見ろよ、今度は兄様達だけじゃなくて国王夫妻も唖然としてるぞ
翌日の今日、私は王城の門の前にいます。理由は前にいる役人的な人と王城の警備員さんが、喧嘩をしてるからです。ちゃんと仕事しろよ警備員。兄様がキレかけてるじゃないか。キレたら怖いんだぞ兄様。
いつ兄様がブチ切れるかドギマギしながら終わるのを待ってると不意に声が聞こえてきた。この声は…
「いい加減にしろ、客を待たせるな。」
私の憧れディアマス殿下である。やったね!
今は兄様がディアマス殿下の所に行って入城許可とかうんたらかんたらをしてくれてる。私のお友達のリズ嬢が兄様達が一緒いる所を見ると目が幸せになると言ってたから今のこの光景を見せてあげたい。きっと目が幸せになるはず。
あ、入城許可の手続き終わったみたい。まあ、そうだよね。国王陛下が呼んだんだから入っちゃいけないとかないよね。
「待たせて悪いね、ローゼ嬢。あの警備員と役人はちゃんと然るべき罰を与えるつもりだ。」
…なんて、ディアマス殿下が言ってるんだけど、気遣いが嬉しい反面、警備員さん達何されるんだろうとか思っちゃったりする。なんか、とりあえずご愁傷さまとしか言いようがないんだけど。
王城の中を歩いて行くが、とにかく広い。広すぎる。こんなに歩かないといけないなら国王陛下達が家に来てくれれば楽なのにね。てか、なんでわざわざ面倒臭い作りになってるんだろうこの王城。向こうに食堂があったり図書館があったりして、軽く街一つくらいあるよこれ。
そして兄様は仲良くディアマス殿下とお喋りしてるんだけど、何この羨ましい状況。兄様その場所代わってよ。私もディアマス殿下とお喋りしたい。
数々の困難─と、いう名の退屈─を乗り越え、やっと謁見の間についた。まあ、謁見の間と言ってもほとんど使われる事がなくて、簡易的なものなんだけどね。そこに、国王夫妻と馬鹿殿下とアリア嬢がいる。
うん、アリア嬢が私を見て嫌そうな顔をしたけど、私も君には会いたくなかったよ。ついでに馬鹿殿下にはもっと会いたくなかったよ。私はディアマス殿下は好きだけどあんたは嫌いなんだ、人として。
「ご機嫌麗しゅうございます。アイリーン公爵家のローゼ・フォン・アイリーン、ただいま到着しました。」
とりあえず、国王陛下に挨拶しないのは失礼すぎるから挨拶した。まあ、多分一国王と霊王だったら霊王の方が偉いんだろうけど、機嫌を損ねてアイリーン公爵家がお家取り潰しになったら困るからね。なんか申し訳なくなるし。
「ああ、座ってくれ。」
陛下の隣には王妃陛下がいるんだけど、二人共顔が青い。どうしたの?そんなにこの前のフェンリル怖かったの?それとも体調悪い?大丈夫なのそれ。なんなら私国王陛下からの謝罪はいらないから帰りたいんだけど。
「…ローゼ嬢。君への愚息の非礼、改めて謝罪する。済まなかった。」
うん、陛下、貴方は頭下げなくていいんだよ?私、主に謝って欲しいのは馬鹿殿下とアリア嬢だからね?
「いや、なんであんたが謝ってんの?」
不意に、後ろから声が聞こえた。振り向くと、フェンリルと、隣に赤髪の美女がいる。
あ、フェニックスだね、擬人化した。うん、誰かが分かれば怖くない。大丈夫、フェニックスは仲間だ。私の配下だ、怖くない。
「フェニックスの言う通りです。陛下が謝罪する理由などありません。」
「だが、息子の非礼は親の責任だ。」
ぐぬぬ…なかなか頑固だな陛下は。私としては陛下に頭を下げさせるなどの無礼は許さんって感じでお家取り潰しになったら困るから辞めて欲しいんだけど。
ってなわけで、こっそりフェンリルとフェニックスに視線を送り、何とかしてもらう事にした。
「は?我らが霊王様が謝罪はいらないって言ってんのよ?だったらあんたは黙ってそれを受け入れればいいのよ馬鹿じゃないの?」
フェニックス…最後の馬鹿じゃないの?は、いらなかったかな。どうしようこれ、助けて兄様ー。それかディアマス殿下ー。
「父上、彼女もそう言っていますし、謝罪云々は終わりにして、ストルフの婚約破棄の件を話した方がいいかと。」
あ、やっぱり好きですディアマス殿下。ナイスフォローです。あと、出来れば婚約破棄の件は秘密裏に破棄して一生表舞台に出さないで欲しかったです。まあ、無理だろうけど。
「うむ、ではこの話はこれで終わりと…」
「いや、あんたは謝罪しなくていいって言ったけど、誰も謝罪しなくていいとは言ってないんだけど?」
私の配下は話に横槍を入れるのが好きなのだろうか。確かに私もそう思ったけど、もうほじくり返さなくて良かったのに…
「…そうだな。ストルフ、謝罪を。」
「………貴女の名誉を傷つけた事を謝罪する。」
めっちゃ不満そうだけど、まあいいか。事実上、誰がどう見てもあの状況は殿下が謝る方が筋だし。
まだ、何か言いたそうなフェニックスを視線で黙らせて、この話はお終いになった。アリア嬢からの謝罪はもういいや。
「では、話を戻して。ローゼ嬢、正直ストルフとの婚約破棄をどう思う?」
お、来やがったな!安心しろ、こんな婚約は破棄してやる!
