二十七 樹海での死闘
※今回の話は少し残酷描写があります。
私は走り出していた。けれど今の私の姿は神官の女性用の服を着ている。普段のドレス姿よりかは動きやすいけれど。儀式用なのか真っ白な長衣だし、派手であちこちの裾が長い。草の汁とかで直ぐ汚れてしまいそう。
道はあると言っても馬車が通れるようなものではないので下生えに足を取られそうになる。
「姫君、危険だ。領主館へ戻ろう。こういうときのことはフォルティスから頼まれている」
「そうなのですか。でも、お兄様がもし……。私はそちらに確認に向かうだけです」
「では騎士団の内二人は門と駐屯地へ知らせに走れ。後はついてこい」
アラス様の指示慣れた口調に騎士団も従う。私はひょいとアスラ様に片腕に担がれて樹海の奥へと飛ぶように走るアラス様が暫く走った先は開けていて……。
そこには倒れ伏した騎士団員と辛うじて数名がバラバラでモンスターと対峙していた。ひと際大きな狼と十数匹の狼のようなものがいた。鼻につく異臭。
「ハーティか……、それにフォレストウルフの群れか、どれ姫君はここで待っていろ」
すらりとアラス様は腰の大剣、黒流剣を抜いて突入した。
「アスランが参ろう」
アラス様の声にフォルティスお兄様も気がついた。
「アラス様! リルアまで……。危険だ! 引き返せ、ここにはまだ……」
ゴフッと嫌な声がして、お兄様がその場に跪いた。口から見えたのは赤い……。そして辺りに漂う血の……。
「やっ、大丈夫ですか? フォルティスお兄様!」
何度も転びかけながら私はフォルティスお兄様のところまで駆けた。跪いてフォルティスお兄様を抱き起す。
「リルア、敵はハーティだけではないんだ。直ぐ引き返せ、そして領主にこのことを……」
何度も詰まりながら話すお兄様。
「お兄様はもう喋ってはいけません。癒しの水を」
私は水の回復呪文を唱えた。だけど、効き目はあまり良くなかった。体の奥、内臓がやられているみたいだった。どうしたら良いのか分からず周囲を見回すと既にお兄様の近くでバルドが倒れ伏していた。
「嘘でしょう。バルドまで……。癒しの水っ」
「姫君!」
アラス様の声が聞こえて周囲を見れば騎士団員も傷だらけで、私の周囲にはモンスターウルフ達が間合いを詰めて来ていた。
「はぁぁぁ!」
気合と共にその間に切り込んできたのは、刀を振りかざした女性。数匹のフォレストウルフが切り倒された。
「大丈夫ですか?」
あのハーレムパーティがモンスターから逃げるときの時間稼ぎの生贄にされた女性だった。彼女は私達に近寄ってくる。アラス様は少し離れたところでハーティと対峙していた。
「あ、ありがとうございます」
「逃げた方が良いのですが、恐らくここで……」
彼女は油断なく周囲を見張ってくれている。私は彼女を良く知っている。そうあのとき後ろ姿でそうじゃないかと思っていた。
「フリーニャ……」
「え、何故その名を……」
驚くフリーニャに私は目を閉じて呻いているお兄様を抱きしめながら続けた。
「私はあなたを探していました。フリーニャ。あなたは私の助けになってくれると……」
「……ほう、私のことをご存じのようですね。分かりました。ここで生き延びれたら話を聞きましょう」
「生き延びる?」
その途端、一気に視界が暗くなった。
「来る」
フリーニャが呟くや否や空気が振動してそれが獣の唸り声だと後から思い出した。その先には目にもとまらぬ速さで何かがやって来たことだけが理解できた。
「ハーティはフェンリルの息子、そう、ここには彼ら親子が……」
ぐっと呻くとフリーニャも跪いた。見れば肩から血を流していた。いつの間にか傷を受けていたらしい。私達をフリーニャは庇ってくれたのだった。
「フェンリルですって?」
それは『薔薇伝』中でも中ボスクラスじゃないの! どうしてこんなところでっ。勝てるわけないじゃない。もう少し戦闘できる状態でないと。まだ子どもなのよ。
さっきまで残っていた人影はもういない。それは一方的な蹂躙。
「危ない! 姫君」
アラス様の声が間近で聞こえると私達に覆いかぶさるようにしてきた。私はほっとして見上げようとしたーー、
「アラス様……」
「ハーティは倒せたが、まさかフェンリルが出てくるとは……」
ぐらりと崩れ落ちるアラス様。そして私の首から下げていたマドラからの守護石が光を放った。
「アラス様!」




