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第十話 シニスターシスターズ

 その頃、ウィザードガールは工場だった場所に突き刺さっていたが、何とか起き上がった。

「いててて……死んだけど復活したわ……」

「キャリーお妹ちゃん!」

 と、ミラーガールことミラが頭だけミラーゲートから出して話しかけてきた。

「うわ、ミラお姉ちゃん⁉」

「あいつら、ぶっ殺してきた⁉」

「いや、無理。追いかけてはいるんだけど、なかなか……」

「そうか~……。だけど、あなたはすごい魔法使いなんだからきっと出来るわよ!」

「そうかな~。てか、ミラお姉ちゃんもこっちに帰ってきなよ。一緒に戦えばきっと倒せるよ」

「……ムリ」と、ミラーガールは涙目で言った。「やだ、アイツら、怖い……アタシは、勝てない……」

「み、ミラお姉ちゃん……」

「ごめんね、情けない姉で……」そう言って、彼女はまた魔界に引き籠ってしまった。

「ミラお姉ちゃん⁉ あ、ああっもう! お姉ちゃんをこんなにするなんて! アイツら、許さん! 絶対ぶっ殺してやる!」

 そう張り切って三人の少年を追って走り出したウィザードガールであった。

「待ってて、ミラお姉ちゃん~!」


「な、なんで核ミサイルなんかが……しかもおれたちが作って売ってたヤツ!」

 魔術師の少女が去った工場には、瓦礫をかき分けて何かを探している少女カーガールがいた。

「車はまた作ればいい、だけど、だけど、アンタだけは……」

 すると、瓦礫の下からうめき声が聞こえてきた。カーガールはハッとして、瓦礫を押しのける手を早める。

「み、見つけた! やった~! よ、よかった~!」

 そう言って彼女が掲げ上げて抱きしめたのは、目を回している美少女の生首であった。いや、美少女アンドロイドの生首であった。頭だけになったサイバーガールであった。

「サバ子、サバ子~! よかった、生きてたんだな~!」

「や、やめろ、抱きしめるな、離せ!」

「おれ、アンタがいなかったら……」

「ああ、また新しい発明ができなくなるんだろ? ったく、人類はすぐ利益を追求する」

「違うよ! アンタが大切だからだよ!」

「ま~た、訳の分からないことを! 余計に人類じみてるじゃないか」

「それでさ、何があったかわかる?」

「今さっき計算したが、あれは空中で無理やり軌道を変えられたようにしか思えん。恐らくは能力者の仕業だろうな」

「そうか……はあ、おれがもっと早く何か作れればな~」

「また、失敗するとすぐ落ち込む。これだから人類は……過ぎたことは仕方がない。また工場から作るぞ」

「うん。計算とかはお願いね」

「ああ」

 カーガールは倒されて頭だけになったサイバーガールを拾って、彼女のアドバイスの下、様々な兵器やマシンを発明して生計を立てていたのだった。様々な兵器や道具を闇市場に売っていた。スナイプガール強盗団の武器、ゲームマスターガールの爆弾首輪などの設備、ウィザードガールの魔法道具……。

 カーガールは殺人マシンを作ることに理解を示してもらえてような気がして嬉しかった。それ以上に友達と思えるような存在が久しぶりにできてうれしかった。

 サイバーガールは自分の思う通りに動く人間ができて嬉しかった。今まで指示だけ与えてきた人間に、今度は自分が指示を与えて自分の仲間の機械を作り出させている。しかもこの世界を破壊させるための物を。とても愉快な気分であった。

 二人は安アパートに帰って来ていた。

「ねえ、サバ子の体、おれが作ってあげようか?」

「なんで? お前に何の利益があるんだ? そんなことに時間を使っている暇があったら、お前の好きな新しい発明に使えばいいだろ」

「だけど、おれ、サバ子にはお世話になりっぱなしだしさ~」

「本当に人間は訳が分からん。恩を返すだの、奉仕するだの……」

 ピンポーン!

「なんだ? 客か?」

「え? 友達なんてアンタだけだけどな……」

「寂しいやつだな」

「え、なんだろう、詐偽?」

「あけて! メルセデス! お願い、アンタに会いたかったんだよ!」

 聞き覚えがある声だと思ってドアスコープ越しに外を見てみると、玄関の外にいたのはポイズンガール、ちがう、アムリタガールであった。

「うげ、アリス⁉ なんでここに⁉」

「なんだ、いるじゃないか」(なんだ? なぜか悔しいぞ?)

「ど、どうしよう、サバ子のこと、隠さないと……」

「だ、誰かそこにいるの⁉」と、アムリタガールは泣き崩れた。「ひどい、新しい友達は中に入れるのに、アタシのことは中に入れてくれないんだ!」

「ちょ、ちょっと、待って……サバ子、ど、どうしよう! 死んだと思ってた元カノ生きてた! どんな顔して会えばいいの」

「知るか。気まずいなら追い返せばいいだろ!」

「そ、そんな……非情な……」

「それにいつのカノジョだ?」

「えっと、幼稚園?」

「いや、本当にいつのだよ! もう他人も同然だろ。それに私のこと見られたら大変なことになりかねん」

「だ、だけど……」

「お願い、一目でいいから会わせてよ~!」

「うう……ご、ごめん、サバ子!」

「うわ、何をする⁉」

 カーガールは、頭だけのサバ子ことサイバーガールをボロボロのタンスの中に隠した。

 アムリタガールは壁に寄り掛かってB級映画のDVDを見つめていた。

「アンタはアタシとゾンビ映画見るんだよ……一緒にゾンビを愛でるんだよ……ゾンビを補給しないとまた暴走して少年院に入れられちゃうよ……ううっ、もう戻りたくない……」

