あるギルドメンバーの遺書〜エルザside〜
本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編の時系列的な前日譚になります。
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ですが単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください
爽やかな冬の朝。あるギルドの冒険者が自害した。
自分の部屋で自分の魔銃で一発。自分で死を選んだことは誰の目にもすぐにわかった。発見者は同じギルドに所属する彼の幼馴染のエルザ。美しい銀髪の有能な、しかし残酷な魔導師だった。
それから一ヶ月が経った頃。一人の冒険者が打ち捨てられたノートの一部を見つける。
日付を書く欄と、毎日書かれている内容。……日記のようだった。ところどころボロボロでページも飛んでいる。
その持ち主の名前はエルザ。終焉魔術を造った女、魔導師エルザの日記である。
・・・
【〇〇年】
【11月31日】
部屋の整理をしていたら懐かしいものを見つけた。
今のギルドに入る前に買ったノートだ。少しめくって実験レポートの切れ端が書いてあるのを見つけて顔がほころぶ。
研究ノートにしようとしてたんだっけ。別のノートを買ったからこのままになっちゃったんだ。
もう何年前になるんだろう? 昨日のことのように思い出される。
あの頃は楽しかったな。みんなであいつを揶揄って、そんで……
ま、それは今もやってるけど。でも反応が面白くなくなっちゃって、最近は腹いせか実験にしか使ってないわね。
今日は回復魔術の実験をした。いつものようにあいつを火焔魔術や刃物で適当に傷つけて、最新の魔術をかけてみる。結果が思うようにいかなかったのは残念だけど、だからってリンチするのは失敗だったわね。壊れたら元も子もないし。
面倒だからとりあえず近場の医者に押し付けておいた。傷が結構深いようだったけど、まあ治るでしょ。
【12月1日】
昨日の医者から何か聞いたらしい下宿屋の娘が、色々と面倒なことを聞いてきた。
「敵にやられたように見えないんですが何か知りませんか」って。なんにも知らないただの一般人のくせに。随分と生意気。
先月花瓶を割って投げつけてやったの、覚えてないのかしら? もう一度同じことをしたら、さすがにこの女もクビになるわよね。
その前に、明日の魔術実験は下宿女でやることにした。いつもよりは加減が必要そうだけど、冒険者以外を対象にするのも面白そうかも。
あいつが妙に気に入ってるのも腹が立つし。あいつが気に入ってる人間は全部気に入らないわ。
【12月2日】
今日は少ししんどかった。当たった敵がちょっとだけ強かった。
実験は下宿女でやるつもりだったけど、あいつが急に意味の分からない反抗してきたからお望み通りあいつでやってやることにした。三時間くらいだけど、下半身が蟲に変わったあいつを見て思う存分笑ったわ。下宿女だともっと面白かった気もするけどね。
にしても、今まで反抗なんてしてこなかったのに、何があったのかしらね。魔術が解けたら急に何処かへ行くし。あの女の部屋にでも行ってるのかしら。
最後に私の方を少し見た気がした。そして笑った気がした。
……あいつの笑顔を見たのは何年ぶりだったっけ。明日、笑顔の理由を聞いてみよう。
【12月3日】
ありえない。
ありえない、何あいつ。勝手に死にやがって。死ぬならダンジョンの中で勝手に死ねばよかったのに。
ほんと何考えてんの? どうして自分で死んでるのよ。
……まあ、別にいいわ。
とりあえずどうにか隠さないと。あいつの死体がばれたら色々とまずい。まあ、バレてもアルファルドかオーディン辺りに全部押し付けるだけだけど。
……いやでも、死体を隠したり消滅させる魔術なんてたくさんあるし、別に問題ないか。
【12月4日】
あいつの死体の処理で他のやつらと少し揉めた。具体的にはアルファルドと。
「全部明かして葬るべきだ」とか言ってたから笑っちゃった。死んで怖くなったんだろうけど、今更そんなこと言ったって同罪よ。あんたがあいつの身体に刻んだ文字、葬儀なんてさせたらすぐバレるわよと言ってやったら黙ったわ。
結局自分のことしか考えてないのよ。あいつもみんな。
死体は下宿屋で処理するわけにはいかない。だから私達は、明日ダンジョンに死体を持って行ってやることにした。そこでは跡形もなく消えるからもってこいだわ。
それにしても空気の様子がおかしい。魔力が乱れている。
【12月5日】
ダンジョンにいってあいつの死体を捨ててきた。今頃ダンジョンに飲み込まれているだろう。ま、あんなやつの最期なんてこんなものよね。
ところで、昨日感じた異常が強くなっているのが気になる。
バカなアルファルドや下宿女ですら気付くくらいだから、もう他の冒険者も気付ているだろう。
人間の中の魔力が変質していっている。本当に少しずつだけど、爆弾の導火線のような、そんな別のモノに置き換わっている感じがする。
けれど私はこれを知っている。どこかで――どこかで、感じたような。
【12月6日】
異常の原因が分かった。あいつ、頭おかしいんじゃないの。
なんであの魔術が発動してんのよ。
ありえない。バカじゃないの。解呪魔石もないし!!
