episode1「初めまして、最低な人」
これが最初の作品になります。変な所があると思いますが読んでくださると嬉しいです!
学生にとって待ち望んでいたチャイムが鳴り響く
今日が金曜日なだけにいつもより騒がしい空気が蔓延しだした
目の前に座る友人の話を適当に相槌をしながら、バックに荷物を纏めてそそくさと教室からおさらばしようとすると友人の1人まるで子供の様な無邪気な顔で俺に駆け寄ってきた
「永倉透!予約したカラオケ行こーぜ!」
自分のフルネームを軽やかな声で呼ばれた
フルネームで人の名前を呼ぶ変な奴は俺は一人しか知らない
そしてそれと同時に透は表情すら変えないものの自身の内側ではしまったと声を出していた
「あ〜すまん。今日どうしても外せない用事が出来ちゃってさ。これを俺の代わりと思って行って来てくれ」
バックから取り出したものは、前に目の前にいる友人と買ったお守りがあった
「そっか、分かった。じゃあまた今度行こうなー」
「まじすまんな。……後写真でも撮ってラインに送ってよ〜」
透から渡されたお守りを財布をしまい友人は別れを告げ、廊下で待っている友人達の方へと駆け足で向かっていった
遠のく友人を見守りと数秒で消えた
机にはチャックが中途半端に閉まったバック
教室には人はもう既に数名程度になっていた
チャックを最後まで閉めて肩にかけ教室を出る
その時に陰気な奴やギャルみたいな奴などにさよならと言われ俺もまた笑顔で返事をする
他の教室にも生徒は数名残っている様だが、もう既に部活が始まっているだろう
廊下には人など全くと言ってもいいほど居ない
辺りをボーとそして早々と確認し人が居ないことを認識すると男は人気の無い廊下へ向かった
そして階段へと差し掛かると手を少し強く握った
何も変化は起きている様には見えない
「……ったく」
口から溢れる息と共に今日一日の疲れが言葉にして吐き出される
人望が無いよりかはある方がいいが、一概に最高とは言えないものだ
カタンカタンと階段を降りある場所へと向かう
途中生徒が通りかかるがこちらを見る事は無かった
それもそうだろう
眼に見えないものに興味を示す奴なんて殆ど存在しないのだから
魔法という存在が溢れているこの世の中で、俺が持つ魔法
それが透明化
名前の通り、自身が完璧に透明になる魔法だ
物に対しては魔力を流し込んで自身の物にすれば同じ通り透明に出来る為服を着ても服だけ浮いていると言う事態にはならない
実に便利で何でもできそうな魔法ではあるものの、車は等速で走ってくるわ、人は避けないわで腹が立つ時もある
だけれどそれはどうでも良い話
その鬱憤をその他で幾らでも晴らすことが出来るのだからこの魔法は素晴らしい
歪な笑みを浮かべたまま人気の無い教室の扉に鍵を差し、扉を開く
無人の教室で目が行くのは大きな机に置かれている紙
その他には目も暮れずに机に近づく
分厚く積み重なったシワ一つない紙には数式や図形がびっしりとプリントされていた
ただそれには触れず、その横に乱雑に置かれた一枚の紙を手に取った
そして机の角に尻を置き、スマホをポケットから取り出し気色悪い笑みを零しながらパシャリと音を立てる
「へぇ〜……そんな変わってないじゃん」
スマホをしまい紙を眺める
その紙にプリントされているのは山積みになっていた紙とほぼ同じもの
違うとすれば空欄が既に埋まっていると言うことだけだ
「では逆にどこの設問が変わっているのですか?」
静かな教室に唐突に響く扉の閉まる音と同時に女性の声
その声は非常に美しく透き通っていた
問いを聴いた透は、表情を一切変えず明るく女性に応えた
「…設問って何?」
声が響いた方向へ顔を向けながら、問いに応える
扉に手を掛けた女性、いや女子生徒
美しい声に見合った整った容姿であり腕には生徒会と描かれた腕章を纏っていた
俺はこいつの名前を知っている
黒瀬 詩音
生徒会長を務めている周りから引かれるほど頭の硬い奴だ
ついでにお金持ちのお嬢様と言うレッテルも周りから嫌悪されている一つなのだろう
「とぼけなくても結構です。貴方が今手に持っている紙がテストの答案用紙とは理解しています」
長い髪を靡かせこちらに近づいて来る詩音
おとぼけた顔を止め、だが笑顔のまま透は詩音に語りかける