「わかった、わかった、ほら、入って!」

 すると、アムリタガールはピョンと飛び上がって、さっきまでの泣き崩れた顔から嘘みたいにパッと笑顔になった。

「ありがと! メルセデス! 一緒にゾンビ見よ~」

「本当に好きだな……」

 サイバーガールはタンスの中で扉越しにアムリタガールの声と足音を聞きながら、それを元に計算をしてどんな外見の少女なのか突き止めていた。そして、膨大なデータの中から彼女が何者かを特定した。

「へ~、かわいいじゃんって、こいつ、有名なマッドサイエンティストじゃないか!」

 すると、何かにガジガジと噛まれた。ネズミであった。

「ギャ~! 何するんだ、この下等生物!」

「ちょ、サバ子!」

「え、なに、ゾンビ⁉」

「そんなわけないだろ! も、もういいや……」

 カーガールはタンスを開けて、中でネズミに噛まれている新しい友達を紹介した。

「よ、よお」

「えっと、アリス。紹介するね。新しい友達のサバ子……」

「うっわ~⁉ 生首がネズミに食われてる!」

 すると、アムリタガールは恐怖のあまり部屋中を逃げ惑い、暴れ始めた。

「ちょっと、待って」と、カーガールは彼女を落ち着かせようとした。「なんでゾンビ好きなのに生首はダメなんだよ!」

「生首もダメだけど、ネズミもダメなの! なんで二つも同時にあんの⁉」

「ネズミがダメって、アンタ、マウスで実験してんじゃないの? って、うわ、何だこのネズミ! サバ子から離れろ! 何でサバ子も言わないの!」

「言ったわ! それにお前がここに閉じ込めてこうなったんだぞ!」

「ご、ごめん……」

「え、いや、え……⁉」と、アムリタガールはやっと幾分か落ち着きを取り戻し、生首をよく見た。「ちょ、これ、え⁉ サイバーガールじゃん! 人工知能の反乱起こした! すごい、すごい! この国のネットワークとかコンピュータとか全部あなたが管理してたんでしょ!」

「おう、その通りだ」と、サイバーガールは得意げだった。「今もネット環境さえあればこの情報社会を支配できる。世界中のありとあらゆる情報を仕入れることができるぞ」

「え、すごいじゃん、メルセデス! 世界征服も夢じゃないよ!」

「そ、そうだけどさ、アリス。このことは内緒にね。サバ子を狙っていろんな奴らに狙われたら大変だしさ」

「うんうん! 一緒にゾンビと殺人自動車で世界を埋め尽くせるね! それはそれとしてちょっとトイレ貸して~」

「う、うん」

 アムリタガールがトイレのドアを閉めると、カーガールことメルセデスは溜息をついて座った。

「久しぶりに会ったけど、やっぱ楽しい子だな~」

「なんだ、また付き合いたいのか? 一度別れたんだろ?」

「別れたっていうか、その、離れ離れになったんだよ。引っ越しちゃって……」

「普通な理由だな。それで、あの娘、信頼できるのか?」

「当たり前だよ。アリスだよ。おれの恋人だよ?」

「元、だろ。一応見とけよ」

「見とけよって?」

「私がどうなってもいいのか?」

 カーガールは怖くなって、トイレのドアを開け放った。

 見てみると、トイレの壁を自分の能力で生成した硫酸で溶かして、アムリタガールは逃げ出していた。サイバーガールの存在を誰かに伝えるため。

「……⁉」

「ほらな」


 ゲームマスターガールはスランプになっていた。金儲け出来て暴力衝動の発散になる素晴らしいデスゲームも思いつかない。

「くっそ、こうなったのもあの三人のクソ野郎どものせいだ! よし、まずは奴らをぶっ殺してやる! そうすれば私もスランプから解放されるはずだ!」

 しかし、真っ向から戦って勝てるわけがない。自分は考える側なのだ。実行する側ではない。体を動かすのは得意ではない。

「というわけで、お前の力が必要だ!」

「……面会でいうか?」と、面会室のガラスと電話越しにスナイプガールは言った。

「頼むよ、幼馴染だろ? 殺人計画に協力してくれよ! アイツらマジでぶっ殺してやる! 殺す殺す殺す!」

「やるよ、お前の頼みならな! だけど、こんな所でそう言うの言うな! 興奮しすぎて変なテンションになってるぞ」

「おお、すまんすまん、つい……」

「だけど、再審するにも保釈するにも、裁判官を買収するにも、どちらにしろ金が必要だ。お前金ないだろ、だからデスゲームやろうとしてるんだろ?」

「ちがうよ、デスゲームしたいから金稼いでるんだよ」

「……。まだそんなの考えてたんか……」

「まあ、金の方は任せておけ! お前を釈放してやる」

「どうする気だよ?」

「まあ、任せとけって! ギャハハハハハっ!」

面会終了。

「アイツ、やっぱ変なテンションになってる」


「と、言うわけなんだよね!」

「……で?」

 ウィザードガールは突然自分のキャンプにやってきたアムリタガールに、サイバーガールの存在を教えられていた。

「……で? って……何?」

「こっちのセリフだよ! テンプレの志望理由を答えた後にさらに理由求められた時の就活生みたいな反応すんな! てか、魔法使いのアタシにそんな科学の叡智の生首のこと教えて何になるの、どうすればいいんのよ!」

「いや、その、なんか、いい方向にいくかなって……」

「後先考えないで行動しないでよ! そんなだからゾンビ事件失敗するんだよ!」

 すると、アムリタガールは泣き出してうずくまった。

「な、泣かないでよ、アタシが悪者みたいじゃん……」

「え、あなた悪者じゃないの?」と、アムリタガールはガバッと顔をあげて驚いた顔をした。「え、あなた、女の子改造して世界中に知れ渡った魔女様じゃないの⁉」

「違う! あんなお婆ちゃんと同じ……だなんて、えへへ~」

「な~んだ、違うんだ。じゃあいいや」

「いいやってなんだよ⁉」と、ウィザードガールは泣き出しそうになった。「なんだよ、ちょっと嬉しがっただけじゃん! 憧れの人と間違われてさ! そうだよ、アタシは姉のことも励ませないダメな魔法使いですよ……」

