part1 空の母
※この話は地球上での話でもなく、異世界の話でも無いため、前提を理解するためにラバーム星について一部解説したものがあります。そちらを先に見て理解するようお願いします。
各地で爆発が起きている中、私はひたすら走っていた。
「全員撤退!!この島から出るぞ!」
「ハルゾー隊長!まだ格納庫に…」
「いいから逃げろ!自分の命を優先しろ!!」
「は、はいっ!!」
「格納庫にまだいるのか…くそっ」
物の影に隠れていても容赦なく飛んでくる銃弾と強い爆風。とてもじゃないが格納庫のやつらに指示できる状況じゃ…。
「……!まずい!」
上空の飛行機が爆弾を落とすのを見た。
既に…遅かった。
「ぐぅう……っ」
格納庫を吹き飛ばす爆発。地面がバリバリと鳴り響き爆風で体が飛びそうになる。
「………すまない…」
格納庫にいたやつらを助けることはできなかった。
足元に落ちていた仲間のドッグタグを拾った。
たまたま近くまで飛んできたのだろう…。
とにかく逃げなくては…只事じゃない。
「戦争だ……」
始まってしまった。
「戦争が……始まった……!」
………それがつい先日、1800年1月21日の事だった。
私はそのあと奇跡的に無事だった複葉機で三国島から脱出したものの燃料が尽きて海へ不時着…というかほぼ墜落。
墜ちる前に無線で座標を知らせていたため、すぐに海軍の手で救助された。
そして、今はアルフェイン王国の首都にある王立病院にて入院中なのだが……。
「なんか落ち着かねーな…」
王立病院じゃ落ち着けない。
たしかに私は王様との面識もあり、空軍ナンバーワンのパイロットと呼ばれているが…ちやほやされすぎだ。無駄に豪華だし……。
とにかく、拾ったドッグタグを家族の元へ早く返してあげたいものだ…そして、謝罪もしよう。
『……マリュコイセ国は我が国と同盟を結び……ベタルフィア帝国と戦争を行う模様です……』
ラジオのニュースが戦争の話で絶えない。
「戦争か……」
我々の住むこの星はいままで戦争が起きなかった。
戦うことを知らなかったからだ。
だが、今では戦争が始まってしまった。
……「三国島」を巡って……
?「ハルゾー、調子はどうだ」
長い黒髪の男…見慣れた姿だ。
「春介か。父さんと呼べ。」
春介「別に良いだろ…で、調子は。」
「退屈でしょうがないな…早く出たい。」
「元気そうだな…。マリュコイセの話はー」
「あぁラジオでもう聞いた。同盟を結んだそうだな」
「なら話は早い。マリュコイセの海軍とこっちの空軍が協力することになった。後日、マリュコイセが新造した空母とかいう艦の訓練がある。」
「つい先日開戦したばっかだが、随分と早いもんだな…焦ってるな…無理もないか…」
「三国島がほとんど奪われてるのはまずいからな」
「そうだな…」
「とりあえず、それだけ。そんじゃ。」
「あー春介」
「なんだ」
「こないだの演習1位だったらしいじゃないか。今度の飲み代でも奢るぞ。」
「そりゃどうも。楽しみにしてるよ。」
そう言って長い黒髪をなびかせながら病室を出ていった。
「後姿は嫁によく似てるな…」
数年前に病死した嫁のことを少し思い出していた。
-1800年2月2日-
マリュコイセ国
ハヌイ湾
無事に退院できた私はマリュコイセ国との共同訓練のためにハヌイ湾に来ていた。
春蔵「でけぇ…これが空母か。」
春介「マリュコイセの造船技術の凄さだな…うちの国じゃ到底できねぇな。」
見れば見るほど納得の出来だ。平たくて素っ気ない感じだが近くで見ればやけにデカい。
春介もそう思ったのか
「ひとつ言うなら…的になりやすいな。」
「……たしかにな。」
デカすぎて不安だ。面積が広すぎる。爆弾は確実に受けそうだ…。
?「あ、お二人様はアルフェインの方々ですかー?」
