじゃないか」

「それができなかったから、頑張って強くなったんでしょ?」

「……⁉ だけど、だけど……」

 クロオビにもわかっていた。きれいごとでは解決できないこともあると。それを正すために、強くなった。どんな悪者も倒せるくらいに。それしか、自分にはできなかったからだ。

「ただの言い訳だろ」と、DHは冷ややかに言った。「国のために悪を滅する。大統領のような立場の人間なら、それらしいとも思える発言だな」

「え、どういうこと、DH?」

「この女の話は聞く必要ない。コイツは自分のことしか考えてない。この基地、そして自分が従えているふざけた格好と装備の兵士たち。全部コイツの趣味で溢れている。大統領になったのも、自分の欲を満たすため。あの女神を作ったのも、自分の思い通りの世界にするためだ」

「その世界が、悪のない世界なんじゃ……」

「コイツは嘘をついてるんだ。悪を滅するどころか、呼び込んだ。わざと」

「な、何でそこまでわかったの?」

「今まで俺たちが戦ってきた相手たち。サイバーガールをはじめとする超人的能力を持った少女たち。あいつらが暴れていた時、コイツは魔法少女たちを寄こさなかった。好きなんだろ、超人的能力を持った美少女の悪人が。そして、そのような存在がこの世には存在しないから、違う世界から盗むことにした。その反作用でも、何人か、お前の好きなような美少女たちが生まれたんだろう」

「つまりは、わざと、あの娘たちを、暴れさせてたってこと?」

「うん、そうだよ」大統領はフッと笑った。「私は可愛いモノと悪いコトが大好き。だけど、恐竜とかサムライとかは興味ないんだ。だから、消したの」


 ゼトリクスは耳を澄ましてアニメを見ていた。

「『して』じゃなくて『せば』じゃねぇか、題名。DHでも間違えることあんだな」

 すると、アニメの音声以外の、周りの音まで聞こえてきた。何人もの魔法少女たちの足音。さらに耳を澄ましてみると、魔法少女たちのとんでもない会話が聞こえてきた。

「恐竜たちはどうするの?」

「えっとね、擬人化ミストで恐竜少女に改造しちゃおうよ。可愛くすれば大統領も喜んでくれるでしょ」

「いいね。じゃあ、ガンマンやお侍さんたちは?」

「女体化ガスで女の子にしちゃおうか。イケメンやカッコいいおじさんたちもいいけど、やっぱ美少女の方がいいよね」

「いいね、そうしよう! 男でいるより女でいる方が得だし」

 ゼトリクスはしばらく真顔になった後、思考を再開させて恐怖を感じた。

「可愛ければ何でもいいと思うな!」

 ゼトリクスは気がつけば、壁をドカンと破壊して、二人を助け出そうと駆け出していた。

「今行くぜ!」

 すると、彼に向かって不思議な青い光線が放たれて、吹っ飛ばされた。

ゼトリクスは凄まじく不快な、そして生まれて初めてと言っても過言ではない感覚を腹に覚えた。

「ぎゃ~⁉ なんじゃこりゃ⁉ ぎゃ~⁉」

 異世界の技術である魔法光線。核シェルターも容易に破壊し、無限に撃つことができる。ゼトリクスにそんなものを放った魔法少女は、相手が死なないので驚いていた。

「え、し、死なない⁉ なんで⁉」

(コイツが痛みってやつか⁉)ゼトリクスはあまりの苦しみに悶えた。(こんなひでぇ仕打ちするような奴らにいつもあいつら挑んでたのかよ⁉ つか、オレですらこんななのに、アイツらはもっとヤバいんじゃねぇか!)