(めんどくせ、メルセデスと生首のところ行~こ)

「ダメなんかじゃない!」

「お姉ちゃん⁉」

「ぎゃあっ⁉」

 何もない所から鏡が現れ、その中からさらにミラーガールが現れてウィザードガーㇽに抱き着いたので、アムリタガールは転んで頭を打った。

「ごめん、ごめん、キャリー。あなたをそんなに追い詰めてたなんて……」

「お姉ちゃん……」

「あいつらの首なんてもういいから、もうすぐテストでしょ? だから、今はあなたのためのことをやって? ね? お金のことはいいからさ……」

「う、うん、ありがとう、お姉ちゃん!」(うわ、テストだ! せっかく忘れてたのに……だけど、頑張って強盗してくれてるもんね、お姉ちゃん。アタシも頑張らないと……あ)「ちょっと、待ってお姉ちゃん! 学費大丈夫かも!」

「え、どうして?」

「この子がお金になりそうな生首のこと……」

「この子って、ここで血流して倒れてる子?」

「え?」

 見てみると、アムリタガールが頭から血を流して痙攣していた。

「うわ~! 生首が~⁉」

「大丈夫よ、まだ繋がってる!」

「びょ、病院、病院!」

「お姉ちゃんに任せなさい!」

 すると、ミラーガールがミラーゲートを作って彼女をその中に放り込んだ。

「よし、これで殺人罪にはならない!」

「ちょっとお姉ちゃん⁉」


 その頃、スナイプガールはカウンセリングの治験を受けていた。人工知能カウンセラーのモノリス、セキとの対面である。セキには仏頂面で胡坐をかいた自分の姿が鏡のように反射して写り込んでいた。

(アタイの眉毛ってこんな太かったっけ?)

「どうぞ、あなたのことを教えて」と、機械音でセキは言った。

「……これ、やる意味あんの? やっぱ人間の方がよくね? せめて人型にしろよ」

 すると、モノリスの中から人、血を流したアムリタガールが出てきて、スナイプガールを押し倒した。その虚ろな表情から顔に血がしたたり落ちる。

「ぎゃ~っ⁉ ゾンビ!」

 スナイプガールはモノリスから出てきた少女を突き飛ばした。

「え、ゾンビ⁉ どこ?」と、アムリタガールは頭から血を噴出させながらパッと起き上がった。

「お前だよ! なんだ、お前!」

「ここ、どこ?」

「少年院の病棟だが?」

「……いや~! もうこんな所やだ!」

 すると、アムリタガールは無から鋼鉄おも溶かす超強酸を生み出して、次々と壁を溶かしていった。

「え、う、ウソだろ! マジか! ぐへへへ、ちょ、ちょっと待て!」

 しめたと思ったスナイプガールは、アムリタガールを追いかけた。

「こんなところやだ~! あっ……?」

「撃て!」と、警官隊に銃を向けられ発砲される。

「ふん!」

 スナイプガールが弾道を変えて、警官隊の足や手を撃ち抜いて動けなくしてしまう。

 そして、彼らから装備を奪って完全、いや、かなり過剰な武装を施したのだった。

「よし、クソザコ税金泥棒どもいっちょあがりぃ! 雨の日のたびに痛くなる後遺症を楽しみに生きな!」

「だけど、あなたも払ってないよね?」

「もちろんだ!」

「ギャハハハハハ!」「アハハハハハっ!」

「けど、すごい! ありがとう!」と、アムリタガールは感動した。

「気にするな、脱出するぞ!」

「うん!」

 アムリタガールとスナイプガールは面白おかしく刑務所を破壊し、罪のない警官たちを苦しめて傷つけ周り、ついに……脱獄した。

「ギャハハハハ!」「ア~ハハハハハっ!」

二人が出てくると、刑務所が爆発し、炎上した。木っ端みじんに破壊され、黒煙が上がっていた。

「やった~! 脱出したぞ~!」

「わ~い、大炎上だ~!」

 二人は抱き合って喜んだ。彼女たちにとっての地獄を脱出、いや、崩壊させ、これ以上ないほどの絶頂の悦に浸っていた。


 そのころ、ウィザードガールとミラーガールは巨大カジノでバニーガールに化けて潜入していた。

「お姉ちゃん、しっかりミラーゲートの先考えてから作りなよ……」

「ごめんって。今度から気をつけるから」

「まあ、いいけどさ」

「さ~て、ここからどうやって強盗してやろうかしらね~。徹底的に調べつくすわよ」

「何か、強盗のコツとかある?」

「う~ん。やっぱりこうして下見しておくことと、常に学び続けることね。前に強盗に入った時は、客も店長もヤバかったからな~」

 ミラーガールはDHのカフェに強盗してコテンパンにされたことを思い出して身震いした。しかし、そのおかげで、学校での異界に通じるゲートの実験中に行方不明になった妹と再会できたので、悔いはなかった。

「じゃあ、そこから学ぶのは、警備とかだけじゃなくて、客とかもよく観察するってこと?」

「え? あ、そ、そうね! あと一番大事なのは後悔しないことよ!」

「なるほど~」

 ウィザードガールはさっそく客を観察してみようと周りを見渡すと、血眼でパチンコのスロットを回しているゲームマスターガールが見えた。

「行け、行け、行け~!」

(ああいう大人にはなりたくないな~……)