「……それで君は俺をどうするんだ?」
不敵に微笑む俺の顔を凝視し詩音は声を上げる
「貴方に一つお願いがあります」
「お願い?どんな?」
詩音は透の言葉を聴くと決心の着いた目を向け、こう言った
「私の幼馴染みを見つけ出して欲しいのです」
静まり返った教室に木霊する声
詩音の真剣な目
俺はそれを見て思わず笑ってしまった
「あはは、いやいや警察に相談しなよ。失踪したのか何なのか知らないけどさ、ただの一般人の俺より他に話す場所あるでしょ」
詩音は笑っている透から視線を外し下を向き俯いた
「しましたよ……自分の出来ることから他人にお願いをする事も……そして私が思い当たる最後の手段が貴方です」
いつの間にか笑う事をやめていた透は、立ち尽くす詩音を眺めていた
「何で俺が最後の手段なんだ?」
「だって貴方、透明になれるでしょ?」
「!?」
詩音から自信なさげに吐かれた言葉に、透は自分が驚く程動揺していた
誰にもバレていないはずの魔法
透明化を使う際も人目を気にして使っていた筈
けれど心とは別に声のトーンも一切変えず明るく余裕があった
だが詩音は俯いたままで見ていないだろうが少しだけ透の顔が険しくなった
「何処で知ったの?」
透は笑顔を絶やさず、バレないように探りを入れ出す
透明化がバレたと言う事は、当たり前だがこいつは何処かで俺が透明になる瞬間を見たと言う事
何処で誰と見たのかは非常に重要だ
すると詩音は糸も簡単に見た瞬間を吐き出したのだ
「二ヶ月前程に生徒会の用事で一人で放課後に残り、使われていない倉庫の整備をしていると、目の前の廊下を貴方が通るのを見まして。放課後なのにどうしてこんな場所を通るのかと気になり廊下をすぐに見ると、貴方の姿がありませんでした。ですが足音はするのです。それで貴方の事を色々調べました。けれど確定した情報はありませんでした。貴方が透明になれると言う理由としては情報不足ですが、それで交渉しないという言葉は出てきませんでした」
長ったらしい話を聞いている限りこいつ1人しかこの事は知らない
何処で知ったと言った以上、今更知らないフリをする事は出来ない……いやそもそもする気も無かったのかもしれない
魔法がバレた事に動揺していた心を整理すると瞬く間にほんの数分前の不気味な笑みに変わっていった
「君の幼馴染を探すのを手伝う事は良いけど…君は一体俺に支払ってくれるんだ?」
「え?それは……貴方の魔法と悪行の事を秘密にするのでどうでしょうか?」
悪事を隠すと言う約束に自身の道徳心が傷ついているのか若干顔を強張らせていた
俺はそれを楽しそうに眺め少女に言葉をかけた
「それも良いけど…それじゃあ薄いなぁ〜」
悪事を隠してあげると言われたのにも関わらず、何も悪くない様に声を上げる透に詩音も流石に苛立ったのか少し声を荒げた
「貴方!自分が劣勢である事を理解していないのですか!?」
「劣勢……劣勢ねぇ〜」
顎を触りながら呟き自慢げに続きを話し出した
「そもそも君がさ、周りに俺が悪行を働いてまーす。なんて言っても信用されないでしょ」
「そ…そんな事は!「あるでしょ」」
透は詩音の肩に付いている生徒会と書かれている腕章を横目に会話に横槍をさし、会話を遮った
「自分にも他人にも厳しく、あまり関わりを作らない生徒会長様と皆で仲良くいつもはしゃいで遊んでる学校のムードメーカー……証拠も生徒会長様が見たって言う曖昧な物しか無い。どっちの話を信じるのかな?というか君の話なんて誰か聞いてくれるかな?」
透の言葉は目の前にいた詩音に相当響いた様で狼狽えていた
そのまま詩音は俯いたまま黙ってしまったので、透はフォローを入れだした
「まぁ別にさ。探さない訳じゃないから落ち込むなって」
「それは私が貴方の要求を飲んだ場合でしょう?」
先程の言葉で相当傷ついたのか憎たらしく俺に噛みつく
だが透はそれに平然と返事をした
「それはそうだろう?何事にも契約ってのは大事なもんだろ?」
「契約って悪魔のようなことを言って……貴方本当は悪魔なんじゃないですか?」
詩音の言う通りこの世界には悪魔が存在する
魔力と言う感情の塊の様なエネルギーが存在するのだから人の感情が悪意に染まれば染まる程魔力も同様に染められてゆく
そうして悪魔と言う存在に変わっていってしまう人がいる
