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酒呑童子と夜叉姫

目的の家に辿り着いた俺たちは辺りを見渡した。

闇の瘴気に侵され建物はどんよりしている。


建物は家と言うよりも屋敷と言った方がいいだろう。かなりデカい。

土地も大きく軽く2000坪はある。


門には衛兵が居たそうなのだが酒呑童子が居座ってしまった晩には警備も薄く塀を乗り越えられてしまったそうだ。


「ふぅ、、、なぁオロチ丸?これからどうする?どこから入ろうか?」


『そ、そうですね、、、やはり1度正面から行って退去をお願いするのはいかがでしょうか?』


オロチ丸は凄くバツの悪そうな顔だった。


「そっか、、、そうだよね、、、1度はちゃんと《話し合い》しなくちゃね?」


『はい。それがいいかと、、それでもし取り付く島がないのならやむ無く武力行使になると思います。ですが、、、出来れば《酒呑童子》は退治したくはないのですが、、、その時はその時ですね。』


オロチ丸は語尾を下げ、頭も下げて閉まった。


「ん?《酒呑童子》一口で丸呑みにするって息巻いてたのに、、、どうしたの?」


『いえ、、、何でもありません、、、那岐様そろそろ行きましょうか、、、』


オロチ丸はどうも元気がなくそっぽを向いてしまうのだった。


ここは俺が倒すしかないな。と思う火神であった。


ガチャガチャ、、、ギギギィ、、、、


俺たちは預かっていた鍵を使い家の扉の鍵を解錠した。


「少し埃っぽいね?もしかしたら居座ってから長いのかも知れないな?」


『、、、そうですね。』


うーむ、、、どうしたものか、、、


取り敢えず挨拶だけでもしとこうかと火神は考えた。


「こんちには!!《酒呑童子》さんですか?少し話をしませんか?」


、、、、シーーーーーン

虚しい、、、、


よし。灯りや匂いの方向に行ってみよう!


俺たちは1階にある台所へ向かう。


「誰も居ないな、、、?食べ物が散乱して、、、腐敗臭も凄いな、、」


そこはまるでゴミ屋敷化した部屋になっていた。


玄関から入った俺たちは埃っぽいが家主の生活していた頃のように綺麗でそのまま保たれている事に安堵していた。


家の中がグチャグチャだと屋敷を取り返しても意味が無いだろうからだ。


「よし。次は応接間かな?中央にある大きな部屋に入ろう?」

『、、、はい。』


俺たちはゴミを掻き分け廊下に一旦出ると汚れしまった靴を地面でトントンとしてゴミを払う。


ギギィーー、、、


応接間には争った後が残っており血飛沫があちらこちらに壁を汚しているのが痛々しい。


血液が腐った臭いや腐敗臭も酷く噎せ返る。


ゴホッゴホッ、、、


「ゴホ、、、ここにも居ないね?じゃあ2階に上がろうか?」


『、、そうですね。行きましょう。、、、どうやら間違いなさそう、、どうしてよりにもよって《あなた》なの、、、唯一の、、、はぁ、、、話し合いに応じてくれれば、、、或いは、、、』