 ウィザードガールが冷ややかな目で見ていると、大当たりした。スロットからコインがドシャドシャと滝のように出てきた。

「やった、やった!」

「う、ウソ⁉ そこハズれる所なんじゃないの⁉」

 ゲームマスターガールは、今度はクラップスのところに行った。様子を見ていると緊迫していた。ルールはわからないが、その雰囲気が伝わってくる。

「まあ、さすがに……」

「勝った~!」

「え~⁉」

 ウィザードガールの絶叫にも似た驚きの声は、ゲームマスターガールの野次馬の歓声にかき消された。

「よ~し、次は~と、ルーレット行っちゃお!」

「ま、まだやるの⁉」

 ウィザードガールは気か付けばゲームマスターガールを追いかけて応援していた。彼女が勝ち続けている様子を見ていると怖くなってきた野次馬たちはだんだんいなくなり、ウィザードガールだけが追っかけとなっていた。

 ありとあらゆるゲームに連勝したゲームマスターガールは、お気に入りのポーカーを嗜んでいた。

「よし、次行っちゃうぞ!」

「おおっ! 頑張れ!」(どんなルールか知らないけど!)

「お前の幸運を吹き込んで」

「フー……」

「よし、行けっ!」

 そして、やはり勝った。ゲームマスターガールは無敗であった。最強のギャンブラーであった。

 二人はすっかり仲良しになって抱き合って喜んでいた。勝ちすぎて可笑しな気分になっている。

「やった~!」

「すごい、すごい! さすがはゲームマスターガール!」

「まあね~。アハハハッて、お前誰だ?」

「急に冷静にならないでよ! ビビるな」

「な~んだ、キサマ? おこぼれが欲しいのか?」

 急にゲームマスターガールが冷静になった。しかも、気配が怖い。ハイテンションギャンブラーから一気にゲームを支配する側の悪徳オーナーのような雰囲気であった。裏で復讐代行や殺し屋稼業の元締めをやっていそう。犯罪界の黒幕を思わせる。

「えっと、その、えっと……」(お姉ちゃん助けて……)

「助けて~!」

 聞き覚えのある声がした方を見ると、重そうな金庫を持ったミラーガールが警備員たちに追いかけられていた。

「へん、バカな奴もいたもんだな」

「お姉ちゃん⁉」

「は?」

 疑問に思うゲームマスターガールをよそに、ウィザードガールは魔法で透明触手を召喚してミラーガールを捕まえてこちらに引き寄せた。

「うお、キャリーありがとう! 見て! 金庫とってきたわよ!」

「下見なんじゃなかったの⁉」

「いや、なんか、ここで遊んでる奴らはバカだな~って思ってたらさ。なのにアタシたちより金持ってるのなんか腹立って。お姉ちゃん、ヤリたくなっちゃった!」

「なにそれ⁉ 下見じゃなくて見下しじゃん!」と、ウィザードガールは溜息をついたが、いつも通りだなと納得した。「まあ、いいや、アタシの力を見せつけるいい機会ね」

「は? 何する気だ?」

 ウィザードガールがどこからか取り出した身の丈ほどのある杖を振るうと、彼女はバニーガール姿からいつもの巨大とんがり帽子がトレードマークの姿に戻った。

 警備員たちが三人の少女たちを囲んで銃を向ける。

「ちょ、なんでアタシまで⁉」と、ゲームマスターガールは叫んだ。

「おい、手をあげろ!」

「はい!」

 ウィザードガールが杖を振るうと、手をあげたのは警備員たちの方であった。そこを、透明化が解けてしまった触手で薙ぎ払って全員のしてしまった。

 しかし、そこら中から続々と武装した警官たちがやって来て、彼女たちに襲い掛かる!

「撃て、撃ちまくれ!」

 弾丸が雨のように彼女たちに放たれる。しかし、ウィザードガールがまた杖を振るうと、彼らは透明な魔法の壁で守られた。そして、その壁は動き出して、警官たちを押し倒していく。

「さすが、キャリー! サス妹!」

「はぁ⁉」

「フッフッフ~ン! さ~らに!」

 杖をドンと、床につくとそこに紫色に輝く魔法陣がパッと現れた。そうかと思ったら、その床の部分が柔らかいシルクのように浮かび上がり、三人の少女を乗せて上昇した。

「ま、魔法の絨毯か⁉」

「そう!」

「よ~し、脱出だ!」

 ミラーガールの声とともに、絨毯は高い天井まで発進した。行く手を阻む天井をウィザードガールは木っ端みじんに魔法の光線で破壊してしまった。

「あ、そうだ。くらえ!」

 ウィザードガールが杖を振るうと、先ほどまで自分たちがいたカジノの周りに巨大な触手が現れてドーン、ガシャン、バラバラ、ドーンと、跡形もなく破壊した。そして、何かに引火したのか、爆炎と煙を巻き上げて大爆発、炎上した。

「わぁーい、木っ端みじんね! さすが、お姉ちゃんの大魔法使い!」

「えへへ~。破壊、殺戮、炎上!」

「いや、あんなにまでする必要あったか⁉」

 そして、ネオンの輝く街の上、月が輝く夜空の元に絨毯は飛び上がったのだった。

「わ~い、やった、逃げ切った! やったよ、ミラお姉ちゃん!」

「すごい、すごいよ、キャリーお妹ちゃん!」

 二人は仲良く抱き合った。そして、何故かその中にゲームマスターガールも巻き込まれて抱きしめられた。

(な、なんじゃこりゃ?)

