06話 冒険者ギルドと少年
だんだんと陽も落ち始め、頬を撫ぜる風に心地よさを感じる頃合いになり、それに合わせて人並みも落ち着いてきていた。
その街並みを闊歩する青年と少年の影が二つ。
マルクはその影が先刻より幾分か長く伸びているのを目端で感じつつ、アリエルから逸れないよう歩いていた。
「今日はあと一ヶ所だけ寄ろうと思う」
アリエルは徐ろに口を開いて言った。
アリエルの声は少し元気がなくて、マルクは少し心配になった。
「ん。どこ?」
「冒険者ギルド、だ」
「冒険者ギルド……」
──冒険者ギルド。商会、協会等のように、個々が集合し作りだした社会の一つであった。冒険者ギルドは冒険者と呼ばれる者達のの集合社会であり、狩りや採集、その他冒険者が活躍できるような依頼が集まる。また、有事の際は、戦力としても期待できるため、冒険者ギルドが大きくなるにつれ、国力も比例して大きくなる。そのため、冒険者ギルドの繁栄を促進させようとして躍起となる国家もあった。しかし、そんなことは冒険者にとっては関係のない話で、専ら、金稼ぎの他、情報収集の場として利用されている──
ベインズのこの冒険者ギルドは商業区の中心に位置し、その佇まいは街の象徴と言っても過言ではないほど巨大なものであった。
そもそもベインズの商業区は誰かによって決められて出来たわけではなかった。
お金がある場所に商売の種が落ちているように金銭の移動が大きい場所を中心に商会などが自然と集まり、今のベインズに商業区と呼ばれる区画が誕生した。
冒険者ギルドは数多の商会を差し置き、商業区の中心にその居を構えていた。
それだけでも冒険者ギルドが商業面においても中枢を担っていることがわかる。
しかし、マルクは冒険者ギルドは表面上のものしか知らなかった。
年端いかぬ少年ということもあるうえ、何より、今まで興味がなかった。
盗みを働き、その日暮らしの生活をしていたマルクにとって、冒険者ギルドはむしろ近寄りたくない部類の存在でもあった。
「ここでなにするの?」
訝し気にマルクは問う。
「そうさな、魔物を狩るのさ」
「魔物……、魔物!?」
アリエルの返事にマルクは素っ頓狂な声を上げた。
「魔物……」
三度目に発されたその言葉は今まで発したそれより一番低い声色であった。
マルクはその言葉をじっくり反芻した。
──魔物。生命体に含まれる魔力量が超大となり、個々が持つ容量を超えた際、溢れ出た魔力が個々の肉体を変異させてしまうことで魔物の類は生まれる。一般的に意思を持たない動物が魔物と化しやすいとされているが、伝説やお伽噺なんかでは、人間が魔物化する物語も存在する──
マルクは魔物の類のことは物語でのみ知っており、現実に存在することを知らないでいた。
そして、必死に物語に出てきた魔物のことを思い出そうとするも、物語に出てくる内容は害のみで、魔物による利は見いだせなかった。
まさに百害あって一利なしの存在であった。
「大丈夫さ。私がついてる」
「でも……」
マルクは未だに迷っていた。
マルクにとってアリエルは結局のところ、得体の知れない人物であった。
死ぬことが怖いものなどいない。
ましてや凶悪とされる魔物を狩ると聞いては、マルクが迷うことは当然であった。
「……マルク、お前は一度死んだ身だ。生き長らえることを諦めろ。私に着いてくるということはそういうことだ」
アリエルの低く冷たい言葉にマルクは固唾を飲む。
アリエルは、マルクの喉がじっくりと波打つのを見て、続けた。
「ま、魔物なんてそうそういるものじゃあ、ない。冒険者も、ひがな一日中狩ってるわけじゃない」
アリエルはそう言ってマルクに向けて笑顔を見せ、安心させることに努めた。
「零ではないんだ……」
マルクは項垂れて呟いた。
「さ、わかったらさっさと歩く」
アリエルは項垂れて突き出たマルクの尻を叩き、前へと進むのであった。
時間が欲しいです。葉月です。
少しずつでも書いていく予定ですので、今後ともよろしくお願いします。
呪縛転生なるものも執筆し始めましたので、こんなのもあるんだー程度に見ていただければ幸いです。