何やらオロチ丸がぼそっと何かを言っていたが火神には聞こえる事はなかった。


もしもこの時しっかりと聞いていればこの後起こる惨劇は引き起こらなかったかもしれなかった。


ぎぃ、、、ぎぃ、、、ぎぃ、、、


俺たちは階段を上がり廊下に到達する。

廊下に上がるとムワッとしたアルコールの臭いがする。


2階は腐敗臭も無く《酒呑童子》が居る可能性が非常に高いことが窺い知れた。


「これは、、、この部屋はお酒の臭いが凄いね?ここなのかな?行ってみようか?」


『、、、他の部屋を見てからにしませんか?』


オロチ丸はまだ覚悟が決まっていないのか他の部屋の捜索を促す。


「そっか!それもそうだね?じゃあ、、、」


『誰だぁ?俺様の屋敷に勝手に入るなど笑止千万。余程の命知らずと見える。俺様直々にぶち殺してやろう。早くこっちの部屋に入ってこい!』


《酒呑童子》と思しき人物が部屋の中から罵詈讒謗の限りを尽くす。


「オロチ丸。やっぱりこのまま行こう。これ以上先送りには出来そうもない。覚悟はいいかい?」


『はい。那岐様。全ては那岐様のために。。。』


オロチ丸は悲痛な顔で語尾を濁す。


「よし!行くぞ!!」


ガチャ、、バァァン!!


火神はけたたましい音を上げながら扉を蹴りあげる。


するとそこは客間なのか小さなテーブルと4脚の椅子が並んでいた。


その1脚にドカンと酒が入っているであろう瓢箪がおいてある。


横には俺より少し年上のお兄さんと言った感じの青年が瓢箪からぐびぐびと酒を呑んだくれている。


しかしその風貌はとても美しくまるで女性のようだった。


かつての日本。

酒呑童子の鬼となる前。

彼はとても美少年だった。

多くの女性に恋をされ大量の恋文を貰うようになった。


しかし酒呑童子は興味もなく全ての恋文を読みもせずに燃やすことに。

するとその恋心が煙となり酒呑童子を飲み込んだ。

その日を境に酒呑童子は鬼と成るのである。


「ふわぁぁぁ。。。む?屋敷の人間では無いな?お前たちは誰だぁ?名を名乗れ!」


酒呑童子は凄み俺たちを威圧する。


「俺の名は火神那岐。でこっちはオロ、、、、」


八岐大蛇(やまたのおろち)じゃ。酒呑童子よ。

何も言うな。何も話す気は無い。この屋敷を去れ。それだけだ。』


「、、、、八岐大蛇か、、、ふっ、、、くっくっくっ、、、面白い、、、かつての《厄災》の主では無いか、、、フハハハハハハ!!!、、、俺様の怨みの根源となる存在、、、いざ尋常に勝負しやがれ!八岐大蛇!!!!」


いやいや、、、俺の立場は?

まぁオロチ丸と知り合いのようだしオロチ丸に任せようか?