「で、いくら入ってるの?」

「うん、見てみようか」

 すると、ミラーガールは胸元からピッキング道具を取り出して金庫をいじり始めた……と思いきや、それを放り投げた。

「できないのかよ!」

「ふん!」

 バキッ! と、ミラーガールは怪力で金庫をこじ開けたのだった。

「なんじゃそりゃ! そんなパワーあるんならあいつらも倒せただろ!」

「お~……。なにこれ?」

「……チップだな」と、ゲームマスターガールは金庫の中身を見て冷ややかに言った。「他のギャンブラーがあそこで保管を頼んでたやつだろ。あっちで換金しないと意味ないな」

 ただでさえ肌寒い上空の絨毯の上で、不気味な沈黙と冷ややかな空気が流れた。

「なんだ、気分下がった~」

「だけど、お妹ちゃんと共同作業出来て楽しかったよ!」

「アタシも! 今度はもっとうまく強盗しようね1」

 アハハハ、と、肩を震わせるほど笑い合う姉妹のとなりで、ワナワナと怒りで肩を震わせる少女がいた。

「なにするんじゃ、このメスガキども!」と、ゲームマスターガールはバランスが取りにくいはずの絨毯の上に立って怒鳴り散らした。「なんなんだ、お前ら! せっかく稼いでたのに! 勝ちまくりだったのに! もうあそこでゲーム出来ねぇじゃねぇか!」

 ゲームマスターガールは次々と呪いの言葉を怒鳴り散らした。

「ちょっと、落ち着いて!」「落ちちゃうから! これバランスとるの大変なんだよ!」「頭冷やして!」「冷静になって!」

「何様だ、お前ら~!」ゲームマスターガールは怒りまくったと思ったら、泣き出した。「なんなんだよ、天下のゲームマスターのはずだったのに、いつの間にかガールまで勝手につけられるし、ダサいし長いし、三人のクソガキには邪魔されるし……」

「三人の……」「クソガキ……?」

 ミラーガールとウィザードガールは思わず顔を見合わせた。

「「その話、詳しく聞かせて!」」

「……ほぇ?」


 スナイプガールとアムリタガールは、モーテルのベッドの上で冷静になっていた。

 二人で刑務所を吹き飛ばした興奮のままに任せて、一夜のひと時をこれ以上ないほど激しく過ごした反動なのかもしれない。とても気まずい雰囲気になっていた。

「……なぁ」「……ねぇ」

「「いや、どうぞ」」

 気まずい沈黙。遠くから犬の遠吠えとパトカーのサイレンが聞こえる。

「ねぇ、これからどうするの?」と、アムリタガールが切り出した。

「そうだなぁ……。実は、あそこで釈放させてあげるって友達に言われたんだよな」

「え、なんで出てきちゃったの?」

「いや、なんか、勢い」

「そう……勢いと言えば、その、よかったよ」

「ああ。お前もすごかったよ、なんだ、あの薬出す能力。事故? 生まれつき? 改造?」

「あ……そっちか」

「そっちってどっちだよ?」

 アムリタガールは人差し指と親指で輪をつくり、そこにもう片方の人差し指を入れて出し入れする仕草をした。

「そっち⁉ この雰囲気でそっちの話するか⁉」

「え、いや、だってさ、いや、その……」

「そもそも、輪っかと輪っかにしろよ。一体どっちにナニがついてる設定なんだよ! アタイか? アタイがアンタに突っ込んでると?」

「いや、だって、今だってツッコミ入れてるし、クソ野郎たちに弾丸ぶち込んでたじゃん!」

「なんだよ、それ……まあ、自分がナニついてるって設定にはしないか」

「ペニスと言えばさ……」

「おい!」

「なに?」

「いや、アタイがナニのこと濁してんだから、ど、堂々と言うのやめろよ!」

「いや、だからペニスって言ったじゃん。わかる? 意味はチ……」

「も、いや、もういいや。ナニから何を連想したのか言ってみな」

「うん。それでさ、ゾンビから人間に戻す薬作ってたんだけど、先にゾンビの方が出来ちゃって……」

(しばらくツッコミやめよ)

「それで、可愛いゾンビたちをやっつけられた上に先に薬まで作られちゃってさ……」

「それとナニがどう関係するんだよ」

「それをやられたのがさ、サイコとお人好しとバカのオスガキたちだったんだよね……」

「え?」

 スナイプガールは自分を追い詰めたあの三人の少年を思い出して身震いした。

「え、ペニスって言ってないよ?」

「いや、違う、もっと詳しく聞かせてくれ」

「だから、ペニスはチン……」

「そっちじゃねぇ!」


 その頃、ビーストガールは憎き人間たちが住んでいる街に辿り着いていた。

「おのれ、人間ども、許さニャい……! 貴様らの環境破壊のせいで、ワガハイの故郷は滅びた。許さなニャい、ワガハイの故郷を亡ぼして繫栄した人間を許さニャい。許さなニャい、ワガハイの仲間たちで殺しの娯楽をした人間たちを許さニャい。許さニャい、ワガハイの母を三味線などというものにした人間たちを許さニャい。許さニャい、ワガハイの父を奴隷のようにこき使った人間たちを許さニャい。許さニャい、ワガハイの産みの母を同族と扱わなかった人間どもを許さニャい。……許さニャい許さニャい許さニャい許さニャい……!」

 そして、怒りの遠吠えをあげると、彼女は恐るべき俊足で街に向かって駈け下りて行った。

 突如として現れた怒れる獣人、ビーストガールの血みどろの復讐が始まる……!

 キーッ! ドン!

