一 オープニング
お城の書庫で私は前を歩くお兄様の後を追っていた。大人の目を盗んでお兄様と側使えの子ども達だけで遊んでいたところだった。
薄暗い書庫の中でもお兄様の美しい輝きを放つ金髪を見失うことはなかった。
「ほら、リルア、こっちだよ。おいで」
「待ってよ。フォルティスお兄様」
目の前には豪奢な金髪に澄んだ青い瞳のお兄様が私の名を呼んで右手を差し伸べてくれている。
私は呼ばれて嬉しそうにその手を取ろうとした。でも途中で何か床に落ちていたらしくそれに躓いて転んでしまったのだ。
床に目を遣るとそこには一冊の本があり、それは見事な薔薇の意匠の分厚い表紙の古い本だった。
「こんなところに落ちて……」
私は手を伸ばしてその本に触れようとすると本が勝手にぱらりと開くとそこから光が溢れてきて、眩しさに私は目を覆ってしまったのだった。
そして、激しい何かの楽の音が鳴り響き、炎の爆ぜる音がそれに合わさった。驚いて瞼を開けると私の目の前には焼け落ちるお城の姿があった。
私の住む暁の城、エイリー・カシュラーンと称えられている美しい城が燃え上がる紅蓮の炎に包まれていた。
白い城壁が明け方の光に染まり虹色に輝く暁の色ではなく、まるで邪悪な呪いのように燃え盛る赤黒い炎に呑まれ崩れ落ちようとしていた。
「そんな、お城が……、誰か……」
喉の奥から声にならない悲鳴が上がる。
でも、目に見えるそれは空から眺めているようだった。まるで自分が空を飛んでいるようなあり得ないその周囲の情景にただなすすべもなく茫然としていた。
そして、崩れかけた城からは金髪の見目麗しい青年が逃れるように走り出てくるのが分かった。でもその青年の姿はまるでフォルティスお兄様が大きくなったらと思われるものだった。
その青年の手には光輝く剣が携えられていた。すると突然間近に青年が現れ、剣を私に向かって構えていた。でも次の瞬間には苦悩の表情で叫びながら彼は手を伸ばしていた。
その先には同じように手を伸ばす美しい少女の姿が現れたけれど二人はすぐ引き裂かれるように離れていった。
――その少女は大きくなった私に似ているような気がする。
次々と目まぐるしく変わる光景に私はただ茫然と見ているだけだった。
全て目の前に見えるのに私には触れることも叶わなかったのだ。
ああ、これって、オープニングムービー……。
そんな言葉が私の脳裏を翳めた。
そして、聞こえていたのはそのオープニング曲だった。