初クエストがショボすぎる!?2
「いや料理は?」
「何言ってんだい、ほら、こっちだよ。さっさと来ておくれ」
聖職者のような白いローブにダボダボの濃い赤色のワンピースを着たおばさんに案内されるまま二階に上がると、奥のぼろぼろの扉に通された。
「旦那が商人やってんだけど、その関係で長旅に行っちゃってね。普段は入るなって怒るから放置してたんだけど、今朝見たらあんまりにも汚いもんだから困っちゃって。あたしは廊下を掃除するから、適当にかたしといておくれ」
「は、はぁ」
バタンと扉が閉まり、完全に放置されてしまう。さっきまではあの飲食店独特の雰囲気なんだと思っていたが、そうではないらしい。道中、あのおばさんのような格好の人たちに好奇の目で見られたし、なんなら馬車にひかれそうになった。
「仕方ない、やるか」
見まわす限り本棚ばかりで、唯一ある勉強用らしき机こそ散らかり放題だったが、他はほとんどが床に散乱した古そうな本ばかりで、適当に左右の本棚に並べていけばすみそうだった。
「よいっ、しょ」
足元に散らばった本を近くの適当な本棚に戻していく。と、なにやら本の山が動いた気がした。
「ん、なんだ?」
一番上の本をどける。そこにいたのは真っ黒な毛並みのネズミだった。
「うわっ!!」
驚きのあまり尻餅をついてしまった。
「なんだい?」
聞きつけたおばさんが扉から顔を出す。
「ったく、ミスミくらいで驚くなんて、頼りないよそもんだねぇ」
「ミスミ? ネズミじゃなくて?」
「は? あんたの町じゃそういうのかい? なんでもいいけど、そのミスミも適当にかたしといてくれよ」
「かたすって、どうやって……」
「んなもん踏みつければいいじゃないか。やったことないのかい?」
「踏みつける? あれを?」
考えるだけでグロすぎた。子供には見せられない。というか大人でも見たくはない。とはいえまさか本で叩くわけにもいかないので、結局丸めたいらない新聞紙をもらい、叩いて動かなくなったところを家の外に放り出した。
「片付いたかい?」
しばらくして、再びおばさんが顔を出した。
「はい、ちょうど呼ぼうと思ってたところです」
「どれ」
ドラマの姑みたく窓枠のほこりを指でこすりだすかと思いきや、ざっと見て回って片付いているのを確認しただけだった。言動通り大雑把な人らしい。
「ありがとよ。報酬は、1500ギルグだったっけね」
「ぎるぐ?」
「はぁ? あんたまさか、知らないのかい?」
おばさんに盛大なためいきをつかれる。
「あんた、そんなんでよくこの町まで来れたね。普通旅人なら外貨くらいそろえてるもんだろうに」
「はぁ。まぁ、初心者なもんで」
おばさんは使い古していそうな茶色いきんちゃく袋に手を突っ込んで、金貨や銀貨を手渡してくれた。
「へぇー、これがギルグ」
物珍しそうに眺めていると、おばさんがため息交じりに教えてくれた。
「銀貨の裏にエンブレムがあるだろ? それがこの町で信仰されてるアーレーン様っていう、女神様のシンボルマークみたいなもんさ。旅人なら、それくらい覚えときな」
裏返すと、十字架を天使の羽で包み込んだエンブレムがあった。一方金貨には、そのアーレーンという女神様らしき人物の顔が描かれていた。みかけだけみると、アメリカのドルやセントに書かれていそうだ。
「このマーク、教会のパイプオルガンにもついてた気がするな」
「なんだ、知ってるのかい。ま、あそこは今儀式の最中だから、入れないけどね」
おばさんに礼を言い、僕は再び酒場に戻ることにした。