05話 開花
書き貯めてたものを全て吐き出した葉月酒夜です。
ここから先はじっくり書いていくしかないので、気長にお待ちいただければなぁ、なんて……。
武具屋を出てから、マルクはダガーを頻りに手を取っては眺めていた。
腰に掛けたり、鞘から外して手に持ってみたりと、そういったところは目が離せなくて可愛げのある子どもそのものであった。
「あんまり刃物で遊ぶと怪我するぞ」
「ごめんなさい。でも……」
「でも?」
マルクの言葉にアリエルは疑問を呈した。
アリエルは先の出来事を反芻してみると、マルクは何か気になったことがある様子であった。
「あのおじさん、凄い人だったね」
マルクはアリエルに視線を向けず、剣を見つめながらぼんやり呟いた。
「ああ、この剣もなかなか作れる物じゃあない。少なくともあの小間使いが作れるような代物ではないな」
確かに、強面の店主からは想像のつかない繊細な仕事がなされている出来栄えが、この剣には確かにあった。
「うん」
「それにしてもよくわかったな」
「ん。何が?」
「この剣があの小間使いが作ったものではないということに、だ」
「ああ」
マルクは向けていた視線をダガーからアリエルに移し、応えた。
「本当はよくわからなかったんだぁ」
「はぁ!?」
無邪気に笑うマルクにアリエルは驚嘆の意を返した。
「でも、他の剣を試してた時に、何か違うって思ったの」
「どういうことだ?」
「ふわふわした感じ?」
質問に疑問で返され、アリエルは困惑したが、マルク自身も正解を出せずにいたようであった。
「……もう少し具体的に」
「うんとね。なんか、試した中でこれだけ妙にしっくりきたんだ」
「それだけか?」
「うん。それだけ」
「ふむ」
アリエルはマルクが導き出した解答を反芻する。
歩を止め、顎に手を当てしばらく思い耽る。
「一寸それ、貸してくれるか?」
「ん。いいよ」
アリエルはマルクからダガーを取り上げ、マルクがそうしていたように天に翳したり、空を切ったりした。
「ふわふわした感じ、か……」
アリエルはぶつぶつ呟き、ひとり答えを探す。
柄をぎゅっと握りしめたりと様々試行する。
ややあって、アリエルの様を見つめていたマルクが口を開く。
「あ、それ! その感じ!」
「は?」
色々と試すアリエルの傍ら、マルクはひとりピンときたようで、大きな声でそう言った。
「今の感じに近い! 何したの?」
「何って、魔力を通してみたんだが……」
「魔力?」
首を傾げてマルクは問う。
「魔法を使うための力のことさ。少なくとも人間なら誰でも持っている」
「魔法を使うための力かぁ……」
マルクは俯いて、アリエルの言葉をゆっくり反芻しながら呟いた。
「もしかしたら、マルクにも魔法の才能があるのかもしれないぞ?」
「え? 本当?」
アリエルを見上げてマルクは言う。
「魔力を感知することは技術で以って会得は可能だが、お前の場合は生まれ持った資質が備わっているのかもしれんな」
「へえ」
興味深げに聞くマルクに気分を良くしたアリエルは話を続けた。
「しかし、ともすれば、あの髭大将、思ったよりも大物かもしれんな」
「武器屋の?」
「そうだ。」
「どの分野でも活躍している人間は本人の知らないところでも魔法を使っている場合があるのさ。さっきも言ったが、人間は少なからず魔力を有しているからな。まあ、それを自在に扱おうと思ったら相当な努力が必要なんだけどな」
人差し指を眼前でひらひらさせつつ得意げにアリエルは言う。
「うんうん。それで?」
「鍛冶屋なんかは普通は魔力の鍛練なんかしないからな。何度も剣を鍛える内に偶然生まれる会心の一品てのは、知らず知らずの内に魔力が込められて出来るそうだ。大方、このダガーはあそこの親方の自信作の一つなんだろうな」
「じゃあ、魔力を扱える人が鍛冶をしたらすごい武器ができるんじゃない?」
「まあ、そうなるな。魔剣とか宝剣なんて呼ばれてるやつは大抵がそうだろうな」
「なるほど。皆魔法の鍛錬をすればいいのにね」
「情報が出回ってないところをみると、門外不出の技術だからか、はたまた魔法について無知なのかのどちらかだな」
マルクの言うことは尤もであり正鵠を得ていた。
しかし鍛冶も商売の一環であった。
大勢への情報を共有は利益の分散に繋がる。
そのため利益を独占しようと企む者によって情報はひた隠され、このような状態になっているのであろう。
ましてや、魔法とは無縁の生活を送っている鍛冶職人が魔力の鍛錬などするはずがなかった。
その事実が余計に鍛冶技術の進歩を阻害してきたようであった。
「ふうん。ねえねえアリエル、今度僕に魔法を教えてよ」
「駄目だ」
予想外の返答にマルクは困惑した。
「えー。なんでさ」
「慌てん坊さんは魔法習得できないと相場が決まっている。お前はまずはダガーの稽古からだな」
アリエルはそう言って喉をくつくつ鳴らし、マルクの頭を優しく撫ぜ、そのまま続ける。
「生兵法が大怪我を招くように、魔法もそれに似たり、だ」
「絶対教えてよ!?」
「ああ、どの途いつか嫌でも知ることになる」
「じゃあ、今教えて──げふん」
マルクは頭への強い衝撃を受け、言葉を物理によって遮られた。
その強い衝撃の正体は、アリエルの手刀によるものであったのは言うまでもない。
「今はその時ではないと言っている。まあ、その内、だ」
「……ケチ」
「……何か言ったか?」
「いや何も……」
手刀を見せびらかし、満面の笑みでアリエルは言った。
そして、マルクは嫌でも目に映る物をしかと焼き付け、感じ取ったのであった。
──アリエルの背後から放たれる魔力の禍々しさを──
その後しばらく、新緑の楓がさんざめく音だけが虚しく鳴り渡るのであった。
情報戦は商売の基本です。
葉月酒夜の友人が、「別言語の新聞等が出回っている情報は既に遅れているもの」と言っていたのを思い出しながら書いてみました。
それにしても投稿するというのは相変わらず緊張して恥ずかしいものですね。
私は単純素直なので、評価等していただければやる気になって続きをバリバリ書いてしまうかもです(笑)