私達は神域の三割を壊しました
本日二話目の更新です。
レイが下した決断は……
「っ!?」
またまた油断していたクローカに反撃するというものである。
正直、腹部は痛い。泣きそうなくらい痛い。というか、今すぐ地面に転がり込んで腹部の痛みを叫びたい。でもそれは無駄に腹部から血が流れるだけである。
流石にクローカ油断しすぎだろ。と、思うかもしれない。だが普通、瀕死にした相手が起き上がってくるとは誰も考えないだろう。
身体を二つに両断する気で殴ったのだ。腹部に穴が空いていないのは仕方ないとしても、確実に意識を奪ったつもりだった。それ故の油断だ。
思わぬ反撃に受け身をとれなかった様で、頭を強く打ちつけたクローカは軽い脳震盪をおこしていた。
立ち上がろうとしても足に上手く力が入らず倒れ込む。そしてまた頭を打ちつけ、今度はそこから血を流す始末である。油断とは恐ろしいものだ。形勢逆転とはこのことである。
それでも立ち上がるが、かなり足元が覚束無い。レイはそんなクローカの顎を蹴りあげ、その上げた足を利用して肩口と脇の下を強打した。
仕返しとはいえ、随分酷い仕打ちである。クローカも大概だが、レイもえげつない。
肩口は強打されるとしばらく腕が動かせないし、脇の下は神経が集中していてダメージが大きい。それに、脇の下は止血が困難なため失血死の原因になりやすい。
もう一度言おう。クローカも大概であるが、レイも結構えげつないことをしている。
動き回ったせいで腹部からまた血が出だしたらしい。レイもその場に倒れた。
………
レイの腹部がクローカによって酷い惨状になる少し前のことである。
エレンとヒューズとアネルは三人で横に並びながらカフェオレを飲んでいた。
ちなみに、カフェオレはエレンのリクエストのコーヒーとミルクが3:7の砂糖がたっぷり入ったものである。
「おー…見事に鳩尾に入ったね。」
「今のところレイちゃんが有利かな?」
「いや、そうでもないかもよ?」
エレンとヒューズが二人揃って観戦していたので、アネルは空気になるしかなかった。
そして、先程から思っていたクローカとレイの戦闘能力化け物説は確かなものとなっていった。
「あと、ヒューズ君。さっきの話だけど……」
「ああ、二人の喧嘩に乱入するやつ?」
先程ヒューズがエレンに持ちかけていた話は、二人の喧嘩に乱入するという、アネルからしたらなんとも命知らずなものだった。
そのことにアネルは少し驚く。馬鹿なのかこの人は、と。
天王と冥王なのだから、確かに強いのだろうが、間違いなく怪我では済まないのではないだろうか?まず、あんな世界崩壊レベルの大喧嘩に好んで乱入する人なんていない気がする。
そう思うほどまでに、アネルから見て二人の戦い(大喧嘩)はレベルの違うものだった。
「うん。私、乱入はしないよ。」
エレンの応えにヒューズは少し驚いた顔をする。エレンの性格を考えれば、間違いなく殴り合いの中心地に飛び込むだろうと考えていたのだが、予想が外れた。
「あれはレイちゃんが売った喧嘩で、クロちゃんが買った喧嘩。私が手を出したらそれは二人だけの喧嘩じゃなくなっちゃう。」
少し微笑みながらそう説明する。何度見ても作り物の様な端正で美しい顔立ちである。横顔ですら美しいとは、全世界の女を敵に回しているのだろうかこの人は。
そういえば、クローカもレイも雰囲気はエレンとは別物だが相当な美形である。エルフも大概美形だのなんだの言われるが、三人に比べれば霞む気がする。チラリとエレンを通して横目でヒューズを見てみるが、彼もムカつくほど顔がいい。
四界の王を選ぶ基準に顔の良さも入っているのだろうか、と考えてしまうほどの美形率である。
まだ会ったことがないが、クローカの眷属という悪魔も美形なのだろうか。だとしたら本気でエルフが美形だというのは盲信なのだろうかと考えるだろう。
少し話が逸れた間にあの大喧嘩が終わってしまった。
美形云々はもうどうでも良いとして、最初のエレンの予想は的中していた。
この大喧嘩の勝敗は両者ダウンの引き分け。
二人は神域の円卓の間まで運ばれ、エレンの天法による治療を受けた。魔法や霊法で付いた傷は比較的浅かったのが不幸中の幸いだろう。余談だが、クローカとレイ両方の攻撃で三割ほど神域が崩壊した。始祖神も神使達も涙目である。
気を失っている二人に悪戯心が湧いたのか、ヒューズは白い長方形の薄い板に横に、『私達は神域の三割を壊しました。現在反省中です』と書き。二人の首から下げた。
これによって後に二人からボコボコにされるヒューズを見たものがいるとかいないとか。
そして、結局は喧嘩両成敗ということで二人エレンに一発ずつ殴られたのだった。もしかしたら今回の勝者はエレンかもしれない。