横から話しかけられた。
話しかけてきたのは鳥の羽が背中についている黒髪で黒が基調の服を着た少女だった。この特徴なら…
「そうだが君は……マール族か」
「はい!マール族のカイレナと申します!」
「カイレナか…マリュコイセはラバーム星で唯一の多民族国家とは聞いていたが本当にそうなんだな。」
「おかげで羽休めしやすいです。こうして働くこともできますので〜」
服を黒としているのはマール族と判断するためだろう。マリュコイセは人との繋がりを大事にする…。我が王国も見習うべきだな…。
「あっ、そだ…用件を伝えに来ました。こちらの手紙を受け取って下さい。」
「ありがとう。これは今読んでも良いものかな」
「はい、大丈夫です!」
元気の良い子だ。マール族は鳥なだけあって声が大きい。
手紙にはこう書かれていた
『春田 春蔵 、春田 春介 の両名は本日より2週間マリュコイセ海軍第1航空隊の隊長の指示に従い行動せよ。訓練、演習を重ねアルフェイン首都へ帰還、その後特殊作戦の立案及び実行を行ってもらう。』
「……ハルゾー、なんて書いてある?」
「だから父さんと呼べって…まぁいい。ほれ。」
手紙を春介に渡す
「………へー……ここでわざわざ泊まり込んでまで演習か?」
「理由があるんだろう。まず俺たちは空母を使ったことがないからな。」
「まぁ…そうだな………とりあえず隊長とやらに会わなきゃいけねーな。」
「そうだな…今から行くか。」
「あ!行かなくて良いですよ!」
カイレナが止める
「え、なぜ?」
「なぜならばっ!マリュコイセ海軍第1航空隊隊長は私ですからね!」
………ん?
「……………」
「……………」
親子2人でぽかんとしてしまった
「……つまりあなたがー…隊長ー…?」
「はいっ!」
威勢の良い声が響く
「……失礼ですが、年齢は」
「10歳です!!」
「……俺よりも下ァ?!」
春介でも流石に驚いた。
そりゃそうだ…春介は不老期が始まったばかりだから今は13歳。
だがこのカイレナ……いや、カイレナ隊長は10歳ってことは不老期すら始まっていないぞ?!
「その…なんかすいません。隊長だったとは」
「無理もありません。幼いのは事実です。」
「いやはや…ではその…カイレナ隊長、2週間の短い期間ですが、ご指導お願いします。」
「はい!こちらこそ!しっかりついてきてね!」
「相手が女だからって気抜くなよハルゾー」
「お前も同じだ。あと父さんと呼べ。」
「はいはい」
こうして2週間の訓練が始まる事となった。
カイレナ「まー…初日はまず空母について艦内を回りながら説明することにしましょうか。」
春蔵「よろしくお願いします。色々知っておきたいので。」
春介「機密とか大丈夫〜?」
「アルフェイン王国とうちの国に機密なんていりませんよ〜。むしろどんどん見ていってください!」
「本当にいいのかそれ…」
「私が良いならいいんですよ♪」
「はは…まぁ、機密があったところで王国に造れる技術はありませんよ。問題ないです。」
実際のところ、本当に無い。今ある王国の戦艦だって元々はマリュコイセ海軍が使ってたやつを譲ってくれたものだ…。
「じゃあまずは航空甲板ですね。飛行機の発着艦は主にここで行われます。滑走路みたいなもんです。」
「ここから飛べるんですか」
「艦自体そこそこ高さがありますし、発艦時は向かい風と艦の速度を最大にあげるので意外と余裕ですよ。」
「あ〜なるほど…」
「あと、今は停泊中なので風とかはあまり無いですが航行中になると波しぶきと潮風をモロに受けます。身体はベットベトになりますよ〜」
「そうですか…わかりました。」
艦に乗ったことはあるが甲板に出ることは基本なかったからな…今後多くなるかもな。
「では、こちらへ」
どこに行くんだろう?
