ダンカンさんはどこへ?
その日俺たちはムリフェンの中にある工業地帯へと初めて足を踏み入れる。
砕けた天之尾羽張の中から出てきた深紅の刀《天叢雲剣》のメンテナンスをするためである。
従来火神が使っていた天之尾羽張とは古事記によると伊耶那岐命が加具土命を殺したとせしめるもの。
言わば火神の前身が殺された凶器である。
それを象った刀を使っていた火神は古代の神々から見れば滑稽であっただろう。
しかしその姿こそ天之尾羽張ではあったがその本質は天叢雲剣であった。
厳重な封印により護られていたかつて八岐大蛇を討伐した時に生まれたとされる草薙剣と同義の剣。
それが《天叢雲剣》であった。
十拳剣の1つ。
十拳剣とは古事記で度々出てくる神剣の総称である。
纏めて十拳剣と呼ばれるのだ。
10束の長さの剣と言った意味でその幅は拳ひとつ分である。
かつての古事記に書いてあった内容と違うとするならば使い手を選び深紅であることである。
その放つ威圧感は禍々しくまるで妖刀のようであった。
十拳剣は全部で5本しか残っていない。
天叢雲剣、天之尾羽張、大量、布都御魂剣、天羽々斬である。
その全てを実は火神はいつでも手にすることが出来る唯一の存在。
この世界にはかつての神々の名をした者がまだ居る。
しかしその存在は決して神などではなく紛い物である。
世界に蔓延る魔王たちがそれである。
火神がカグツチの生まれ変わりであることは本物で、この混沌の世界を正すために遣わされた言わば使者なのだ。
この世界にある物、者、魔物全てが作り物。
ある人物が力を蓄えるためだけの隠れ蓑なのだ。
火神は難陀との戦いで初めて天叢雲剣を使った剣である。
もうひとつオロチ丸から貰った燼滅剣も整備する必要があった。
カジノの景品としてはお粗末でメンテナンスされていなかったのだ。
そんなこんなで火神達は鍛治職人を探していた。
前もってギルドで有名な鍛治職人の名前は聞いていたのだが、どうやら裏道にあたる辺鄙な場所で細々と営んでいるらしい。
腕は確かでオリハルコンや龍の角など特殊な素材から剣を創り出す事も出来る名工らしいのだ。
「ふぅ、、、ちょっと疲れたね、、、ダンカンさんの店ってどこ?分かりにくすぎるよ、、、」
『そうですね、、、那岐様。行き止まりや橋の上など余りに入り組んで分かりませんね、、、新手の嫌がらせでは?』
もう工業地帯に入ってから軽く1時間は過ぎていた。
ギルド職員からも簡単にしか分からないから探してくれと言われ、今に至るのだ。
そんな時急に叫び声が聞こえる。
どうやら強盗の様だ。
『誰かーーー!そいつを取り押さえてくれぇ!店の金が盗まれた!!!』
必死な形相で箒と塵とりをもった中肉中背の150センチ程度の男性店主思わしき人物が叫ぶ。
その頭はハゲ散らかし残念でならない。
俺たちが歩く方向に強盗を働いたと思われる人物がはぁはぁと息を切らせ走ってくる。
『ど、、、、どけぇ!邪魔だ!邪魔だ!』
ナイフを振り乱しながら俺たちに向け怒鳴り散らす。
火神はフッと力を抜き左手に宿る《滅炎龍ヴァルバリー》を久々に召喚する事にした。
「冥界の守護者滅炎龍よ。我が左手に宿りしその力を今解き放たん!」
火神の左手が漆黒色に染まり轟々と燃え上がる。
火神自体は熱くないのだが10000度を超え、もしも誰かに当たったならば一瞬で消し炭になるほどの温度である。
1万度と言えば太陽の表面温度が6000度と言うことを考えれば相当な高熱であることがわかって頂けるだろう。
しかしその温度は空気には影響しない。
轟々と燃え上がる漆黒のコロナにも似たその炎に触れなければ大丈夫なのである。
しかし、1度触れてしまえば身体中を焼き滅ぼされることは明白であった。
ただ滅炎龍をその身に宿しただけの火神が自分を脅すために手品でもしたのだろうと侮り火神を蹴り飛ばそうとする。
火神はその左手で彼の頭をフッと触ると溶けるように頭部が消え去った。
残った強盗の姿は頭部が無くなったことに気づかず着地し数歩走ってバランスを崩すとぐしゃりと地面に突っ込むのだった。




