身内を殺してどうするんだよ……
二人の大喧嘩は今現在、神域の一割を破壊するまでに至っていた。
もうここまできたらなりふり構わず、二人を止めに入るべきだろうか。喧嘩の原因私だし。
アネルはそう考え始めていた。何故もう少し早くその考えを思い浮かばなかったのかと言われればそこまでだが、幸いなのか不幸なのか、アネルの心中が分かっている人がここにはいない。
さて、止めに行くかと立とうとしたときである。
「!?」
何故かエレンに腕を引っ張られ、また着席することになってしまった。エレンは無表情だが、心なしか「何処へ行くの?」と目で訴えかけられている気がする。
「ねぇ、アネルちゃん。どこに行くの?」
……気の所為ではなかった。声には強弱が無く、無表情と無感情が合わさり、もはやエレンの心中を察することなど出来ない。
美しすぎる造形美。顔は氷の彫刻のように動かず、無表情を貫いている。その姿にアネルは恐怖すら感じる。
何を考えているのか分からない。
そんな相手は今までに何度も見てきたが、ここまで不安感と不信感、恐怖を感じることはなかった。
ちなみに、エレンがアネルを引き留めた理由。それは、二人の邪魔をするなと暗示しているのではなく、
「……アネルちゃん、カフェオレくれない?」
好物のカフェオレが飲みたいだけ。ただそれだけだった。
単刀直入に言ってしまうと、クローカ曰く、善意の塊である彼女はこの喧嘩をいつものことだと流していても、そこにアネルが行くのは許容しない。……と、いうついでの目的も兼ねてだが。
今あそこにアネルが行ったら一瞬で塵になってしまうだろう。アネルはクローカの所のメイドである。クローカの身内ということは、エレンにとっても身内。
新しく増えた身内を見殺しにするなど、ヒューズ曰く、清らかで一切の穢れのない性格─身内限定でのことだが─である彼女には出来なかった。彼女は基本無関心だが、身内のこととなると別である。
とりあえず、アネルを止められて良かった。そう考えエレンは観戦に戻った。
………
二人の戦いはクローカが優勢だった。
「死ねっ!!灼熱の隕石!!!」
クローカの放ったバーニングメテオはその名の通り灼熱に燃える隕石……直径約70メートル、重さ50トンが落ちてくる技だ。
並大抵の敵はこれで消滅する。ついでに戦っていた場所も消滅する。それくらい危険な技だった。だが、そうならないことを確信して放った技である。忘れているかもしれないが、ここは始祖神の神域。もし一度消滅してもまたすぐに再生するだろう。
それに、攻撃の的はクローカと同格のレイだ。並大抵の筈がない。つまり、
「……暴風の音」
レイがそう呟いた瞬間のことである。
風が吹き荒れ、視界が塞がれる。
クローカは地面に張り付き、風圧に耐えるが限界が来たのか吹き飛ばされて行った。もしかしたら故意なのかもしれない。ここで飛ばされれば、レイと距離をとれるのだから。
風が止まり、視界が晴れた。バーニングメテオは……ない。
「身内を殺してどうするんだよ……」
ジト目で辺りを見回すが、クローカはいない。チッっと舌打ちをし、先程負った傷の回復をするために何故か神域にある薬草園まで歩く。
何故薬草園まで行く必要があるのか、それはクローカが魔法を使ったのに対して、レイが霊法を使ったことが原因だった。
魔法で付けられた傷は魔法でしか回復出来ない。
これが、レイが薬草園まで来た理由である。
完全には回復出来ないが、神域にしかない特別な薬草なら痛みを緩和することくらいはできるだろう。
レイは生えている薬草をプチりとちぎり、潰し始めた。流石に、そのままでは薬の効果などない。石でゴリゴリと薬草を潰し、それを湯で煎じる。そして、それを飲み……
「ゴホッ!?」
込めなかった。なんと、これは苦味が強すぎる薬草だったのである。これでは飲めない。絶対に飲めない。彼女は甘党なのである。
彼女が新しい薬草を探している間に、バーニングメテオが消えたことについて説明しよう。
音波消化器を知っているだろうか。
これは、音波による空気の振動によって酸素と火を触れさせないようにして消化する方法である。
簡単に言えば、先程の現象はこれを両方とも巨大化させただけである。難しいことなどは何もしていない。
まず、低重音を直接隕石に当て、一番破壊性が高い灼熱の炎をかき消す。正直、これが無理ならバーニングメテオをかき消すのは不可能だっただろう。
こういう所だけは能力が強くて良かったと考えたレイである。
そして、炎をかき消したならあとは簡単である。
暴風で隕石を叩き割り、人がいない場所へ落とす。その際に負傷したので目くらましとして風を強めていたが、これが愚策だった。
少し考えればクローカが距離をとるくらい簡単に予測出来ただろう。少し焦っていたのか、未来予知が全然仕事をしていなかった。
余談だが、レイが目当ての薬草を見つけるまでかかった時間は17分である。
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