まさか腹いせでもしてるつもり?
【12月7日】
下宿屋を尋問したら、あいつは少し前に森の奥に一人で行ったらしいことが判明した。きっと魔石を埋めたに違いない。目撃されてるなんてどこまでもバカなやつ。
この終焉魔術がバレる前に、早く片付けないと。じゃないとまずいことになる。
【12月8日】
どっかのギルドの魔導師に全部バレた。
どうして私が終焉魔術の開発者のひとりだって知ってるの?
あいつと私しか知らないはずなのに。あいつ、わざわざ誰かに言って死んだってわけ?
最悪な野郎ね。他人のこと何も考えてないのかしら。死んで当然な……そう、当然のやつだった。
ただこれで私達は後に引けなくなった。面倒だけど、魔石を探さなくちゃならない。
【12月9日】
少し前からずっと頭が痛い。
小賢しいことに、森にはいくつもの罠が仕掛けられていた。拗ねた子供じゃないんだから、こういうバカみたいなことはしないでほしい。
けれど少し――少しだけ、昔のことを思い出した。互いに冒険者になる前は、こうしてよくかくれんぼをしたっけ。
何考えてるのかしら。もう死んだのに。
【12月10日】
森のトラップの全貌が見えた。適切な道筋も出したし、あとはそこに向かうだけ。
魔石は必ずそこにある。人の手では破壊できないから、隠すしかない。捨てたってゴミを燃やす程度の熱じゃ溶けないし。まあそんな度胸ある奴じゃないけど。
ここにありますよって教えてるかのような仰々しい罠をいくつも作ってさ。あはは、わかりやすくて笑っちゃう。
ミーシャから聞いた話だと、一週間くらい前に何か書いてたのを見たらしいわ。ひょっとしたら魔石の在り処を書いた遺書でもあるのかもしれない。恨み言でも書いてあったりしてね。
【12月11日】
召喚魔物を出す罠なんて聞いたこともなかった。そういえばあいつ、魔導師としては結構出来る方だったんだっけ。
暫く書き込む暇はなさそう。他の奴らはどうでもいいけど、私が死ぬのは嫌だし。
(中略)
【12月15日】
トラップは概ね抜けたといえる。後は少し進んで魔石や遺書を掘り出すだけ。
周辺にまたトラップや召喚魔物があるようだけど、そう大したことはない。所詮死んだやつの魔術だし、生きた人間に勝てるはずもないわ。
それにしても、アルファルドもミーシャもオーディンも、ほんと使えないわね。やる気ないんじゃないかしら。まだあいつの方がマシだったくらい。全部終わったら合成魔物の餌にでもしてやりましょう。あいつだったらこのくらいの罠、笑って抜けられたわよ。
【12月16日】
魔石か遺書はおそらくすぐそこにある。
明日、魔石を掘り出したら魔力を込める。これだけですべてが元通りになるんだわ。
帰ったらみんな許さない。私を責めた冒険者も、下宿女も、みんなみんな、私のかわいい実験動物にしてやるんだから。死にたくなるまで追いつめて、今度は自殺なんてできないように魔術をかけてやる。
……結局最後に勝つのはいつも私なのよ。
書きながら笑いすら漏れてくるわ。私に対抗したつもりなんでしょうけど、残念だったわね。あんたの目論見は潰えた。
これから起こることを地獄の底から見てなさい。勝手に死んだんだから、何も言わせない。
【12月17日】
どうしてこんなことに
わたしは悪くない
わたしは
わたしは
・・・
記述はここで終わっている。
お読みいただきありがとうございます。
面白かったと思っていただけたら、画面下部の☆☆☆☆☆を星で評価いただけると作者がとても喜びます。
また、ブクマしても良いぞ、という方がいらっしゃいましたら是非いただけると幸いです。
これからも作品づくり頑張ってまいります。
よろしくお願い致します。
※7/3(日)18:00過ぎに脇役sideを投稿しました。