「オロチ丸俺はどうしたらいい?」


『僕に任せてください。《あれ》に負けることはありません、、、しかし、、、躊躇しますが。』


「躊躇?何か理由が?」


『いえ、、、良いんです。那岐様のため。《酒呑童子》よ!いざ尋常に!』


次の瞬間オロチ丸は酒呑童子に飛びかかる。


酒呑童子は今まで呑んだくれていたとはとても思えない程の速度で椅子から飛び上がり、オロチ丸に相対する。


「ほほぅ、、、お主も中々やるようになったようだな?」


『はっ、、、?昔の俺様とは訳が違うわ!貴様などグチャグチャに握り潰してくれるわ!』


酒呑童子はつま先に力を入れ、体を沈みこませる。


『奥義、、、無双噛砕(むそうごうさい)!』


口が顎が外れたのでは無いかと思われる程大きく開き八岐大蛇を噛み砕こうとする。


オロチ丸は本来の八岐大蛇の姿になり、白色の頭からブレスを吐く。


『白銀の息吹(ホワイトブレス)!』


酒呑童子はブレスの発生と共に一直線に八岐大蛇へ向かっていたのを切り替え、急に俺の方へ向かってくる。


オロチ丸が放った白銀の息吹は俺の方へと迫る。


ハッとしたオロチ丸はつかさず白銀の息吹を止め、八本の尾で攻撃を仕掛ける。


八岐大蛇の尾には八本の剣が入っているとされる。


そのうち俺が貰った天之尾羽張と、かつての戦いで奪われた草薙剣を除く六本は未だに尾にあると言う。


尾に入った剣が重りとなり、かなりヘビィな一撃になるらしい。


「危ねぇ!オロチ丸とやるんじゃなかったのかよ!お前がその気なら、、、天之尾羽張で、、、」


『那岐様。待ってください。僕がやります。少し離れれててください!』


オロチ丸は普段出すことがないような大きな声で言い、切迫した表情のまま酒呑童子を睨む。


『ふっ。護りながら戦うとは。。。最凶の厄災竜と名高い《八岐大蛇》が聞いて呆れるわ!生ぬるい!!』


酒呑童子は両手を広げ天を仰ぐ。

彼の体に闇の瘴気が纏いはじめる、、、、


『何て瘴気だ、、、なら、、、これでどう?浄化の息吹(クリーンブレス)!』


オロチ丸は苦渋の顔を更に顰め聖属性のブレスを吐く。


『くぅ、、、さすがは母上か、、、』


え?今なんて?


『ならば、、、全力でいかせてもらう!酒噴轟火焔(しゅふんごうかえん)!』


酒呑童子の口から激しい炎と共にアルコールが飛んでくる。


アルコールは更に焔を巨大化させ、まるで龍が空を翔ぶかの如き焔となりオロチ丸に迫る。


ゴゴゴゴオォォォォオオオーーー


『くっ、、、中々の威力だね、、、しかしこの八岐大蛇の鱗を焔が通すと思うの?まだまだ未熟者のようだね。』


、、、やっぱ、、、八岐大蛇の子ども?

聞き間違いじゃないよね、、、?


「ちょっとまったーーー!!!!」


『『!?なに?』』


2人の激しい攻防は火神のひと言で休戦状態になる。


「親子なんでしょ?、、、なんで、、、親子で戦ってるの?」


『俺様は母上に怨みがある。ただそれだけだ。』


『僕は那岐様の望みを達する為。それ以外の理由はないです。。。』


「じゃあちゃんと話し合おうよ?戦うならそれからでも遅くないでしょ?」


火神は悲痛な顔で2人に向き合う。


オロチ丸は主人のため。

酒呑童子は過去の怨みのため。

それは戦う理由としては充分であった。


しかし火神は納得出来なかった。

オロチ丸は悲痛な顔で戦い、酒呑童子は全力で攻撃する。

これでは弱者による蹂躙では無いかと。


そもそも《蹂躙》とは強者のみができるはずである。


しかし弱者も相手の弱味を握ることで蹂躙する事が出来る。

相手の事を踏み躙る行為だからだ。


酒呑童子の《怨み》とは何なのか?

それ程までの怨みなのであろうか。

聞くまでは納得できるものでは無い。


「怨みって何だよ!お前のお母さんなんだろ?じゃあちゃんと話し合えよ!」


『話し合う余地など無いのだ。それは母上とて相違なかろう?』


『そうだね。僕も相違ないよ。でもだからといって息子を殺すことは出来ない。僕の負けかな。。。』


『ははは!では、、、死ねぇ!斬鉄剣(ざんてつけん)


