幸福の鐘
難陀は焦っていた。
此処にオロチ丸がいるはず。なのにその情報はどこにも無かった。
難陀は一足先にイェド・プリオルに入ったが続々と街に入る火神の仲間達と状況は変わらなかった。
ギルトへ行き、情報屋に聞き、裏稼業をしているだろう人物にもあった。
しかしみな耳を揃えて言う。
「何も悪いことは起こっていない。そんな人物《蛇》は見ていない」と。
難陀は今日太守と面会する。
ギルドへと面会依頼すると昼前の数分間なら時間を取ってくれると言われたのだ。
この街のギルドは変わっている。
ほぼこの街の全権を握っていて情報ネットワークも網羅されている。
裏稼業の人間はどこ街にも存在するが此処ほど弱体化している組織は無かったかもしれない。
裏稼業=暗殺や人攫いなど人に話すことを憚られる仕事だがこの街は違った。
人に言えない仕事ではあるが人が死んだ場所を清掃するなど人が嫌がる仕事を一手に引き受ける組織であった。
その仕事は多岐に渡るが案件も少なく仕事自体がほぼ無いのだ。
よって表家業の傍らに報酬が良い人が嫌がる仕事をする組織《幸福の鐘》がそれだった。
幸福の鐘の社長ヒルバ・アンテングは本日もたった5人の仲間を引き連れてギルドへ向かう。
ギルドに着くと彼らは建物の裏手に回る。
警備兵に会釈すると「今日もいい天気だな。」などと挨拶を交わしギルドの裏口から建物内に入る。
ここから入るための入場証はギルドから依頼がある場合のみ送られてくる。
それが合図となっていた。
「ふぅ、、、今日はどんな仕事なんだろうねぇ。わたしゃ気が進まないよ。」
ヒルバ・アンテングは40代の中肉中背。
白髪が少し最近気になり始めた女性である。
ダイエットと称して肉体的な仕事を熟すも痩せることはなく、寧ろ筋肉が増え体重は増加。
本人は最早諦めモードである。
ヒルバ・アンテングは裏稼業が好きな訳では無い。
嫌々ながら親から引き継いだ家業だった。
そもそも100年以上前まではどこの街にもある《マフィア》の様な形態であったがギルドが新しくなり、街の制度が変わってからというもの組織は変わらざるをえなかったのである。
そもそも裏稼業が好きな訳ではないヒルバにとっては好都合であったのだが。
表家業は主に便利屋である。
時には水道工事を手伝い、家の建築や土木作業。
煙突の清掃などもした。
全ての仕事において依頼主から感謝の言葉を言われる仕事であった。
ギルドは人が嫌がるが人が喜ぶ仕事を幸福の鐘に進んで回したのだ。
結果《幸福の鐘》は住民達に認められた。
裏稼業をしている時の傲慢ながらひっそりとした生活と比べると、人々から感謝され表立って生活出来る喜びは生き甲斐に感じるほどの充実感。
最早裏稼業なんてしたくないのだ。
しかし最近住民たちも裏稼業として薄ら認識し、キツい、汚い、危険と言った仕事を担ってくれる《幸福の鐘》を認め尊敬すらしてくれるのだ。
そんな街の住民たちの期待に沿うべく本日も裏稼業をするのである。
ヒルバはギルド内部に入り何時もの様に箱に入った紙を見る。
この紙はギルド経由で発行されるクエストとは異なり簡素な造り。
その紙には簡潔にどこにも行け。此処を掃除しろ。など最低限の条件しかない。
ただそこには必ず瑕疵がある。それだけだ。
そしてその瑕疵には決して触れてはならない。
詮索することも許されない。
それが裏稼業をする上での絶対条件である。
本日の内容はこうだった。
依頼
要人を指定の場所へ安全に送り届けること
詳細はグリード・フォーゼ宅にて
報奨金 金貨10枚
なっ、、、!金貨10枚?破格すぎる、、、
金貨1枚100万円換算なので1000万円だ。
要人とは言えただの護衛に払われる金額ではない。
国のトップや国の存続を左右する書状ならば有り得るかもしれないが。
そしてヒルバは一言。
「お受け致します」
小さな声で澱みなく答え、肌身離さず持ち歩く代々受け継がれるアンテング家の印を紙に押す。
そしてその紙を元にあった箱に入れるとヒルバ達6名はそそくさとギルドを後にした。
そしてその晩ヒルバはフォーゼ氏の待つ邸宅に向かうのだった。