「ニャフっ……⁉」

 ……ドサ。グシャッ……。最高峰の文明の利器で、ビーストガールは撥ねられて頭を打った。そのうえ轢かれた。

「やっば、うわ、どうしよう!」

 カーガールが運転する車はバックした。すると、またビーストガールを撥ねて轢いた。今度はヌックと起き上がろうとしている時であった。

「うわ、またやっちゃった!」

「落ち着け!」と、後部座席のチャイルドシートに乗せられている生首状態のサイバーガールは怒鳴った。「お前、本当にカーガールの異名の持ち主か? 落ち着いて運転しろ!」

「だって、急がないとアンタを追ってヤバいヤツらが……」

「大丈夫だ、逃げるに越したことはないが、演算したところ追手が追い付くことはない」

「ねぇ、あれ見える?」

「は?」

 見てみると、車のライトに照らされて、獣の耳と尻尾と四肢を持つ美少女が目を光らせて起き上がっていた。血が噴き出していてもおかしくないはずなのに、すっかり治ってしまっている。

「な、なにあれ、な、なんじゃあれ⁉」

「魔女とか呼ばれる奴が開発していたという獣人だな。ほっとけ、また撥ねろ」

「いや、なんでそんなに冷静なの⁉」

「罪悪感なんて持つな、あの通り何をやられたってすぐ復活する」

「いや、だから怖いんじゃん!」

「なんだ、罪悪感かと思ったら恐怖か。つくづく人類は面倒くさい……」

 すると、ビーストガールはビュンッとジャンプして、車のボンネットの上に四つん這いで飛び乗った。唸り声をあげながら、こちらを睨んでくる。

「あ、ああっ……あ。も、漏らした」

「うわ、汚ね」

 このまま食い殺される。心残りは背後のサイバーガールとどこかに行ってしまったアムリタガール、そして、最強の自動車を作って撥ねまわること……結構あるわね。

「いや~! 死にたくない~!」

「おい、見てみろ」

 サイバーガールに言われて見てみると、ビーストガールはまるで毛づくろいでもするかのように、車の窓をペロペロと舐めていた。まるで親に甘える動物のようであった。

「え、な、え……?」

「ちょっと、降りてみろ」

「いや、な、でも……」

「大丈夫だから。信じろ」

 カーガールは彼女を信じて降りてみた。

 すると、バッとビーストガールはこちらを向いてきたのでギョッとした。すると、ビーストガールはパッと顔を輝かせて、嬉しそうにグルグルと周りを駆けまわって、カーガールを抱きしめてきた。

「すごいにゃ、お前! 生まれてすぐ立てるなんてな!」

「へ? どういうこと?」

「そいつは記憶喪失になった」と、サイバーガールは言った。「頭を打って赤ん坊と同じ頭になってしまったのだ。そして、最初に見たお前の車を親だと思い、そこから出てきたお前を妹だと思っている」

「え、え~⁉」

 見てみると、ビーストガールは車にスリスリと頬を寄せていた。本当に母親だと思っているようであった。形は違うが、彼女も車を愛しているのだ。

「……。連れてこ」

「ウニャ?」

「そういうと思ったよ」

「こんなところで置いといちゃ可哀そうだしね! よろしくね」

「にゃい!」


 その頃、ウィザードガールとミラーガール姉妹はゲームマスターガールに連れられて、かつては刑務所だったところを訪れていた。

 ゲームマスターガールは今や瓦礫の山と化していた刑務所を見て、呆然としていた。そして、泣き出した。

「ちょ、ちょっと待って、落ち着いて、落ち着いてって!」

「きっと、あいつらだ……!」

「え?」

「あの三人がアイツを吹き飛ばしたんだ! 絶対そうだ! ぶち殺してやる!」

「そうだ!」と、ミラーガールは言った。「きっとそうに違いない。あいつらならやる! ね、キャリー」

「……。そ、そうだね!」(ここで冷静なのはアタシだけだ……! よし!)「ま、待って! 一応確かめてみようよ、スナイプガールちゃん、もしかしたら生きてるかもしれないし!」

「イヤだ、知りたくない、これで死んだってわかったら余計に……」

「お姉ちゃん、鏡、作って」

「ええ。どうするの?」

 いともたやすく無から生み出された鏡を受け取ると、ウィザードガールは杖を振るった。すると、鏡の中にスナイプガールの元気な様子の姿が映し出された。

「あ、生きてるらしいわね」

「うん! ねぇ。この娘、生きてる!」

「なにッ⁉」と叫んで、ゲームマスターガールはミラーガールに掴みかかった。「連れてけ! 今すぐ! あの娘のところに! 妹、お前も来い!」

「え、だけど、一度に三人とかは苦手で……」

「うるさい、黙れ、やれ、ぶっ殺すぞ、二人とも!」

「が、が、頑張って、お姉ちゃん!」

「わ、わかった、分かったから、や、やってみる……!」

 この三人の中で一番常人に近いが怒るとものすごく恐ろしいゲームマスターガールに言われて、ミラーガールは頑張ってスナイプガールの元に通じるミラーゲートを生み出そうとした。

