婚約破棄したらwin-winじゃないか
あの後、とりあえず母様達には一旦部屋を出てもらって行ったんだけど、夜中に兄様が訪ねてきた。なんでも、ストルフ殿下の不敬について謝罪したいから王城に来てと、国王陛下から言われたらしいんだよね。
あと、私の事が学園ですっごい話題になってたらしい。うん、まあ、私霊王だしね。今なら私にめっちゃ失礼なこと言ってきたアリア嬢に仕返しとしてマオリーヴ子爵家の領地吹き飛ばせる程の力はあるしね。まあやらないけどさ。
ちなみに、殿下とアリア嬢は王城で謹慎中なんだって。まあ、霊王に散々不敬を働いたんだからそうなるか。
「で、体調はもういいのか?母上達が心配していたぞ。あと、ディアマスから手紙を預かってきた。」
うん、そんな気遣いができる兄様が好きです。そういえば忘れてたけど、私倒れたんだったね。ディアマス殿下とか国王夫妻の前で。
うわぁ…最悪だ。でも、それでディアマス殿下から手紙を貰えたんだからプラマイゼロか?
「ありがとうございますお兄様。王城には明日伺った方がよろしいのでしょうか?」
心の声の口調と現実の口調が違うのは気にしてはいけない。私は家族の前でもお淑やかな令嬢を演じているのだ。理由?いちいち家族と世間で口調を変えるのが面倒臭いからだよ。
「お前の都合でいいと言われたが…なるべく早い方がいいな。」
うん、だよね。流石に何日も私…というか霊王への不敬をまだ謝れてないっていう不安を抱えさせるのはアレだもん。流石に可哀想だし、私に対して不敬なことしたのはストルフ殿下とアリア嬢だもん。うん、ディアマス殿下達は悪くない。
「それと、あの馬…ストルフ殿下とまだ婚約を続ける気はあるか?」
……何言ってんの兄様、あるわけないじゃないかそんなの。私、学園のパーティー会場で婚約破棄告げられたのよ?まず、あんなのと私結婚したくない。
てか、なんで今その話題なの?私はディアマス殿下から手紙貰ってルンルン気分だったのに。
「いいえ、全く。あんな殿方、こちらの方から願い下げです。」
って、思わず即答しちゃった。それには兄様に苦笑されたけど気にしない。まだ正式には婚約破棄されてないだろうけど、向こうも私が嫌、私も向こうは嫌。
うん、婚約破棄したらwin-winじゃないか。殿下は愛しのアリア嬢と結婚でもするといいさ。
「だよな?あの馬…ストルフ殿下が変なことを言っていたとディアマスがな。」
変なこと?殿下が?もしやここまで来てまだ私に文句があるとか、そんな事はないよな?あったとしたら霊王の権力最大限にまで使って叩きのめしてやる!!
よし、フェンリルも連れて行こう。フェンリルがガン飛ばしてくれれば交渉なんて簡単なものだよね、所詮は人間だし。あ、私も今は人間か。
うーん…一回霊界に戻って完全に霊王になった方がいいか?それとも、ローゼの身体をこのまま使った方がいいか?
まあ、どうせ霊界に一度帰るんだしその時決めればいいか。
あの馬鹿殿下が何を言ったのかは知らんが、フェンリルと私のコンビに勝てると思うなよ!!
