オジン
氷の大熊の素材を集め終わった一行は山頂を目指す。
吹雪は勢いを増し、足元の積雪の深さは膝上まであったが飛行術を駆使し山肌スレスレを低空飛行していく。
あまり上空に上がらないのは吹雪の直撃を避けるためである。
目的を果たし酸素の要らない環境で活動できるウロボロスから雪雲の更に上空から行けばいいとの助言もあったのだが、火神は無酸素状態では活動出来ないため諦めたのだ。
ゴーゴーと音を立てて吹雪いているが彼らは環境結界を張り吹雪の直撃すらも避けていた。
ミスティリオの山頂までの道中は氷ドラゴンや氷結魔人などの魔物に出くわしが難なくウロボロスが一撃で仕留める。
西側のボス級は先程倒した氷の大熊だったようで魔物が統率を取り複数で襲ってくることも無くなった。
不意に来る初撃さえどうにか躱してしまえばAランク程度の魔物は火神達の相手にならない。
時々裟伽羅の幻術を絡めた魔法攻撃を見せてもらい戦闘の奥深さを学びつつ山頂に到着した。
ミスティリオの山頂には少し開けた場所があった。雪原と石畳と灼熱の大地が入り交じった異空間の様である。
その中央には草臥れた1軒の小屋があった。
小屋の周囲には雪も魔物も存在しない。
結界が張られている様には見えなかったが明らかに異質であった。
小屋には煙突がありモクモクと煙が出ていることから中に人がいることが確認できる。
麓の集落の族長に聞いた話では山頂には全てを超越した仙人が存在すると言い伝えられていた様だった。
まぁここ数百年誰も確認していないのだから不確定なのもまた至極当然であった。
火神達は東側から汗をダラダラを垂らす難陀とオロチ丸を発見した。
山頂にほぼ同時に到着したようだ。
環境に順応できるはずの彼女らが大量の汗をかいていることはそれ以上の過酷な環境であることが予想された。
魔物は大したことなかったが中腹頃から溶岩の中を遊泳したかの如くの熱量で自然にはありえない地獄だった。
酸素が薄く飛行や詠唱の必要な魔法も使えず《氷の息吹》を使い何とか山頂に到着した彼女らはヘロヘロであった。
オロチ丸はトンドラへと向かう道すがら身につけた《暴水嵐》を1度使ってみた。
その時一瞬温度は下がったがその後湿度を伴った熱波にやられ死にかけたのだ。
息をすると喉は爛れ、通常覆っている鱗には火炎耐性があるがそれを持ってしても防ぎきれない熱波であった。
熱波が収まったあと2人で吹き出しそうになったが息を深く吸っては肺がやられるため顔を見合わせて笑いあった。
5人が山頂に集結したので当初の目的を確認した。
氷の大熊の毛皮はBランク相当の小型が15枚にAランクの上質な毛皮が12枚集まっていた。十分な収穫である。
オロチ丸達も火焔鹿23頭分の毛皮を集めていた。
どちらも大量で持ち歩く事が大変な程である。
当初の目的を達したことを確認し、改めて山頂にある小屋に目をやる。
火神はトコトコと軽快なステップで小屋の戸の前に立つとコンコンコンとノックする。
シーーーーン
居ないようだった?
煙が立ち上っていたのに?