悪に染められた魔力を使う者
正しく悪魔と言っていいだろう
悪魔は人々を苦しめ、時には堕落させる存在
しかし逆も然りで悪魔が居るなら天使も存在するのも必然
正義や優しさ、それらを強く持つ者は天使となる
悪魔や天使となった者はお伽話の様な姿になる事もあるのだとか
「それで本当に悪魔だったらどうするよ?お前は悪魔に協力をお願いしてるって事になるんだぞ?」
まだ悪魔と断定したわけではないがやはり悪行を行なっている人と手を結ぶのは心痛いのか、苦虫でも食べたのかと言うくらい渋い顔をするも、先程のお願いを撤回するつもりは無いらしい
「そんな顔してまで自分の正義を削る位なら幼馴染の事なんか諦めちまえよ」
透が煽り文句を言い放つと詩音は俺の顔を凝視し、決意した様に言葉を紡ぐ
「私は例え、自分が悪魔の様になろうが、貴方の様な悪魔にも成れなさそうな最低な人間と手を結ぼうが、私の意思は変わりません!」
きっとこれはどんな言葉を吐いても折れないなと透は悟った
「なら分かった。俺もお前の幼馴染を探すのを手伝ってやる。ただ今から言う事をお前が呑むならな。一つは透明化の秘匿。二つは俺の全ての悪行の秘匿。三つ目は俺のやる事にいちいち文句を言わず自由にさせてもらう事だ。どうだ?守れるか?」
「分かりました。それで幼馴染が見つかるなら安いものです」
先の会話で悪行を隠すのは彼女からすると死ぬほど嫌そうだったので嫌な顔をされるとおもっていたが、そんな顔一つせずに二つ返事な事に透は少し驚きつつも彼女の中でどれだけ幼馴染の存在が大きいのかも理解をした
「なら契約成立だな」
「ですがその……何か大きな要求されると思っていたので少し驚きました」
詩音は困惑と疑問の表情を浮かべていた
彼女からすると透は悪虐非道の欲望の塊の様な人間だ
金や地位など要求されると思っていた彼女からすると自由にというだけの要求は安堵と何か企んでいるのではという不安が均衡していた
「生憎お前から与えられる殆どのものは自分で簡単に手に入るからね」
その時、詩音は今まで透を調べた来た時に感じた違和感を思い出した
「貴方…アルバイトもしていないし、ご両親も居ないのにどうやって一人で暮らしているのですか?…いえ暮らす位なら問題ないですが……ご友人と沢山遊びに行ったりする事は不可能な筈ですが?もしや貴方不正にお金を入手しているのではないですか?」
こいつはよく俺の事を調べて来たらしい
詩音の言う通りバイトもしていないし、親もいない
その割には金の出費が色々と多い
俺の事を調べたら疑うもの無理はない
だが透は悠長に笑っていた
「…はは、マイナス×マイナスはプラスだよ。不正に入手されたお金を不正に入手しても問題ないだろ。しかもお前が知った所で今更何になるんだ?」
詩音は今さっき透の全ての悪行を秘密にしていなければならない
どう金を入手しようが今の詩音にとっては何のメリットにもならず、同時に透からするとバレてもデリメットにもならなかった
だからこそ透は悠長に笑っていたのだ
それを頭の良い詩音は理解したのだろう、何も追求する事はなく静寂が訪れた
だがその静寂はすぐに透によって終わりを迎える
「まぁ、これから一緒に活動するんだ。仲良くやろう」
詩音に近づき握手をしようと手を差し出す
「別に仲良くする気は毛頭ありません。握手も結構です」
プイッと顔を背ける詩音にそりゃそうかと呟きながら手を戻した
窓から外を見るともう既にオレンジ色が黒くなり始めていた
「それでなのですが…」
だが詩音はそれに気づいていないのか新しく話をしようとしていたのに透は窓に手を差しながら会話を遮った
「もう時間も時間だし続きの話はまた今度にしようぜ」
「…それもそうですね。ではまた明日」
一刻も早く透から離れたい気持ちの表れか、透が別れの挨拶を吐く前に瞬く間に教室から出て行ってしまった
ポツンとオレンジ色に染まる教室に取り残された透
「明日って休みだし…あ……」
透は何かを思い出したかのように誰もいない教室に呟いた
「……連絡先何も交換してないじゃん……」
読んでくださり有難う御座います。
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