「はいここでストップです!」
「甲板の真ん中ですか。ここに何か?」
「まぁまぁ待ってて下さい♪」
待つって……
「………ん………うぉっ?」
身体が軽……いや、甲板の一部が下がってる?!
「なるほど、エレベーターですか。」
「お、春介さん冷静ですねー。そうです、これはエレベーターです!」
「この大きさだと、機体を運べる分といった感じですか。」
「その通りです。もうすぐ着きますよー」
エレベーターが下がりきると、そこには格納庫があった。
「ここが飛行機の格納庫です!弾薬装填や燃料補給などは主にここで作業されますよー」
「航空甲板の下が格納庫か…無駄なスペースが無いですね。これは効率が良い。」
「今はアルフェイン王国のa-f31複葉戦闘機を使ってますが、それで大体40機は格納できますねー。航空甲板にも敷き詰めれば合計で60機はいけますかね?」
「なるほど…すごい…でも、a-f31はたしか旧式ですよね。あれはかなり小型のはず。」
「そうなんですよー。恐らくこれからの飛行機を考えると大きくなるでしょうし収納方法が今のところこの艦の課題ですねー。」
「ふーむ……」
「とりあえず訓練で使うのはこのくらいですかね。」
「その訓練ですが、具体的にはどういう?」
「主に発艦と着艦です。アルフェイン王国にとっても、私達の国にとっても初の航空母艦ですから私達もまだ完全には扱いきれていません。」
「それで王国からの試験者が私達ということですね。」
「そのとおりです!春蔵さんと春介さんはマリュコイセでも有名ですし!」
「……俺はテキトーにやるよ…余裕だ。」
「……いや、せめて真剣にやろう春介…」
「明日の訓練飛行、春介さんは私の後部座席行きですね。」
「は?」
「ちょっと気合を入れてあげますよ♪」
「……よかったな春介。昨日の夜隊員に聞いたんだがカイレナ隊長の飛行は破天荒らしいぞ。」
「春蔵さんは後ろで私の飛行をなるべく再現してください。きっと役に立ちます!」
「いいでしょう、やってみます。」
「とりあえずあらかた紹介も早く終わったのでお二人さえよければ発着艦訓練をしたいと思うのですが」
「俺は大丈夫だが…春介は?」
「ん…どっちでもいいよ」
「よし、やるとしよう。ベタルフィアの連中と早く戦えるようにしないといかんからな。」
「では、私は艦長へ連絡します。格納庫にお二人の飛行機を用意してますので整備士の指示で航空甲板にあげてください!」
「了解しました。」
「そんじゃ…行くか、ハルゾー。」
「父さんと呼べ。」
「へいへい」
こうして訓練を始める事になったが、この間にもベタルフィア帝国は進軍を続けている。
マリュコイセ海軍によると、三国島はアルフェイン王国最後の採掘プラントを残してベタルフィア帝国が独占しているらしい…。王国のプラントが占領されるのも時間の問題だろう。
恐らく、私と春介は航空母艦を利用した戦術考案をしなくてはいけないだろう。きっと三国島にも行く事になる。早いうちに考えておくのが良いだろうな。今度春介と2人で話す事にしよう。
Part1 終
補完
a-f31複葉戦闘機
名称「アーフ」
アルフェイン王国が1789年に開発したラバーム星初の飛行機「a-f07」の改良機。
小柄で少量の燃料で飛べるのがウリであり、「a-f07」の安定した設計と生産性、機動性が認められ戦闘機として1792年に改良された。
エンジンは2気筒のかなり小型な造りとなっており僅かな燃料でも効率良く動く優秀な物となっている。
機関銃は13ミリ弾を使用する。初速が遅く、威力は弱い。
1800年になると古さが目立ち、生産は終了した。
多くの軍で練習機として使用される。安価なため、国民がエアレース用として買うこともある。
マール族
人型でありながら背中に鳥の羽が生えた種族。
マリュコイセ国で住むことができ、識別カラーとして服の色は黒を基調としている。
種族の特徴として、飛ぶことができ、女性が多い。
マリュコイセ国における種族の中でも最も人口の多い種族である。