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第9話:痣と転移魔法と鼻歌

第9話





「1つ分からないんですが、立花さんはどうしてあたしが、父を探していることを知っていたのですか?村長さんにも話して無かったのですが」

あたしは、今日1番の疑問を尋ねてみた。


「ああ、それはねぇ」

立花は、あたしの右手の甲を指差した。

「気付かないのも無理はないけど、右手の血管に魔痕が残っている。これは、膨大な力の魔法を当てられた時に出る痣なんだ」

あたしは、じっと右手を見てみた。


「もしかしたら、この傷ですか?」

小さい痣だったので全く気にしてなかったが、確かにあった。


「しかも、痣の形が三角形だね。これは、術者が、男性の場合の特徴なのだよ。よって、村長からの手紙の情報と合わせると、君は男性の術者に日本から魔法の力でこちらの世界に転移されたと推察されるんだ」

立花はまた髭を触っている。


「それでは、誰が君を転移させたのか?転移魔法自体はそれ程のリスクは無いが、別の世界に飛ばすとなれば話は別なんだ。古代魔術の文献によれば、魔法の力以外に生命力を削って使われていたことがあったらしい」

立花はまだ続ける。

「簡単に言ったら寿命を削るっていう意味さ」


あたしは、ハッとした‥


「君は中々カンが鋭いね。じゃあ、一体誰が寿命を減らしてまで君に魔法をかけるのかな?涼子くんのことを大切に想っている男性と考えることが自然だねぇ。だから、私は最初に質問したんだ。君は恋人か父親どちらを探しているのかを、ね」


話終えると立花は髭をいじることを止めた。


「父は、寿命を削ってまであたしをこちらに送ったのですか?どうして‥」

あたしには、父の意図が分からない。


「そうだねぇ。涼子くんのお父さんの意図は分からないが、今回の君の転移は少し変なんだ。まあここからが、この話の面白いところなんだが‥」

立花がそんなことを口走った瞬間。


「先生それは不謹慎ですわ。人の不幸を面白いだなんて‥」

ニーナは憤慨している。


「すまない、訂正しよう。この話の興味深いところなんだが、普通魔法で転移をさせた場合は術者の居る場所に飛ばされる。寿命を削ってまでの大掛かりな魔法なら尚更ね」

立花はまた髭をいじることを開始した。


「つまり、普通だったら君はお父さんの居るところに飛ばされていたと言う事だよ。そしたら君の冒険は終わってたかもしれないのにねぇ。」

立花は少し楽しそうだ。


「セ・ン・セ・イ〜」

ニーナがプレッシャーをかける。


「おっと、失敬。しかし君はサランの村近くの浜辺へ転移させられた。これは意図的なのかそれとも事故なのか‥。写真を手に取り転移者側が呪文を唱えると発動するという仕掛けのことを考えると、本来君のお父さんは君に転移するタイミングは教えておく予定だったのは間違いないのだが‥」


立花は少し早口で話していた。


「ただ、1つだけはっきりとしているのは、少なくとも涼子くんがこちらの世界に転移した時点では、お父さんもこちらの世界のどこかに居たと言うこと。これは転移魔法の大前提だからねぇ」


「それじゃあ、やっぱり父は、今もこの世界に‥」


予想していたことだったが、あたしは少し嬉しかった。


「可能性は高いだろうねぇ。ただ写真に魔法を封じたのは、恐らく君のお父さんが出かける前だったと思うから‥君がこちらに来ていることには気づいているかどうか分からない。しかし‥」


立花が急に黙ったので、あたしは不安になる。


「うーん。止めとこうかねぇ。今考えても仕方がないことだし‥とりあえず君のお父さんを探そう」


(凄く気になる)

あたしは我慢できなくて質問した。


「立花さん、その前に言いかけたことを教えて下さい。気になるじゃないですか」


「そうですわ。先生はいつも余計なことはおっしゃるのに。教えて差し上げてくださいまし」

ニーナも援護射撃してくれた。


「だーめ」

立花は指を交差させて罰点の形を作ると、席を立った。


「私はこれから調べなくてはならないことがあるから、少し外出する。涼子くんは事務所の客室に泊まりたまえ。ニーナくん、案内を頼むよ」


「立花さん?」

あたしは間の抜けた声を出した。


「承知いたしましたわ。先生」

ニーナは追求を諦めた様子だった。


立花は鼻歌を歌いながら部屋を出ていってしまった。



こうして、あたしの探偵事務所での1日は幕を閉じたのだった。



第10話へ続く




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