「うわああああっ⁉ 助けねぇと!」

 ゼトリクスは二人を助け出そうと焦りながら駆けだした。

「おい、動くな!」

 魔法少女の一人が凶器のマジカルステッキを向けてきたが、ゼトリクスは恐怖を感じながらも立ち向かおうとした。

「うるせぇ! どけ!」

 しかし、相手は彼女だけではなかった。ポン、ポン、ポンと、魔法少女が煙と共に現れて、反逆者のゼトリクスを排除しようとステッキを向けてくる。

「あ、すいませんでした!」

 ゼトリクスはキーッと急ブレーキをかけるように止まって引き返し、背後から襲ってくる魔法光線から逃げ惑った。

「うわ~⁉ 二人ともどこだよ!」

 そして、やたらめったら走り回って飛び回り、逃げ惑いながら、可愛らしい城を破壊していった。

「なに、あいつ⁉ 破壊神か!」「追おう! 諦めちゃダメ!」

 魔法少女たちは逃げ惑うゼトリクスを追って行った。


 その頃、大統領執務室。

「じゃあ、あなたの野望のために、僕らを利用しようと……?」

「違うよ、クロオビ君。君たちが好きだからだよ」

「は⁉ な、何を……」

「クロオビ君は頑張り屋さんのいい子で可愛いし、DH君も不憫で可愛い」

 すると、大統領は机の引き出しを開けて、中から部下の魔法少女たちが操るステッキを出してきた。

「私、幼い頃は何もなかったんだ。家族も家も。飢えていたの。色んなものに。同じクラスの子がね、魔法少女の杖のおもちゃを自慢してたんだ。私はそれが欲しくてたまらなかった。だけど、そんなお金ない。そんなお金を手に入れることもできない。それがきっかけだったのかな。だから、いろんなことをがむしゃらに頑張ったんだ。いっぱい勉強して、努力した。それで今こうやって世界一偉い人に成れた。おかげで、色々な物を手に入れることができた」

「だけど、あなたは、その、努力したし、頑張ったと思う。だけど、それで得た力でみんなに迷惑をかけるなんて……おかしい。それに……」

「そんな力があったら、自分のような恵まれない子供たちに何かあげたらって考えた?」

「……⁉」

「可愛いね、クロオビ君。だけど、そんなこと少しも考え付かなかったよ。羨ましい。そんなに誰かのことを思える心。……欲しいな、その心」

 クロオビは、底知れない恐怖を感じていた。身動きが取れない。彼女は権力を持っただけのただの人間。倒そうとすればここで倒せる。だが、体が動かせなかった。

 そんなクロオビをDHは庇うようにして、大統領の前に立った。

「DH君。可愛いね、やっぱり。本当はすべてを壊したくてたまらないんだよね? なのに、こんなに無理して頑張って、ヒーローになろうとしてさ。クロオビ君とは仲良しでいたいもんね」

「この強欲の権化が。お前に俺たちの何がわかる」

「クロオビ君は素直でわかりやすいから、よくわかるよ。可愛い。けど、あなたはわかりにくかったな。誰にも心を開かなかったんだもん。ひねくれちゃって可愛い」

 DHは、なぜ大統領が自分たちのことを知った気持ちでいるのかわかった。

「セキを作ったのもお前か。彼を通じて俺のことを知った」

「うん。頑張ってたね。珍しく人に頼ることにして、精神科に通って。クロオビ君やみんなに釣り合うような、真人間になろうとしたんだよね? だけど、変わらなかった。変わってくれなくてよかった。そんな君が好きだよ。私も、ありのままのあなたのこと、愛せるよ」

「……死ねよ」

「DH、ダメだよ! 君らしくない」

 その時であった。

 ドカーン! と、その部屋の壁が破壊された。

 ゼトリクスが、二人を助けにやってきたのだった。クロオビはハッとして驚いたが、DHは不敵な笑みを浮かべていた。

「おお、やっと見つけたぜ!」と、ゼトリクスは叫んだ。「ここはヤバい! 早く逃げんぞ!」

「ゼトリクス⁉ 来てくれたの⁉」

「おう、そうだ! 逃げるぞ!」

 ゼトリクスはそう言うと、クロオビとDHを担いで窓を突き破り、巨大な女神の方へ飛び上がって行った。

「大統領! お怪我は⁉」と、魔法少女たちがやってきた。「も、申し訳ありません」

「とてつもない勢いでして……」

「それに、魔法が当たらなくて……」

 頭を下げて、顔をあげると、彼女たちはあまりのことに驚愕した。

「……大統領?」

 大統領はいつも微笑みを絶やさなかった。だが、今は真顔で赤面していた。

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