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第7話:コーヒーのおかわりと選択とウインク

第7話






今日までのことを、改めて話してみると現実味が無い。

一通り話し終えたあたしは、いつの間にか淹れてもらったコーヒーのおかわりに口をつけた。


(やっぱり美味しい)


ほっこりする味だった。


立花はコーヒーを注ぐとき以外は髭を触りながら黙って話を聞いていた。


「うーん」


髭を触ることを止めて、立花は口を開いた。


「エクセレント!いやあ、君は話が上手いねぇ。ついつい聞き入ってしまったよ。何か、やってたの?」


よく分からないが褒められた。


「はぁ‥」

疲れているせいでテンションに乗れなかった。


「おっと失礼。面白い話を聞くとついつい気持ちが抑えられなくてね。私の悪い癖なんだ」


立花は満面の笑みを浮かべていた。


「笑い事じゃないんですけど‥」

あたしは少しムッとした。


「笑い事とは思ってないさ。でも君は思っているより大変なことに巻き込まれているよ」

声のトーンが急に下がる。


「思ったより大変なこと?」

あたしは、聞き返した。


「私の推測が正しければ、君は選ばなくてはならない。1つはこの世界の一員になってこのまま暮らしていく。元の世界には戻れないけど、割と楽しいよ。君は順応性も高そうだしね」


「2つ目は元の世界に戻る。これは苦労するねぇ。面倒とそれ以上に危険が多い。君の父上を見つける必要もあるし。今よりもっと怖い思いもしなければならない」


「君はどうする?」


突然の選択肢。


(迷うまでもない)

優しい父、仲の良い友人、楽しい学生生活。

(捨てるには重すぎるよ‥)


「あたしは‥元の世界に帰りたい。何があっても」

あたしは、声は少し小さかったが、はっきりと答えた。


「本当に大丈夫かい?知らないと思うけど、この世界には、想像も出来ないような怪物もいるんだよ。そして、もっと怖いニンゲ‥」

「ガチャっ」


立花が話終える前に、扉が開いた。


「先生、お客様を脅すのは止めて下さいまし。可哀想ですわ」


金髪で紅い目をしていて、透き通るくらい色の白い女が突然部屋に、入ってきた。

同じ女性のあたしも見惚れてしまうくらい美しい容姿、違和感はほんの少しだけ尖った耳をしていることぐらい。

こんなに綺麗な人は芸能人でも見たことはなかった。


「こんなに可愛い女の子が頼っていらっしゃったのに、意地悪するなんて酷すぎますわ」

かなり立腹している様子だった。


「ふぅ、ニーナくん。立ち聞きは良くないな。私は別にイジメているわけではなくてだねぇ。仕事を引き受けるにあたっては、色々と了承してもらわないと‥」

立花は困惑した表情で答えた。


「だからといっても先生は無神経過ぎますわ。涼子様、任せて下さい貴女のお父様は必ずや私たち、立花探偵事務所が見つけ出しますわ」

ニーナと呼ばれた綺麗な人は、あたしに優しい笑顔を向けて話してくれた。


「いやだからね、勝手に話を進めないでくれ。依頼料の話とか‥万が一依頼人が怪我をしてしまった時の‥」

立花が言い終わらないうちに、ニーナは遮る。


「先生、色々とおっしゃってますが、まさか【自信がない】のではありませんか?」


「‥‥‥‥」

立花は少し黙って口を開いた。


「ニーナくん。【自信がない】というのは私に対して言ったのかな?この名探偵の立花仁に対して‥」

明らかに怒っていた。


「そうですわ。先生のことは尊敬していますので、こういうことは申し上げたく無いのですが」

プイと横を向きながら、ニーナは挑発するように言った。


「もちろん、私が取り組めば解決できない事件は無いよ。なぜなら私が名探偵なのだから。涼子くん君も私を疑っているのかね?よろしい。この挑戦受けて立とう。必ず君のお父さんを見つけ出して、お家に返そう。これでどうだ?文句無いな!?」

立花がそう早口で言い切ったと同時に、ニーナはあたしの方を向いてウインクした。


(立花さんって案外扱いやすい人なのかなあ)


いつの間にか不安な気持ちが、ほとんど無くなっていることにあたしは気が付いた。



第8話に続く



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