火神父の思い出
空の覇者《巨大山嵐》へと向かい飛び立った火神。
かつて現世で無類の動物好きで有名な高校生であったがそれは親からの動物飼育の禁止がもたらされた反動でもあった。
かつて火神の父親は猫を飼っていた。
親が生まれた時から存在した母親のような存在の猫である。
産まれたばかりの火神父に寄り添い甲斐甲斐しく世話すらする賢い猫であった。
猫の名は《チビ》火神父が名付けた訳ではないがとても可愛がった。
火神父がある日小学校で虐められた。
まるで某漫画の黄色い服を纏った巨大人みたいで凶暴性もそれに近かった。
何かに付けて因縁をふっかけてくるのだ。
まるで存在が気に食わないかの如くである。
火神父は3人にボコボコにされ泣きながら家に帰る。
しかし母は仕事。父も仕事。家には誰もいないのである。
せめてもの救いは親戚が歩いて1分以内に家を構えている事だが祖母との2世帯住宅の為、行ったところで歓迎されない。
火神父は家の前にある建物の影に閴と背中を預け咽び泣く。
頬を伝う涙が殴られて切れた唇を伝い口の中に入る。
滲みて痛むその唇をへの字に曲げ両目を腕でゴシゴシと拭き取るがとめどなく溢れる涙に【止まれよ、、、!】と思いながら空を見上げる。
空は澄み渡った空が広がりまるで太陽には建物の影にいる火神父の事は視界に入っていないかのようであった。
空を見上げて涙を流している火神父の足元にふっと違和感を感じた。
子供ながらに自殺を意識し、そして家族の悲しむ姿を脳裏に思い浮かべると急に首をブンブンと振ってその行動は周りから見れば異常行動であったと今は思い出される。
ハッと我に返った火神父は足元に干渉してきた何かに目を下ろす。
火神父にとってはその何かが何なのか分かっていた。
《チビ》であった。
火神父が小学二年生の時そのいじめは毎日あった。
いじめの強弱はあったがその日は特に酷かった。
その度に家に帰ることも出来ない火神父は、一人ぼっちで何処かに行くのだ。
しかしその決まっていない隠れて咽び泣く場所に必ず《チビ》が来るのだ。
どこからその情報を得るのか子供ながらに分からなかったが火神父の涙の匂いを辿って来ている事は確かであった。
火神父が泣いていない時は来なかったのだ。
少年の時の火神父は早生まれで体も小さくいじめの対象にもされやすかったが年上には可愛がられた。
それも虐められる原因になるのだが、、、火神父は知らず知らずのうちに虐められるのだ。
まぁある種天性の才能と言ってしまえるのかもしれない。
未だに会社では虐められる立場にあるのだから。
そんな心優しい《チビ》は足元にまとわりつくと《ニャー、、、、ニャー、、、、》と背中を火神父の足に絡ませ決して離れようとしない。
火神父はその優しさが後に《無償の愛》であったと感じる。
火神父の母親や父親ですら彼の中では《無償の愛》を与えてくれる存在では無かった。
愛されていなかった訳ではないがそれは無償では無いのだ。
子育てには色んな感情が入り交じる。
親の思いなど身勝手なのだ。
《チビ》の温もりに足から温められ空を仰ぎ更に咽び泣く。
そして半刻が経ち火神父が「チビありがとう。もぅ遊びに行ってもいいよ?」とチビに話しかけるがチビは一向に離れる素振りを見せない。
俺は仕方なく2年生のその体にはかなり大きいチビを抱き上げるとその背中をギュッと抱きしめる。
チビがニャーと鳴いたがきっとこの時彼女は「もう大丈夫?ほんとに?」と聞いていたのではないか?と今になって思う。
抱き上げたチビを地面に置くと少し前に歩き出したが後ろをチラチラと見返し此方を気にしていた。
チビの姿が見えなくなった時火神父の目からはすっかりと涙が止まっていた。
どうやらチビは癒された火神父の心情を察したらしい。
そして母と父が家へと帰ってくるのだった。
「おかえりなさい!」火神父は笑顔でそう言えた。
そんなチビがある日事故で死ぬことになる。
2匹目の猫を火神父の親が里親として貰ってきたのだ。
山に住む親戚が捨て猫を拾い、里親を探していたのだ。
名を《ミー》と火神父が名付けた。
ミーは好奇心旺盛でヤンチャな女の子であった。
三毛猫で安直な考えからミーと名付けられた。
そんなミーはチビと仲が悪くことある度に喧嘩をしては追いかけ回していた。
チビは優しい性格であったがミーに対しては厳しかった。
ミーはチビを慕い追いかけ回していたように感じるがそれは虐めているようにも見えた。
そんな日々が続いたある日。
チビは死んだ。
早朝まだ日が登る前のこと。
ちゅんちゅんと雀が鳴く声も車の騒音にかき消されることの無いそんな時間帯。
1台のエンジン音が聞こえる。
車とは違い軽いエンジン音。
ぶるるるると鳴るその排気音はバイクであった。
家の前で止まるバイク音に布団にくるまっていた火神父も気づいた。
その時いつもとは違いドン!と言う変な音も聞こえた。
毎朝の習慣で朝刊を取りに行っていた火神父は家の裏手にあるポストへと寝間着のまま向かう。
そしてそこには変わり果てた姿の《チビ》が横たわっていた。
弱々しく鳴くニャーと言う声は必死に火神父に『もぅ大丈夫だよ?』言っているかのようであった。