「それだけは許さない!うぉぉぉぉお!焔よ宿れ!烈火斬鉄剣!」


火神は今まで使ったことの無い技だったが頭の中に急に使い慣れたかの如く技が閃き、天之尾羽張に焔を纏わせ上段の構えから袈裟切りした。


それは轟音と共に酒呑童子の肩口から右足先に至るまで完全に一刀両断した。


『ぐはぁ、、、、なんて斬撃だ、、、俺様の斬鉄剣の比じゃないじゃないか、、、くそぉ、、、、』


床には真っ二つになった絶命間近の酒呑童子が転がる。


それを見て八岐大蛇が飛びつき抱きしめる。


八岐大蛇が抱きしめる酒呑童子の体からはドクドクと血液が溢れ、最早喋ることも儘ならない。


火神はオロチ丸を助ける為とはいえ、オロチ丸の息子を斬殺してしまった。


『なんでこんな事に、、、どうせ死ぬなら息子の前に死にたかった、、、』


まるで川が氾濫したかの如くの涙が八岐大蛇の目から零れ落ちる。


それはかつて八岐大蛇の伝説ともなった島根県の斐伊川を彷彿とさせるものなのかもしれない。


八岐大蛇とは一説によれば川の氾濫とも伝えわる。


それ故に水のブレスを得意とする事と関係あるのだろう。


八岐大蛇の使うブレスの中でも最も強力なブレスは水属性である。


八岐大蛇が抱きしめる酒呑童子が何かを伝えようとしている。


『が、、、かは、、、か、、母ちゃん、、、俺、、、親不孝でごめんなぁ、、、俺さ?、、、頑張ったんだぜ?前の世界では人に恨まれて妬まれて、八岐大蛇の息子ってだけで蔑まされてな?それで母ちゃんの事恨んじゃったんだよ。、、ぐっ、、、で、、、な?、、、ある日、、、突然こっちの世界に《鬼族の全て》が飛ばされてな?俺らはこっちで魔王退治をさせられちまったんだよ。だけど、、、日本では蔑まされた俺達も魔王を倒すと喜ばれてな?そりゃあ嬉しかった、、、だけどな、、、?俺たちは裏切られたんだよ。《アイツ》に、、、』


『もぅいいから、、もう、、、ゆっくり休んでいいから、、、ごめんね、、、お母さん何もしてあげられなかったよね、、、お母さんが八岐大蛇だから苦労かけてさ?本当に駄目な親だった。。。人間との子供を望んだばかりに、、、申し訳ないじゃ済まされないよね、、、本当にごめんね、、、あなたは私の自慢の息子だったのに、、、比婆山に出家させてしまって、、、一人ぼっちに、、、ごめん、、、ごめん、、、』


『いいんだ、、、母ちゃん。そんなの分かってるんだから、、、俺もね、、、こっちの世界で、、、自分の子供が出来たんだよ?今となっては、、、母ちゃんの気持ちは痛いほどよく分かるんだ、、、』


「じゃあなぜ争ったんだ?話せば分かるじゃないか!」


火神は声を荒らげて酒呑童子を睨みつける。


『そりゃあ無理ってもんさ。。。俺の娘の為だからな、、、分かるだろ?子供の為なら死すら超越するのさ、、、俺の娘は今、、、《魔王素戔嗚尊(すさのお)》に捕らえられているんだ、、、俺には素戔嗚尊に逆らう事は出来なかった。そして《お前達》を待っていたんだ。本当の勇者たる《火之夜藝速男神(ひのやぎはやをのかみ)》の生まれ変わりの火神那岐をな?』


「ひのやぎはやをのかみ?誰、、、それ?」


『何も知らぬのだな、、、お前はかの有名な《カグツチ》の生まれ変わり。カグツチの事を火之夜藝速男神と言うのだ。火の神である。そして、、、魔王の中でも最凶最悪の魔王、、、伊、、、邪、、、がは、、、、そ、、そして、、、おま、、、え、、、、の、、ち、、ち、、、』


酒呑童子はぐったりと倒れこむとそれ以降動くことは無かった。


最後まで娘を心配し私を想い、それでも戦わなければならなかった彼を弔うために、、、


八岐大蛇は、、、、、、、


彼を、、、、、、、、、


タベタ、、、、。


せめて魔王討伐する時に少しでも近く感じさせる為に。


それはもしかすると押し付けかも知れない。


しかしそれでも俺たちは酒呑童子の遺志を継ぎ魔王を倒さなきゃならない。


少しでもチカラを手に入れる為でもあった、、、


八岐大蛇は目を閉じ、彼の冥福を祈ると泣きながら酒呑童子を丸呑みにした。


俺たちは彼の娘、、、《夜叉姫》を必ず救出することを約束し屋敷を後にした。

少し悲しいお話でした。

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