第4話:砂浜と見出しと下手な英語
第4話
気が付くと、見慣れた部屋の中に居たはずのあたしは、見慣れないドコかに居た。
手元の写真の光はいつの間にか収まっており、眩しさで失われた視力は回復してきた。
辺りを、見渡すと一面の砂浜、そして海が見えた。
ココは、ドコなのだろうか?
何が起こったのだろうか?
常識的にはあり得ない体験で頭はパニックに、体は震えていた。
「これは夢?」
そうに違いない。きっと長い夢を見ているのだろう。
ベタなやり方だとは思ったけど、力強く頬をつねってみた。
「痛い‥」
痛みを感じることにより、今の自分の状況が途端に現実味を帯びる。つねった頬より胸が痛かった。
しばらく呆然としていた。
今置かれている状況を受け入れることはとてつもなく難しく感じた。
不安しか無かったけど、やらなきゃならない事は分かっていた。
自分が何処にいるのか把握すること。そして、どうやって家に帰ろうかということ。
徒歩圏内に人がいる場所にさえ着けば、きっと交番か何かあるはず。
とりあえず、人を探してみよう。
あたしは、海とは反対の方向に足を向けた。
10分程あるいただろうか、何とか【道】らしいものが見つかった。
かなり簡易的なもので、舗装もされてないところを見ると、かなり田舎に来てしまったのだろうか?
下手をすれば何km歩いても、人里に着かない可能性もある。
しばらく道とにらめっこしていたが、車が通る気配もない。
とりあえず歩いてみよう。
「大丈夫だよね?」
気弱な独り言が漏れる。
このまま、誰も居ない所で遭難して‥
誰にも見つけられなくて、父娘失踪事件として取り扱われて‥
新聞の見出しになるかも知れない。
友達も見るだろうなあ。
『謎の失踪!?』
『何故親子は消えたのか?同僚は語る!』
見出しのタイトルまで想像した後、思わず苦笑いをしてしまう。
「あたしって結構想像力豊かなんだなあ」
まだ馬鹿なことを考える余裕があるのだから、頑張ってみよう。自然と足に力が戻ってきた。
人里に着くまで体力が持ちそうか不安だったが、幸運なことに杞憂に終わった。
1時間ほど歩いたところで、数百メートル程先に2人が立ち話をしている様子が見えたのだ。
「助かった」
歩く速度が次第に早くなった。
近づくにつれて、目の前の2人の顔がはっきりと見えてくる。
それと比例して嫌な予感が強くなる。
1人は金髪に青い目をしていて、もう1人はスキンヘッドだけど、青い目をしていてギリシャ神話の彫刻みたいな顔立ちだった。
この状況で考えられる可能性は2つ。
1.2人はハーフか外国人だけど、ココは日本である。
2.ココは海外である。
(お願い1番でありますように!)
心の中で懇願した。
(話しかけるの超怖いよ〜。そもそも日本語通じなかったらどうしよう?英語で話すべきかしら?うーんもっと英語の勉強してれば良かった)
(勇気を出すのよ涼子!ええい!)
「ハロォ、キャンユウスピィクジャパニイズ?」
震える声で2人に話しかけてみた。
「‥‥‥‥」
1秒が永遠に感じられる程長かった。
金髪の男が答える
「ちょっと良く聞き取れなかったのですが、何か言いましたか?」
(キレイな日本語だ。良かった〜助かったんだ)
全身の力が抜けてしまった。
しかし、数分後安心してしまったことを、後悔してしまうことをあたしは、知る由も無かった。
第5話へ続く




