オロチ丸の頭
『や、やぁ、、、ぼ、ぼ、ぼっ、僕の名前はシルフィーナ。よ、よよ、妖精さ!』
かなり動揺したのか吃っている。
ジトーっと周囲に見つめられ居心地悪そうに身じろいでいた。
妖精は信じる対象にない。
それは火神達に浸透していた。
しかし安倍晴明の式神であることはまた知られていない。
《生き物》ではなくただの人形の1つという事を知っていれば即座に消し去る事も出来るのだがこの時はまだ行動に移せない。
そして後手に回ることになる。
『シルフィーナはティンカーみたいに意地悪じゃないよ?オロチ丸さんの事で話があるの。。。』
顔を俯きいかにも悩んでいる風に喋る。
『なぁに?話だけなら聞いてあげるよ。』
オロチ丸が俯いているシルフィーナに向かって声をかける。
『うん、、、僕はね、、、?ティンカー達がやった事はいけないことだと思うんだ。でも僕達妖精はセイメイさまに命令されてしょうがなく、、、言わば騙されてたんだよ。だからさ?僕がこっそりと持ってきたんだよ。僕がいた場所には1つしか無かったんだけど、、、オロチ丸さんの頭。はい。これお返しします!』
どこからとも無くオロチ丸の頭を出すシルフィーナ。
それは火神が開けた歪みのようなものを操る術で《歪暗術》という。
異空間との接続をする術であるが人が通る程の力はなくモノしか存在できない。
火神達は気づいていないが《オロチ丸の頭がモノ》と言うことになるのだ。
オロチ丸は嬉嬉として受け取り歓喜の声を上げる。
『やったーーーーーー!まだ1個だけど帰ってきた!シルフィーナありがとー!』
自分の体の一部が帰ってきたと嬉しそうに話すオロチ丸であったが裟伽羅は釈然としない思いであった。
裟伽羅には分かっていた。これは安倍晴明の罠だと。
自身の妹である優鉢羅は序列3位の龍王。
遊び人ながら世界から《龍王》と称される龍族の1人なのだ。
難陀に次いで2位というその強さは折り紙付きである。
しかし安倍晴明の手にかかれば最強の武器であった《強運》すら発動する間もなく捕らえられてしまった。
オロチ丸も間違いなく騙され捕えられることは明らかである。
なんせアホな子オロチ丸なのでしょうがないのだ。
裟伽羅は悩む。
安倍晴明の邪魔はしたくない。
そして優鉢羅を助け出すという使命は忘れてはいない。
しかし安倍晴明に思う様にやられて同じような目にあうオロチ丸は龍族に近い存在。
きっとオロチ丸を売ったことを後悔すると思ったのだ。
しかし安倍晴明を裏切る訳にはいかない。
ここで良案とは決して言えないが裟伽羅に妙案が浮かぶ。
もう時間もなく直ぐに実行するしかない状況である。
『それをオロチ丸に返す訳にはいかん!《幻夢展開》!』
辺りは幻に包まれる。
広範囲に発動する幻術は最高難度の術であるが裟伽羅は無詠唱で発動させることが出来る。
その瞬間トンドラがハリボテの世界を解放させることになるのだが裟伽羅以外には気づく人はいない。
トンドラの街は裟伽羅の幻術によって近代化されていた。
それはかつての日本の再現を未来人から頼まれたからである。
せめて幻影でもいいから未来に帰りたいという願いを叶えた形。
その未来人の名は《桜羽》と呼ばれていたらしい。
火神の知り合いであるが気づく人は少ないであろう。
この世界に落ちてからは献身的に働き使命を全うすると光の粒となって消えたのだと伝わっていた。
火神達の周囲に展開された《幻夢展開》の影響でウロボロス以外慌てふためく。
そしてオロチ丸からシルフィーナに貰った頭を取り上げると『あっ!』とオロチ丸の声が漏れる。
裟伽羅はオロチ丸の頭を奪い取ると頭部の口を開けて《岩漿球》詠唱を始める。
裟伽羅は幻術は無詠唱で出来るが魔法に関しては非凡な実力と裏腹に詠唱を必要とする。
手にドロドロと岩漿が集まる。
その岩漿が大きくなりバレーボール大の大きさになったところで詠唱を止め口に放り込んだ。
そのまま《岩漿玉》をぶち込んだオロチ丸の頭部をシルフィーナに投げ返す。
シルフィーナは慌てて手を出すがマグマに匹敵する温度の球は1200℃の高温。
シルフィーナの手はそのまま溶け落ちオロチ丸の頭部はシューシューという音を出し毒素を放ち始める。
地面に落ちたオロチ丸の頭部を火神達は気づくことも無く混乱していたが裟伽羅が幻術を解くとそれも落ち着き唖然とした表情で裟伽羅とオロチ丸の頭部を交互に見ていた。
怒ることすら忘れていたのだ。
オロチ丸からすれば大事な体の一部が欠損したままと言うことになる。
オロチ丸はガックリと肩を落とし涙目である。
火神はみるみるとその表情を変えていきまるで鬼の如く顔に皺を刻み裟伽羅を睨みつける。
「どういう事だ!裟伽羅!返答によってはお前を殺す!」
ここまで怒り狂う火神を誰も見たことがなかった。
新参者のアルマゲドンはその豹変ぶりにガクガクと体を震わせていた。
空の覇者と呼ばれたアルマゲドンですら恐怖に陥れるほどの殺気。
手には天叢雲剣が握られていて先程までの神々しさは消え去り憎しみのオーラを纏っている。
天叢雲剣はその使用者の心を映し出す鏡の様な剣であった。
赤黒く染まる刀身は火神の心そのもの。
今はそこに憎しみといった感情がプラスされ禍々しい剣に変貌を遂げているだけである。
火神に睨まれ周囲が怯える中、オロチ丸の頭が限界を迎え始める。
内部からの熱気に絶えられず爆発寸前。
毒素がガスとなりパンパンに膨れ上がっていた。
爆発してしまっては大変だと咄嗟に《水球》をオロチ丸が放つが一瞬で蒸発してしまうのだった。




