刺客
トンドラをたったその日の昼。
商隊は途中幾度となく火竜などの属性竜に襲われるが龍王2人や天界龍ウロボロスが火神達に襲いかかる前に一瞬で蹴散らす。
セイトからトンドラへの移動時もそうであったようにこの大陸には竜が多いそうだ。
別名龍の巣窟とも呼ばれている。
ライラック王はそんなこと一言も言ってはくれなかったが、危険度でいえばかなり上位に来るほどの危険度の大陸だと言う。
「あの、、、クソたぬき親父が、、、」
ブツブツ火神達は文句を言うがライラック王の《ふはははは》と笑い声が聞こえた気がする。
気にしたら負けなのである。
まぁ強者達の従者のお陰で商隊の荷台でゴロンとなるほどヒマな火神。
ウトウトとうたた寝を始めるも荷台の揺れですぐ起こされる。
先日の変な夢が影響し寝不足なのだ。
ふぁぁぁぁあ
大きな欠伸に合わせたかの様に荷台が飛び跳ねた。
明らかな悪意を感じる。
荷台で寝転んでいた火神は頭を持ち上げ御者に目をやるとオロチ丸であった。
先程までは御者のおじさんが座っていた席にオロチ丸が座って此方を睨んでいるではないか。
火神は面倒くさそうに頭を荷台に降ろそうとするとまた荷台が跳ね上がる。
「もぅ!なに?オロチ丸!」
『那岐さまぁ、、、僕寂しいの、、、隣に座りません?』
4つの首をもつマスコットサイズに変身したオロチ丸が此方を恨めしそうな上目遣いで見つめてくる。
「う、、、っ、、、、負けるもんか!」
火神は砂漠対策で購入した布を頭にぐるぐる巻きにすると荷台に体を投げる。
視界と音を遮断し寝る気である。
呼吸するのが苦しくないのか?と疑いたくなるほどのぐるぐる巻きなのだがターバンの様な布ではなく、質素ではあるがメラハフの様な素材の布であり透けるような素材な為に息苦しくなることは無かった。
『もぅ!いいもん、、、いいもん、、、』
どうやらオロチ丸は不貞腐れてしまったらしい。
しかし火神は眠たいのだ。彼女に構っている場合では無いのだ。
まぁ先程の4本首のマスコットのキラキラした目は可愛かったのだが。
火神は荷台で穏やかな眠りにつくことになる。
商隊はムリフェンへと向かう途中にある湖に浮かぶ集落で休息をとることにしたようだった。
商隊のリーダーサルバトロスが交渉に向かう。
元々の予定では上手く行けば夕刻にはムリフェン近郊の遊牧地に到着する予定であったがどうも風の影響で馬車が思う様に進まず遊牧地での野営は控えようと言う判断である。
風の影響でテントが飛ばされるのはまずいのだ。
遊牧地とは言え魔物は出る。
まぁだだっ広い事から敵襲が来たとしても対処が遅れることは無いのだが。
テント内に居る商人達には戦闘の術はなく敵に攻撃されれば一瞬で死に至るのだ。
念の為ではあるが身代わりの魔石水晶と言う超絶高価な《1度だけ身代わりしてくれる魔石》があるのだが1つが金貨50枚と破格なのである。
商隊の商人が全員が持てると言った高級アイテムでもなくリーダークラスの代わりのきかない人物のみが持つことが許されている。
この世界最高位の錬金術士しか精製できないのだ。
一国の王ともなれば《身代わりの魔石水晶》だけではなく《不死鳥の羽》により多重保険をかけているのだとか。
《不死鳥の羽》は1度だけどんな攻撃も無効化し設定された位置に転移させてくれるといった珍品である。
《不死鳥の羽》は不死鳥ポイニクスの羽であり現存している個体は確認されているのは5匹と希少かつ絶滅危惧種なのだ。
サルバトロスが交渉から戻ってきた。
頭をボリボリと掻きながら少し困った様子である。
どうやら断られたみたいだ。
と思っていたら急にニカッと笑うと両手で大きな丸を作り交渉が上手くいったことを示す。
何ともお茶目なリーダーである。
火神は後で驚かされたお返しをしようと画策するのだった。
そしてサルバトロスはこの集落ではあまり出歩かない方が良いとの話をする。
ケプラー王国の王子であるクライス王子が此処で休息しているのだとか。
クライス王子は幼少期には悪童と有名でその名はこの大陸中に広まるほどであった。
些細なもので言えば大臣の髭をファイアボールで焼いたとか、侍女のスカートを凍らせてパンチを放ちパンツ1枚にさせたとか王子なら1度はやってみたい事から、山を丸々1つ陥没させてしまった事や、5つあった湖のど真ん中に大きな穴を開け湖の水を全てそこに集めてしまったなど想像を逸した悪戯の数々は全てが《クライス事件》と呼ばれる。
まぁどの悪戯に於いても人的被害がない事でお咎めされない点を見れば王の溺愛具合も分かるというものだ。
そんな悪童がこの集落に滞在しているのだ。
滞在理由は守秘義務で話せないと村長に言われたがまぁ大方の予想では天候不良の為だろうとサルバトロスは高を括っていた。
実は全く違う理由で此処を訪れていたのだが火神達は知る由もない。
そして夜が更ける。
火神達は村を覆う湖の周りにテントを張り休息につく。
4人用のテントには火神、オロチ丸(マスコット化している)、難陀(人型)、天界龍ウロボロス(人型)、裟伽羅(人型)といった構成になっている。
オロチ丸が小さくなってくれているので無理やり5人が集まった。
そして今後の予定を話し合うことになった。
まずは裟伽羅のギルド報告が最優先である。
次に特に予定では無いのだがオロチ丸の頭を取り返すことである。
あとは急がないと言っていたので別に優先するつもりは無いが裟伽羅からライラック王へ連絡させる事である。
その他には特に予定は無かったのだがオロチ丸が秋の収穫祭に参加出来なかったことを根に持っているらしく、裟伽羅から教えて貰ったケプラー王国の冬の風物詩でもある《氷結祭》に参加したいとの事だった。
クライス王子がひとつに纏めたと言われる巨大湖が冬の訪れてと共に厚い氷に覆われその湖上でスケートの様な事が出来るらしいのだ。
スケートが異世界に来てできるとは思っていなかった火神も楽しみになってきていたのだ。
ケプラー王国の《氷結祭》も予定のひとつに組み込むことになった。
こうして火神達はこの先の予定が大方決まったところで就寝につくことになった。
シーーーン、、、、
湖上に浮かぶ集落から離れているテントでは深い暗闇と静寂が広がる。
ゴソゴソ、、、、
誰かが立ち上がり火神の前に立つ。
月明かりさえも遮断されたテントの中では何が行われようとしているのか。
火神は夢を見ていた。
ムリフェンへと旅立つ前日にみた真っ白の部屋である。
しかし前回の様に話しかけられるのでは無くシクシクと啜り泣く声が木霊しているだけだ。
「誰?」
話しかけても返事は無い。
火神は何やら殺気を感じ取り咄嗟に目を開け《氷の嵐》を上空に向け放つ。
テントの布は凍りつきながら吹き飛ぶ。
火神が放った《氷の嵐》は誰にも当たらなかったが確実な殺意が感じられた。
どうやら火神は刺客に狙われた様であった。