あ、でも万が一勝てなかったらちょっとダサいからフェニックスも連れていこう。うん、そうしよう。これなら霊法だけじゃなく天法と魔法が使える人間がいたとしても勝てる。うん、これで勝てない人は魔王と天王だけだ。大丈夫、あの馬鹿殿下が攻撃してきても大丈夫。
「とりあえず、王城には明日お伺いしますわ。」
「そうか、ではそう伝えておく。母上と父上は忙しいから明日一緒に入れないが、俺は同席するから何かあったら頼れ。」
ああ、やばい。ディアマス殿下といい、兄様といいなんで私の歳上には素敵な人が多いのだろうか。あの馬鹿殿下も少しは見習ってくれたら良かったのに。
とりあえず、もう遅いと言うことで兄様には部屋に戻って貰った。
そしたら、さっきまで姿を消してたフェンリルが出てきたことに少し驚いた…なんて事はない。断じて、驚いた訳ではない。もっというと、フェンリルが消えてたことに気づいてなかったなんていうこともない。
ちなみにどこに行ってたのかを聞くと、霊界に行ってフェニックスに明日来いとか言って来たんだって。私心の中で思っただけなんだけどな?読心術でも持ってるのかなコイツ。……とか思ってたけど、明日の王城に自分もついて行く気満々だったからついでにと思って読んだだけらしいね。良かったわ、読心術じゃなくて。
………
時は少し遡り、ヨシュアが学園に登校した時である。
彼は困惑していた。もしかしたら、妹が霊王だと知った時より困惑しているかもしれない。その理由は…
「……なんだこれは。」
靴箱の中に大量の手紙が入っていたからである。二、三枚手に取って見ると全て女子の字で、「好きです」やら「結婚を前提に付き合ってください」とか、色々と書かれている。
ヨシュアは思わず額に手を当て溜息をついた。そして、自分の上履きを探す為に手紙の山に手を突っ込んでようやく見つけたと思ったら、明らかに自分が使っていた物とは違うものが。彼は困惑を通り越して冷静になってしまった。
別にこういう事が今までに無かった訳ではない。実際、彼は見目麗しいし、次期宰相兼次期公爵、婚約者も無し。彼はモテていた。だが、彼が大勢のギャラリーがいる前でこんなことされても困るだけ。と言ったのを境に無くなった…はずだったのだが、なんでこんな面倒臭いことになるのかと神を一発殴りたくなった彼である。
これについてはもしかしたら可能性があるかもしれないので頑張れとでも言っておこう。
教室に着いたら、名前も知らない人間に取り囲まれる。
彼は鬱陶しそうに眉を顰めるが、それに気づいていない者が大半らしい。言いよってくる話の内容は95パーセントで、
「ローゼ嬢に気があるから紹介してくれ。」か「まだ婚約者がいないなら付き合ってくれない?」をオブラートに包んだ言葉である。
少し前から教室のドアで固まっているディアマスに視線を送ると、やっと動きだし、こちらに来た。
「済まないが、彼と話をしたいので少しいいかな?」
と、彼が言うと蜘蛛の子を散らすようにみんなどこかに行くから不思議である。
「王太子効果恐るべし、だな。」
「それほどでもないぞ。お前も一言何か言えばどこかに行くだろう?」
「そうでもないさ。」
いつものように他愛もない世間話をしていたがやがて、場所を移そうか。とディアマスに腕を引かれ生徒会室に連れていかれる。もうすぐホームルームが始まる時間なのだが、この場合は仕方ないだろう。
「で、あの馬…ストルフ殿下とマオリーヴの令嬢はどうなった?」
ここにきた本題を切り出す。彼らが生徒会室に来た理由はもちろん、昨日のパーティー会場での出来事である。
「ああ、ストルフは自室に軟禁。アリア嬢はゲストルームに軟禁の状態だ。ローゼ嬢に手紙を書いて来たんだが、渡して置いてくれるか?それと、王城に来て欲しいとも伝えて欲しい。」
「了解した。」
一連の話が終わると、二人は大きな溜息をついた。
「はぁ…まさか、ローゼ嬢が霊王だったとはな…」
「全くだ。聞いたときは心臓が飛び出るかと思ったぞ。」
「ああ、そういえばストルフが変なこと言ってた気がする。」
「変なこと?どんなだ?」
「聞きたいか?」
「ああ。」
二人の話し合いは徐々にディアマスの愚痴話となり、昼休みまで続いた。
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