「正直に申し上げてもよろしいでしょうか?」
「ああ、君の率直な思いが聞きたい。」
良かろう。なら本心を隠さず、オブラートに包みまくって丁寧に婚約破棄してやる。
「…正直、もうストルフ殿下との婚約を考える事は出来ませんわ。殿下も私と婚約破棄をしたいようですし、私も殿下とこのまま婚約など、到底出来ません。なので、婚約破棄を望みます。」
少し長くなったが、本心のありのままの姿はこんなクズと婚約なんかしたくないです、だ。
だが、またもや横槍が入った。今度はフェニックスからではない。まさかのあの馬鹿殿下からの横槍である。
「どういうことだローゼ!!俺と婚約破棄するなど、許さんぞ!」
今なんつったコイツ。私の耳が正しければ、婚約破棄など許さんぞとか、ふざけた事が聞こえたんだけど、気のせいかい?見ろよ、今度は兄様達だけじゃなくて国王夫妻も唖然としてるぞ。
「どういう事と言われましても、殿下から婚約破棄をすると仰ったのではありませんか。」
「アレを本気で考えていたのか?安心しろ、冗談だ。」
は?何言ってんのコイツ。殴っていい?霊王様、本気のパンチを喰らわせてもいい?多分大気圏まで突っ込む自信はあるよ?
「冗談だろうがなんだろうが、あの場は公式な夜会の場です。あの場で起こったことは記録に残ります。それに、あんな大勢の方々がいらっしゃる場所で言った事は冗談では済ませられません。あと、私は殿下と婚約を続ける気もありません。」
「何故だ?俺と結婚すればお前は将来王妃になれるのだぞ?」
は?何言ってんのコイツ。二回目だけど、何言ってんの?国王陛下の世継ぎはディアマス殿下でしょ?馬鹿なの?
「この国の王位継承権第一位はディアマス殿下ですが。」
「ああ、だが、霊王であるお前が俺と結婚すれば、俺は王になれる。」
なんなの、コイツ。結局は私の恩恵目当てなの?まず、私霊王だから婚約破棄して学園卒業したら霊王としての仕事をする予定だったんだけど。つまり、私はこの先もオールドミスとして霊界の女王として君臨する予定なんだけど、勘違い乙。
「アリア嬢とは、どうするつもりなのですか。」
「アリアは側室として傍に置く。だが、正妃はお前だ。」
おい、この国は一夫一妻制だぞ。あと、お前に側室を作る権利なんてないぞ。まず、お前は王になれないから。
「それから…」
「いい加減にしろ、ストルフ。」
あ、ディアマス殿下が割って入った。うん、まあ世継ぎである自分を差し置いて弟が王になるとかほざいてたらツッコミしたくなるよね。大丈夫、私がディアマス殿下の立場でもそう思うから。
「はあ…人間って、馬鹿が多いのかしら?」
「いや、アレが極端に馬鹿すぎるだけだろ。霊王様は記憶がない状態でも素晴らしい人格者だった。」
「そうよね!霊王様だものね!あいつが馬鹿なだけよね!」
おいそこ、一旦黙れ。殿下が馬鹿なのは認めるが、これは馬鹿なだけじゃない。これは、全ては自分の思い通りにいくと勘違いしている脳内お花畑けの腕力面でも役に立たない思い込み野郎だ。魔王と天王も脳内お花畑の脳筋馬鹿だが、あの二人でさえここまで酷くはないと思うよ?
「お前はローゼ嬢に公式の場で婚約破棄を告げた。それは紛れも無い事実だ。そこで一つ聞くが、ローゼ嬢になんの不満があった?」
「だから、冗談だったと言っているだろう。」
殿下達が兄弟喧嘩…いや、ディアマス殿下が正論言ってそれに殿下が口答えしてるだけか。あと、確かに殿下は私になんの不満があるって言うんだ。私は超絶美女だぞ、母様の血を引いてるから。
「冗談だと言うのなら、何故公式の場で言った?ローゼ嬢の名誉が傷付くのは分かりきっていただろう?今後、貰い手がいなくなる可能性が充分にあるというのに何故、そんな事が出来た?」
「だから、貰い手は無くならない。俺がローゼと結婚すればいい話だろう。」
うん、この馬鹿殿下の口答えは傍から聞いてたら笑えるな。笑わないけどさ。でも、私が話の話題になってるから笑えないんだけど。ねえ、フェンリルとフェニックスどっちでも良いから乱入してくれない?私このまま馬鹿の口答え見るの嫌よ?だって相当嫌な気分になるもん。
「はあ?あんたが霊王と結婚?いやいや、笑わせないでよ。」
は?なんでいんの?お前。