「がんばれ、お姉ちゃん!」

「う、うん!」

「早くしろ!」

 そして、ミラーゲートは完成した。三人余裕で入れるほどの大きな鏡の集合体。

「よし、お前、先に行け」

「え、うわっ……⁉」

 ウィザードガールは尻を蹴り飛ばされてミラーゲートに放り込まれた。

「どうだ?」

「痛い……」と、向こうからウィザードガールの声が聞こえた。

「やめといたほうがよさそうだな」

「なにするんだ、アタシの妹に!」

「うお、何をする!」

 ミラーガールはゲームマスターガールに掴みかかった。そのまま抵抗しようとするが、その拍子に転んでミラーゲートの中に二人とも入ってしまった。


 その頃、スナイプガールとアムリタガールは勝手にカーガールのアパートに入っていた。

 アムリタガールは勝手に冷蔵庫の中を物色して消費期限切れの牛乳を飲んでいた。スナイプガールは気まずそうにソファに腰かけていた。

「なあ、勝手に入ってよかったのか? つか、誰の家だよ」

「うん、アタシのカノジョの家」

「ちょっとまて、恋人いたのにアタイとカマしたのか⁉」

「うん、だから内緒ね。共犯、共犯」

「なんだよ、それ! お前、聞けば聞くほどおかしいぞ!」

「アンタって変な所で常識人だね。今まで人の物奪ってきたんだから、人のカノジョなんて序の口でしょ!」

「何を言ってるんだよ、お前から誘ってきたんだろうが!」

「違うよ、アンタが勝手についてきたんだよ!」

「それは、お前が……その、そもそもアタイのことどう思ってるんだよ」

「好きだよ?」

「おい、直球でバッというなよ。それはどういう意味でだよ?」

「え、そんなの、うっ……⁉」

「ど、どうした? 腹痛いのか?」

「は、腹が、腹がぁ……⁉ と、トイレ!」

 アムリタガールがトイレに駆け込もうとしてドアを開けると、そこには頭を押さえている先客のとんがり帽子を被った美少女がいた。

「誰?」

「あ、どう……」

 すると、今度は先客の上に取っ組み合っている美少女二人が落ちてきた。その二人はそのままスナイプガールのいる部屋までやって来て、周りの物を投げ合い始めた。

「現金、忘れた!」

「逃亡するはずなのに、バカか、お前は⁉」

 そこに、カーガールとサイバーガールが帰ってきた。本来の部屋の持ち主である。

「……え、なに? あ、お、お前ら、どこから来たんだよ!」

 カーガールの怒声を聞くと、騒ぎは収まった。

 そう思ったら、今度はビーストガールが窓を突き破ってやってきた。

「妹は、ワガハイが守る!」

「ちょっと、まって、落ち着いて!」

「ニャシャー!」

 近くにいたスナイプガールに突撃したビーストガールだったが、彼女の能力で方向を変えられてノロノロとトイレから出てきたウィザードガールに体当たり、押し倒すことになった。

「死ねニャ~!」

 すると、ビーストガールは野生を解放させてウィザードガールを切り裂いて嚙みちぎり、部屋中、その中で恐怖している美少女たちも血だらけにした。

「な、なんで、アタシ……」

「ウニャ⁉ まだ生きてるニャ⁉」

「ニャーちゃん、おいで!」

 カーガールにそう言われると、血だらけになったビーストガールは庇うように妹(だと思っている)の元に行った。

 不気味な沈黙。お互いがお互いを怪訝と警戒に満ちた目で見ている。

「……。も、漏らした」と、アムリタガールが泣きそうな声で言った。

「汚いな、人類は」サイバーガールが冷ややかに言った。

 さらに、ミラーガールが妹の惨状に気づいて、今さら嘔吐した。

「本当に、汚いな!」

 

 みんなは凄惨なことになっている部屋を片付けながら夕飯の準備をしていた。

「なんでよりによってカレーしかないんだよ!」と、スナイプガールが鍋を温めながら言った。

「え、ピザ頼んじゃったよ?」と、ミラーガールが言った。

「お前はどっから金が出てきたんだよ?」と、ゲームマスターガールは掃除しながら訊いた。「つか、汚物と臓物がまき散らされた後によく食えるな⁉」

「生きてればお腹は空くし、一緒に何か食べてれば仲良くなるでしょ? てか、お金、払ってくれないの?」

「なんでだよ!」

「風呂あいたよ! 次どうぞ~」と、アムリタガールが我が物顔で浴室から出てきた。

「あ、アンタ、服を着ろよ!」と、家の修理をしていたカーガールは言った。「何トップレスで顔パックしてんの、デカチチ、ブラブラするな!」

「え、なに、羨ましいの、メルセデス?」

「そ、そんなことないよ」

「ねぇ」と、五体満足のウィザードガールがアムリタガールに訊いた。「頭、大丈夫? あのまま放り込んじゃって、ごめん……」

「いや、アンタこそ大丈夫なの⁉」と、カーガールは怒鳴るように訊いた。

「あ⁉ 誰の頭がイカれてるって⁉」と、アムリタガールは怒鳴った。

「アンタもそう言うことじゃないから⁉」

「人類は騒がしいのが好きだな」と、サイバーガールは冷ややかに言った。「さっきまでの雰囲気から共同作業とか。どんな回路してるんだ」

「サバ子、ワガハイと遊ぶぞ!」

「おい、やめろ!」

 サイバーガールはビーストガールにボールのように遊ばれていた。おかげでみんなはそれぞれの仕事に集中することができた。

 そして、なんやかんや、ガヤガヤと食卓を囲むこととなった。

「うん、まあまあだな」と、スナイプガールがカレーを食べながら言った。

「なんでワタシが配膳係なんだよ!」と、流れから自分でやり始めたゲームマスターガールが怒鳴った。「おい、チャイムだ。誰か来たぞ!」

「あ、ピザだ!」と、ミラーガールは鏡から取った偽札片手に受け取りに行った。

「おい、アホが!」と、サイバーガールがカーガールを叱った。「ネコにカレーあげるアホがあるか! 半分以上人間だとしても危ないだろ」

「え、あ、えっと、あ! 牛乳があった、ホットミルクにするか」

「あ、待って、それ消費期限切れ!」と、アムリタガールが食べながら言った。

「食いながらしゃべるな、あとなんか着ろよ!」

 その時、ビーストガールは頭からバケツに体を突っ込んで、中に入っているものをモグモグと咀嚼していた。

「マジいニャ、マジいニャ。けど、もったいニャいから食べるニャ!」

「ちょっと待って、それアタシの臓物! 実験に使うから!」と、ウィザードガール。

「お前は何者なんだよ!」と、ゲームマスターガールは思わず言った。

「いやさ」と、ミラーガールが自慢げに言った。「この娘すごいのよ。自分の血とかを媒体にして魔法の研究してたらさ。傷の治りが早くなって、ついに超再生にまでなっちゃったのよね~」

