第56話:黒い蒸気と封印と従属
第56話
「コロシてヤルヨ、オマエを」
あたしは、ヨハンに対して無数の漆黒の矢を放った。
「ぐっ、この【力】は【あの時】と同じ‥」
ヨハンは光の羽を使って防御するが、羽の再生する速さよりも攻撃の数が凄まじく次第に圧されていった。
「【魔王の力】‥目覚めてしまったか。」
瓦礫の中から和也が出てくる。
「先生、涼子様が‥」
ニーナは立花を抱えている。
「あれが、あの娘の【力】?信じられん」
レオンは驚いて立ち尽くしている。
「お嬢様、くそっこの俺にもっと力があれば」
ヒースは無力さを、嘆いていた。
「コロス、コロス、コロスゥ」
あたしは感情の赴くままに辺り一面に無差別に矢を放つ。
「このままでは、マズイ!」
和也は無数の矢を掻い潜り、あたしの方に近づく。
「ジャマダ、コロス!」
あたしは、父を認識することも出来ずに、口からドス黒い魔力の塊を吐き出した。
「今だ!」
和也はジャンプして魔力の塊を避けると、あたしの腹に両手を添えた。
「オー_チラト_ロラ‥はぁっ!」
和也はあたしの腹に光の球体を押し込めた。
「ウァァァ!!」
あたしは絶叫して頭を抱えた。体から黒い蒸気が抜けていく。
憎しみ感情も、思いも何もかもが白い何かに押しつぶされて、あたしは倒れた。
「早くここから出るんだ!早くっ」
和也はあたしを抱えて、みんなに声をかけた。
ニーナは立花を抱えて、レオンとヒースと共に和也について行く。
監獄には、騒ぎを聞きつけ何人か兵士が集まっていたが、パニック状態に陥っていたので問題なく脱出できた。
一ヒースの家一
「なあ、カズヤ。お嬢様は大丈夫なのか?」
ヒースは、眠るように倒れているあたしを見ながら尋ねた。
「一応、【力】を封印することには成功したが大きな【力】だからな。長くは保たないかもしれない」
和也は力なく答える。
「まぁ、封印が実質的な解決策にならないのは証明済みだからねぇ」
立花はよろよろと立ち上がる。
「立花さん、あんた大丈夫なのか?」
和也は立花に、尋ねる。
「薬が効いてくれてましてね。私は、身体能力が人並みだからあなたのように早く動いたり、戦ったりは無理ですが」
立花は和也の問いに答える。
「そうか‥先日は暴言を吐いてすまなかった。娘の事で気が動転していたんだ‥」
和也は頭を下げる。
「いえいえ、あなたの仰ることは、正しい。私の配慮も、足りていませんでした。涼子くんの【力】を消すというのは、この状況では無理なのですかな?」
立花が和也に質問する。
「ああ、一度暴走してしまうと、憑依というより融合に近くなるらしい。無理に引き離すと、死んでしまうし、転移魔法でも引き離すことはできなかった」
和也の顔が曇った。
「なるほど、厄介ですなあ。そうなりますと、手は一つしかないですねぇ」
立花は腕を組みながら話した。
「何っ手があるというのか?」
和也は驚いていた。
「ええ、【力】を引き離せないなら、従属させてしまえばいい。つまり涼子くんに【魔王の力】を完全にコントロール出来るようになってもらいましょう」
立花は当たり前のように言い放った。
「はぁ?そんなこと出来れば確かに娘は助かるが‥涼子にそんなこと無理に決まっているだろう」
和也は少し呆れた顔をしていた。
「いいえ、あなたもいくつか聞いたことくらいあるでしょう。平凡などこにでもいるような人間が、ある日突然大きな力を操れるようになる話を‥」
立花は確信を持って話していた。
「確かにそんな話はいくつか聞いたことはある。俺だって偶然戦う力を手に入れることが出来たからな。だが、あの【力】は大きすぎる‥」
和也は歯を食いしばり頭を振った。
「大きさは、関係ないですよ。問題は【力】を操る者の資質です。大きな【力】を手に入れ歪んでしまった人間を私は知っています。その逆に【力】に振り回されず真っ直ぐに生きている人間も。涼子くんは、私の見る限りでは間違いなく後者です」
立花は和也の目を見て説明した。
「‥あんなに小さかった娘が‥。しかしこれしか方法は無いのも事実か‥。わかった。娘とあなたを、信じてみよう‥」
和也は決心をした顔つきになる。
「まあ、女子高生には、【魔王の力】なんてアクセサリーは派手すぎるかもしれないですけどねぇ」
立花は頷きながらそう言った。
「先生、こんな時まで余計ことを言うのはやめてくださいまし」
ニーナはいつものように立花を咎める。
「すまないねぇ。それじゃあ涼子くんが起きるまで待とうか」
立花がそう言った瞬間、事態は一変する。
「悠長なこと言ってられないぞ。ヨハン達が兵士を引き連れてこっちに来ているぞ」
ヒースの声が部屋一体に響き渡った。
第57話に続く