暫く待っていると小屋の窓の隙間から視線を感じた。
此方を伺い見ているようでその眼球には深い闇が感じ取れる。
火神はもう一度ノックする。
コンコンコン
小屋の中ではビクっとした事が想像出来てしまうほどの物音が聞こえ最早居留守を使えない状況になる。
中にいる人物は諦めたのかのそのそと歩き、歩を進める度にギィギィと床が鳴っていた。
ギィィィー
戸が開いた。
中から出てきたのは超絶小型の獣人であった。
60センチ程の小ささで赤ん坊と遜色のない3等身である。
しかしその風貌は立派な鬣と筋骨隆々の肉体で肉体の大きさとのギャップ萌えが凄い。
胸には胸当てを装着し、手には黒々としたクローをはめている。
下半身には皮で出来た腰巻を巻き、ミニサイズながら戦士の様な出で立ちである。
可愛いもの好きな火神は思わず抱きしめてしまいそうになったが、何とか堪えた。
『お前らは誰じゃ!?わいの住処になんの用じゃ!はよぉ帰れ!』
変な広島弁のような話し方をする獣人。
「俺の名は火神です。俺たちはテントの素材を集めに来た冒険者です。あなたの根城を荒らす真似をしてすみません。ただ山頂に何があるのか?伝説は本当なのか?がどうしても気になって来てしまったんです。。。気を悪くしたならごめんなさい。。。」
火神は素直に目的を話し謝った。
しかしオロチ丸達は感じていた。
『『『ハグしたいだけだな!』』』と心の中で叫ぶ。
小屋にいた獣人は真摯な対応をされる事が初めてなのかオロオロし始める。
その仕草は真剣な表情がかえってコミカルに感じ愛らしく見える。
『そ、そ、そ、そうなのか?なら良いのだ。ミスティリオの素材はみんなの為のものなのだ。わいの名は無い。と言うか永き年月により忘れたのだ。昔麓の民にはオジン?だったかオリジンだったかそう呼ばれていた。よろしくな!』
変な広島弁はタダの虚勢でこの喋り方が本来の話し方の様である。
しかし永遠とも感じる永い時を1人で過ごし話し方すらも少し忘れているようである。
彼のことはオジンと呼ぶことにした。
オリジンと呼ぶと伝説そのものを指すことを教えると恥ずかしそうに『そんな大した者ではないのだ!』と顔を赤らめられたのである。
そして火神達はオジンに案内され小屋の中に入ることになった。
小屋の内部は質素な作りながらもミスティリオ山頂とは思えないほどの快適さでソファーやベッドに巨大な水晶玉が置いてある。
床はそのままだと寒いのか火焔鹿の毛皮が敷き詰められており暖かい。
中央には囲炉裏もありそこには肉を燻製にしているのか火に直接当たる肉と煙にしか当てられていない肉とに分けられていた。
魔法による影響か小屋の中は煙による匂いはなく煙ってもいない。
かえって過ごしやすい環境に驚くばかりである。
「オジンさん。ここいい所ですね!どこにも行きたくなくなるの分かりますよ!」
『そうだろう?獲物を取ったらあとは何もしたくないんだ。分かってくれるのだな?ふふん!』
オジンはこの小屋を褒められてやたらと嬉しそうにふんふんと鼻息を荒くしニヤニヤしている。
すると我慢ならなくなったのか火神が突然オジンを抱きしめてしまう。
『カガミ!何をするのだ!やめるのだ!』
とジタバタしていたが諦めたのか体の力を抜き火神に質問をする。
『これはなんなのだ?なんで匂いを嗅ぐのだ?変なのだ!』
「これは俺たちの挨拶です。親愛の意を込めてするのが常識なのです!」
と無理やりな言い訳をし、火神は更にオジンの頭をグリグリと自分の鼻に押し付けてクンクンと匂いを嗅ぐ。
その香りはライオンの様な血腥い獣臭ではなくミントの様な爽やかな香りでまるで草原にいるように心が洗われる。
恍惚な表情でうりうりと鼻を押し付ける火神をみて、それまでのポジションを奪われた感じのオロチ丸は嫉妬するが先程までの登山で汗をかき汗臭さが気になる為に火神の傍に近づけないでいた。
『うう、、、、僕も那岐様にうりうりされたい、、、』
龍化を解いているオロチ丸はいつも通りのマスコット的な愛らしい見た目であるが今の火神には獅子のマスコットに夢中なのであった。
ワイワイと過ごした小屋での1シーンであったが上空を何者かが飛んでいる爆音がして全員が退避行動をとる。
小屋の外に出ると皆が固まった。