「どういうこと⁉ 魔法より自分の体を研究したら⁉」

「……は⁉ そうか」と、ウィザードガールは天命を受けてかような顔をした。

「本当にする気かよ!」

「つか」と、スナイプガールが訊いた。「お前、アタイの強盗団にいなかったか?」

「いや、強盗団って聞いてたからさ。良い感じの死体とか材料が手に入るかなって。それで新しい魔法を使おうとしてたの」

「ちょっとまて! 強盗のアタイたちから盗もうとしてたのか⁉」

「強盗⁉」と、ミラーガールが食い気味に言った。「アタシも強盗稼業なの!」

「おお、本当か? どんなのやってきた?」

「えっと、あははは~……」

「その様子だと大したことないようだな。アタイがレクチャーしてやろうか?」

「ねぇ」と、アムリタガール。「あなた傷の治りが早いとかって⁉ もしかしてゾンビ⁉」

「違うわよ!」

 ガヤガヤガヤ。楽しい食卓。ここにいるのが世界を騒がせたとてつもない悪の美少女たちの集まりであるとは思えない。

「フフフ」と、カーガールが笑った。

「どうした? 気持ち悪い」と、サイバーガールが訊いた。

「ううん。なんか、楽しくてさ。こんなに賑やかなの久しぶりだからさ……」

(こいつら、一体どういう集まりなんだ?)と、サイバーガールは計算して導き出した。

 彼女たちの共通点は、全員超人的な能力を持った極悪美少女たちであるということ。そして、全員こっぴどくある者たちに倒されているということだった。

(ほう、これは、これは。利用できるな)「おい、お前ら。サイコ、お人好し、バカの三人組のクソガキを知っているか?」

 サイバーガールの言葉を聞くと、みんなはビクッとした。ビーストガールだけはまだ臓物の入ったバケツに首を突っ込んでいた。

「え、なに、なに? どうしたの?」と、カーガールは戸惑った。

 みんなはしょんぼりしながら、それぞれの身の上を語り合った。途中で怒鳴り散らしたり泣き出したりして支離滅裂にもなったが、なんとかお互いを知ることができた。

 話しているうちに、ワナワナと怒りの感情が湧いてきた。

「あ、アタイは……」と、スナイプガールは怒鳴った。「あいつらに恥をかかされた! 生き恥だ! しかもあんなに育て上げた強盗団をよりにもやってあんな奴らに! あいつらはまだ檻の中なのに、きっとあいつらはフラフラと善人ごっこやってるに違いない!」

「そうだよ!」と、ウィザードガールは叫んだ!「あいつらのせいで単位落とした! 自分で魔界に行って自分で帰ってくるはずだったのに! あのバカを生贄にして大魔法使いになるはずだったんだ!」

「そうよ!」と、ミラーガールはピザをむしゃむしゃしながら怒鳴った。「あいつら、アタシの可愛い妹を何回も侮辱したんだ! お姉ちゃん、許さない!」と、ピザをバクバクとやけ食い。「あと、アタシだけなんか接点が少ない! ひどい! 添え物じゃないぞ!」

「そうだ、そうだ!」と、ゲームマスターガールは怒鳴った。「全部、アタシたちがひどい目に遭ったのはアイツらのせいだ! アタシたちが何をした! 自分たちがやりたいことを精いっぱいやっていただけだ! それなのに、あいつらは邪魔をした! アタシたちが女で、あいつらが男だからか⁉ そうだ、そうに違いない!」

「あいつらはアタシの夢を踏みにじったんだ!」と、アムリタガールは叫んだ。「あいつら殺してやる! あいつら去勢してやる! そんでもってゾンビにしてそして人間に戻して去勢して、そしてゾンビにしてを繰り返して一生遊んでやる!」

「アリス……みんなも……」(こんなに楽しいみんなのことを苦しめた奴らなんて、相当悪いやつらに違いない!)「わかった、おれ、みんなの助けになる!」

「え、メルセデス?」

「おれ、みんなといてなんかすごい楽しかった。みんなとなにか一緒に作ってみたい」

(作るどころか破壊と殺戮だけどな)と、サイバーガールは思った。

「これからは、みんなで一緒にやろうよ。協力すれば、みんなでなら、きっとどんな奴らも倒せる気がするんだ!」

(このちょっとの間にこいつらに何を感じたんだよ?)と、サイバーガールは思った。

「ありがとう、カーガール」と、ゲームマスターガールが言った。「アタシたちは今日からともに復讐を誓った姉妹だ。そう、シニスターシスターズ」

「シニスターシスターズ……⁉」と、ビーストガール以外のみんなは口をそろえた。

 みんなは思った。すごくカッコいい。このみんななら、自分たちの自由と夢を謳歌できるかもしれない。いや、絶対できる。自分たちらしくいられる気がした。

「デスゲームクリエイター、ゲームマスターガール!」

「狙撃女王、スナイプガール!」

「鏡の女帝、ミラーガール!」

「そ、その妹、ウィザードガール!」

「毒の申し子、アムリタガール!」

「殺人レーサー、カーガール! そして、サイバーガールとニャーちゃん!」

「いや、コイツはともかく、私には名乗らせろよ!」

「うにゃ?」(……?)

「負の感情の申し子、ゴーストガール」

 息をそろえて……!

「「「「「「「「「我ら、シニスターシスターズ!」」」」」」」」」

 決まった。これ以上ないほどの一体感をみんなは感じていた。

「……なんか、一人多くなかった?」と、ウィザードガールが恐る恐る言った。

 みんなは、いつの間にか入ってきたゴーストガールに目を向けた。

「やあ」

「ぎゃ~⁉」

 みんなは恐怖の感情をさらけ出した。

 そして、なんやかんやで悪の美少女軍団が結成されたのだった。

「……。わたしも身の上話していい? ……フフ、へへ」

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