閑話_私は、この世界の主人公なのよ?
「何なのよ…何なのよあの女!!」
アリアは王城のゲストルームに軟禁されている間、ずっと声を荒らげてそう叫んでいた。警備員も、もう何十回と聞かされれば慣れて来たのか、気にしている様子はない。
「…私は、この世界の主人公なのよ?なんであの女は私の思い通りにならないの?」
悪役令嬢の癖に。…彼女はそう続けさまに呟くと、今日までの日々を回想していった。
曰く、彼女は転生者である。
彼女の前世は言わば、オタク女子と呼ばれる十三歳の少女だった。様々なジャンルのゲームをプレイし、その中でも彼女が最も気に入っていたゲームが、乙女ゲーム。それも、【永遠の恋と奇跡の魔法】というゲームにどっぷりハマっていた。このゲームは乙女ゲームとRPGが合体したようなもので、大変多くの女性に人気があった。
彼女は毎日寝る時間を惜しみゲームをプレイしていたが、悲しい事に、ゲームをしている最中にパソコンの上の台に頭をぶつけ、大量出血で死に至ったのだった。
それを哀れんだ冥界の重要管理職…いわば死神が、彼女が愛していたこの世界に魂を送り込んだのだった。これが、転生の理由である。
勿論、この世界はゲームではないし、この世界の住民も生きている。
だが、彼女は「ここは所詮ゲームの世界でしかない」と考えていたのだ。自分が主人公であり、自分に逆らうものなどいない。そう彼女は幼少期まで考えていた。だが、それは所詮彼女の家が子爵家であり、現代当主の王家への忠誠も高い事から、普段アリアに逆らうものがいなかっただけである。
社交の場に出れば、アリアより身分の高い者も沢山いる。だが、アリアは例によって自分が主人公なのだから何をしても許されると勘違いし、自分より身分が上の令嬢に喧嘩を売りまくっていた。それでもお咎めは特になかった為、アリアは「やっぱり、私が主人公だから私に逆らえる人なんていないのね」と、またまた勘違いを増長させた。
これは、喧嘩を売った相手の令嬢の心がとても広かった事と、子爵が誠意をもって令嬢とその実家に謝罪をしたからである。決して、アリアが特別な訳ではない。その時にアリアは両親に注意をされた筈なのだが、特に気に止めていなかったのだろう。
学園に入ってからは恋愛イベントの通りにストルフを攻略し、昨日の夜会が主人公をネチネチと虐めていた悪役令嬢の断罪の場…だった筈だったのだが。このイベントは失敗に終わった。
これは、アリアにとっては完璧に予想外の事だった。
今までずっとイベント通りに進めて来たはずだった。悪役令嬢の妨害はゲームよりだいぶ少なかったが、少しの会話でも睨んできたり、彼女の取り巻きが悪口や嫌味を言ってきたりするのは全てイベントと同じだったのだ。
なら、何故あの断罪が失敗したのか。
それは、悪役令嬢の正体が関係していた。
あの乙女ゲームには、第二幕があったのだ。
だが、アリアはそれに気づかないし霊王に対する謝罪もしない。彼女の思考回路は自分は主人公で全ては悪役令嬢が悪い。そう思いこんでいるからだ。
「ストルフ様…」
彼女は王城のゲストルームで想い人の名前を呟く。
明日は悪役令嬢に会う日。昨日は出来なかった断罪を明日、国王夫妻の前で徹底的に今までの事を暴露するのだ。
ふふふ…と不気味に笑い、彼女は眠りについた。
ちなみに、ディアマスとヨシュアも攻略しようとしましたが、馬鹿殿下とは違い馬鹿ではないので攻略されませんでした。
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