七 どこまでも脆弱な
「せめて、冒険者ギルドとか酒場で情報を得たいの」
「……姫様。それより、今日の刺繍の課題が終わられていませんよ。お茶会までに仕上げておかないといけなかったのに」
「ぐふぇ」
私の奇声にアナベルが不思議そうにしていた。
「何だか、今日の姫様はいつもとは違って……」
「そうですね。お倒れになった際、どこか打ちどころが悪かったのではありませんか。やはりあのときリルア様の侍医に診せるべきだったかもしれません」
「あ、あ、あの私は元気よ。ほら?」
ラジオ体操の初めの方をやってみる。ますます奇妙な視線を感じる。けれど体に違和感があった。
「あ、あれ?」
くらりとして倒れそうになるところをバルドが抱えてくれた。
「ほら、やっぱり、侍医を呼んでまいります」
――うーん。やっぱり脆弱キャラは脆弱だったか。
「さあ、姫様、着替えてお休みになって、バルド様。御退出を」
「分かりました。それにしても、やはり、リルア様にも女性騎士が必要ですね。今まではフォルティス様とほぼご一緒だったので、特に決められていませんでしたが、ご公務に行かれるようになると……」
「でしょ! だから、酒場で#仲間__パーティメンバー__#、じゃなくて護衛を探そうと」
「酒場? そんなところで護衛なんて見つかりませんよ。精々酔っぱらってクダを巻く破落戸くらいしか、陛下と騎士団長にご相談しておきましょう」
私はアナベルに寝間着に着替えさせられると寝台で横になると本格的に調子が悪くなった。やっぱり虚弱王女のようだ。
私の専属の護衛の件は直ぐには難しいようだった。そもそも、幼少期から女騎士を募集していたもの。数少ない女性騎士はある程度すれば冒険者に鞍替えする。街の警備隊だってそうらしい。やっぱり一攫千金の冒険者の方が危険はあるが実入りが良いのだ。ここには西の樹海があるため樹海の側の西の街に腕に覚えのあるのは移ってしまう。
翌日も私は寝込んでいた。アナベル達にスケジュールは管理されていて、お茶会のあとは寝込むことを予想されて立てられていた。
「うぬぬ」
「姫様、また奇妙な言葉を。さあ、お薬ですよ」
「うへぇ。苦いのよ。それ」
「本当におかしな姫様。今までは黙って飲まれておりましたのに」
私はアナベルの言葉にぎくりとした。
「そ、そうかしらね」
――とにかく苦い。緑の汁、もう一杯とはとても言えない。
「私も魔術を習いたいわ。それに護衛も必要よね」
「確かにそうだな。僕も立太子すればここから移動することになるしね」
「フォルティスお兄様!」
「やあ、今朝は少し顔色はマシになったようだね」
ここは城の王族の住居区域の中で子ども部屋に位置する。今のところ、居間などの共通部分とお兄様の寝室とは別で居間を挟んで繋がっている。他にも客間や資料室にそれぞれ側仕えや護衛の部屋も連なっている。国王の両親の私室は同じ城の中とはいえまた別の区域にある。
「フォルティスお兄様、昨日はどうでしたか?」
「特に大したことはないよ。どこも顔見せの程度の挨拶だけだよ」
「でも、私もギルドに行ってみたかったな」
「うーん。そうだな。王都のエイリー・グレーネ支部の冒険者ギルドならリルアを連れて行っても大丈夫かな」
「本当ですか! 嬉しい。あとそれと私も魔術を学びたいと思うのです」
「それはいいけど大丈夫なのか? 前にダンカン先生の顔で泣いてたじゃないか」
「もう私も少しは大きくなりましたわ。お顔くらいで泣きはしません」
「大きくねぇ。それなら先生に伝えておくよ」
授業は基本王宮に講師の先生を招いて二人で受ける。進度は別々になる。授業枠は同じでも個別指導という形だった。数日後には魔術の授業を受けることが出来た。今度は泣かないもん。
部屋を暗くするのは魔力を知覚し易いためだそうな。
「ご機嫌よう。フォルティス王子様。リルア王女様」
恭しく礼をしてくる我が国の筆頭魔術師のダンカン卿とその後ろにマドラも胸を逸らせて立っていた。彼も一緒に参加するみたい。
「今日は再び魔術のご講義を受けられるとか。では久しぶりなので今日は魔力量から計り直しましょう。幼少期は成長なさるのでそれに似合った内容でなければ。では失礼して」
彼は私に向かってタクト状の杖を振り上げた。杖の上部にはアメジストの水晶が嵌め込まれていてとても綺麗なものだった。
――魔術師になったらこんなものを使えるのね。ああ、なんだか見覚えあると思ったら、魔法ステッキだ。魔法少女にジョブチェンジするのもいいかもしれない。
「むむむ。むーううう」
ダンカン卿が奇妙な唸り声を上げた。ステッキが淡く光ると直ぐ消えてしまった。
「残念ながらリルア王女様には魔力はあまりありませんな。精々初級のものしか使えないかと思われます」
それは私にあのゲーム設定を再び思い出されることになる言葉だった。