お前何なの?暇なの?
「…………で、レイ。攻略対象になりそうな人の名前教えてくれない?」
部屋に入った瞬間、クローカにガチトーンでそう言われた時の恐怖を分かってほしい。
んで、攻略対象になりそうな人だっけ?
まあ、アリア嬢をヒロインとすると……あの馬鹿殿下は入るのか?兄様はどうだろ?あと、騎士団長の息子とかもいたなそう言えば。
とりあえず、全員名前と肩書きを上げて見るとこうなる。
・第一王子、ディアマス・レティアン
・第二王子、ストルフ・レティアン
・次期宰相、ヨシュア・フォン・アイリーン
・次期騎士団長、アルベルト・フォン・ロゼリアル
・次期宮廷魔導師団長、ドランジュ・ブランシェッド
・隣国の王太子、リューカス・ズール・オリヴルト
……多いな。六人もの恋愛ストーリーを作るなんて、この乙女ゲームを作った人は凄いとおもう。
多分私なら最初のキスシーン考えるだけで思考放棄したくなるんだけど。
「ふむふむ……それなら【永遠の恋と奇跡の魔法】ね。」
メインヒーローがストルフ・レティアンで隠しルートのリューカス・ズール・オリヴルトも一致してるわ。とクローカは何も見ずに言う。
………こいつの記憶力はどうなってるんだろうか。
この部屋の中にある乙女ゲーム、ざっと百は超えてるぞ?なんで全部覚えてるの?
あと、あの馬鹿殿下メインヒーローだったの?え?マジで?大丈夫なのかその乙女ゲーム。
普通にディアマス殿下とか兄様とかがメインヒーローやってる方がしっくりくるんだけど。
「えーと、レイ。ストーリーはどこまで進んだ?」
と、クローカがノートを差し出してきた。
中を見ると、そこに書いてあったのはゲーム開始から結末までのだいたいのあらすじ。
「…………クローカ。お前何なの?暇なの?」
「ええ!昨日一日何もすることがなかったからとっても暇だったの!!」
「え?昨日は"イレギュラー"の討伐があったんじゃなかったの?」
「……え?そんなの数分で終わらせたに決まってるじゃない。」
「当たり前ですな。我が主ならば当然のこと。」
……ビビった。急に後ろから出てきて気配も感じなかったからめっちゃビビった!!と叫びたいのを根性で我慢し、少し沈黙してから言葉を捻りだした。
「……ベネルヴィ、急に出てくるなよ。地味に一瞬驚いただろうが。」
「うむ?それは申し訳ない、麗しき霊界の王よ。」
私をビビらせたやつは、ベネルヴィという悪魔。
褐色の肌に黒い瞳と真っ赤な髪を持った美丈夫だが、この悪魔は漆黒の体に山羊の角、コウモリの翼に矢印のように尖った尻尾を持つ、子供の夢に出てきたら間違いなく大泣きされるような外見をしている。
そして、地味にこの容姿はクローカも苦手らしく、擬人化の術を泣く泣く覚えたようだ。
「で、どうしたのベネルヴィ。何か問題でも起きたのかしら?」
「いえ、特には。ただ、我々の劣等種であるモンスターがクローカ様に会わせろと身の程知らずなことを。」
……問題が特に起きていないとは、どういう意味だっただろうか。それとも、魔界ではそんなことは些細な問題ではないのか?
普通、結構な問題だと思うけど。
「あら、いつものことじゃない。普通に始末しなさい。」
あ、いつものことなのね。てか、これが結構な頻度で起こってるってことでしょ?魔界大丈夫なの?
「ねー、クロちゃん。普通に始末って何するの?」
「あら?エレン、気になるの?」
「うん、天界でも極たまに起こったりするから。」
「そう、なら今回は私が始末しましょうか。」
クローカはエレンにニッコリと笑いかけた。
なんでだろうなー。この笑顔に嫌な予感しか感じないんだけど、私の気のせい?
………
レイの予感が確信に変わったのは、城の外に出てからだった。
明らかにクローカの様子がおかしいのである。いつもなら自分達の前ではニコニコと薄ら笑いを浮かべているのに、城を出てから全く笑っていない。それどころか、殺意までも瞳に抱き初めたではないか。
だが、この場にはエレンがいる。
クローカが多少暴走しても、エレンならば抑え込むことができるだろう。エレンならば万が一という可能性もない。
それ故、レイは少しの不安を胸に抱きながらクローカの後をついていった。
それが判断ミスだと気づいたのは魔物の前にクローカが立ってからである。
クローカは魔物達に強制的に口を閉じさせると、
「ギャァァァ!!!」
「グァァァ!!!」
前方にいる魔物達の足場を火の海にした。
比喩ではない。煉瓦造りでどこにも発火物などないはずだが、そこは確かに燃えていた。
やがて、その炎は魔物達の全身に燃え移り、最後は魔物達を塵にした。
レイは忘れていた。いや、思い違いをしていた。
いくらクローカが変なことをしても、エレンなら止められるだろう。そう考えていたが、これを望んだのは間違いなくエレンである。
だから、エレンは何があっても"止めるはずがなかった"。エレンは優しい。大抵の願いは聞き届けてくれるが、これはエレンが望んだことだった。
完全に思い違いをしていた。
レイは自分の失態を胸に刻み、これから行われるであろう事に、魔物達の身を案じるのだった。
そして、魔物達の悪夢は続く。
「なるほどなるほど……つまり、皆殺しにすると。」
「そう!全部燃やせば何も残らなくなるから便利よ!!」
「ふーん……なら……」
そして、エレンは構えた。
そして、レイはクローカの後ろに隠れた。理由は察して欲しい、天法をモロにくらえばレイは死ぬのだ。
「……絶対零度。」
エレンがそう呟いた瞬間、辺りは一面氷だけの透明な世界になった。クローカの後ろに隠れていたはずのレイは死にかけている。
とりあえず、クローカはレイに小さな火魔法をかけると。自身も震えた声でエレンに話かけた。
「エレン、アブソルートゼロは使わない方がいいわよ。」
「……?そうなの?」
「ええ、エレンの配下もまとめて凍え死ぬわ。」
「……そう、なら気をつけるね。」
そう、レイの嫌な予感は的中していた。
そして、なんで乙女ゲームの詳細聞きに来ただけなのにこんなことになるんだろう。と考えた。
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