第15話:シャンパンと緑色とお手柄
第15話
ガルシア=ノーマンは25歳、シンポート王国議会の議員秘書である。
その仕事振りは、上司に忠実すぎるとの評判だった。
彼の幼馴染の1人であるフィリア=トリビアーノは語る。
「昔から立場の上の人間には顔色を伺って、シッポばかり振っていたわ。理不尽な命令にも、必死で従うの。次第に嫌われ者になっていったわ。そりゃあ顔は良かったから、関係のない女にはモテていたけど」
同じく幼馴染のケイト=マハラに彼について聞いてみる。
「ガルシアさんですか?悪い人では無かったです。去年、私は結婚したのですが、夫は彼の紹介で知り合いました。まあ私の結婚はあまり喜んでくれませんでしたが。あと、最近は交友関係が広いことをよく自慢していましたね」
最後に最も付き合いが長いというクラウド=タイガーヘッドに話を聞いてみた。
「色々変な噂はあったけどよぉ、ただ頑張り屋なだけなんだ。必死になる方向性を間違えちまうことが多かったから、よく喧嘩はしていたぜ。やっぱり筋が通らないこと言われると、俺も許せないからな。だけど、殺そうとなんて考えたことはない。本当だ」
立花は一通りガルシアの人物像を質問して回った。
質問が終わった後、立花はガルシア最後に飲んだシャンパンに目を付けた。
「これをノーマン氏は最後に飲まれてましたよねぇ」
「まさか、それに毒が?でもそれはガルシアが自分で持ってきたものだぜ。俺も同じものを貰ったからな」
クラウドがそう答えると、ケイトも頷く。
「なるほどぉ」
短く立花が答えると、側にあったグラスにシャンパンを注ぐ。
更にグラスの中に、粉末状の何かを入れていた。
グラスの液体は緑色になった。
「立花さん、何をしているのですか?」
ずっと突っ立てたあたしは、ようやく落ち着いたので聞いてみた。
「涼子くん。付き合わせてすまないねぇ。一応これは便利な薬っていったところかな。人体の死に強く影響があるものが混じっていれば赤色になるんだが‥。もちろんアルコールだって人によっては毒なんだからあまり信頼性の強いものじゃないんだけどねぇ」
立花は緑色の液体を見ながら説明した。
「まあ、このシャンパンはほとんど安全って言ったところかな」
「クラウドさん、貴方がノーマン氏から頂いたシャンパンはもう飲まれたのですか?」
立花はクラウドに尋ねる。
「いや、ガルシアには美味いから飲めよって勧められたんだけどよお。騎士団からの命令で食事制限させられててな。今日も全然食べられなかったんだ」
クラウドは未開封のシャンパンを指差した。
シャンパンには【クラウド=タイガーヘッド】と書かれていた。
「ちょっと拝借してもよろしいですかな?」
立花はクラウドに聞いてみた。
「構わないけど、こんな時に飲みたいのかい?」
クラウドは怪訝な顔をした。
「ははっ。いくら私でもそれはないですよ」
立花はクラウドのシャンパンをグラスに注ぐ。
グラスの中の液体は緑色だった。
「そう来たか?ふーん」
立花は少し楽しそうだった。
側で見ていたスタンレー氏は心配そうな顔で、尋ねる。
「もしかしたら、無差別殺人なのでは?他の食べ物は、パーティーの参加者なら誰でも口にする可能性がありましたよ。誰が死んでも良かったんだ。犯人は私のホテルの評判を落とすためにこんなことをやったに違いない」
「かもしれませんなあ」
立花は聞いているのか、いないのか適当に返事をした。
あたしは、この非日常の連続に疲れたのか少しよろめいた。
「おっと大丈夫かい?涼子くん」
立花はあたしを支えてくれた。
「ありがとうございます。大丈夫です」
あたしは立花にお礼を言った。
「でも、少し疲れます。だってあたしがこの世界に飛ばされてから、色々ありすぎて‥」
あたしがそう言うと、立花は‥
「涼子くん‥飛ばされる‥転移魔法‥まさか‥」
立花はブツブツ言っている。
「たっ立花さん?」
あたしは立花の豹変に驚いていると‥
「エクセレント!お手柄だよ涼子くん」
立花はあたしの肩を突然抱いて叫び出した。
「へっ」
あたしは間の抜けた声が出た。
「はっはっは。君のおかげで事件が解決しそうだよ。ニーナくんちょっとこちらに‥」
自信満々の表情で立花はニーナを呼ぶ。
ニーナに、いくつか指示を出す。
「先生、承知しましたわ。と言いたいのですが本当に大丈夫ですの?」
ニーナは不安そうな声を上げる。
「私を【信頼】しなさい、犯人は【あの人】で間違いないからねぇ」
立花はいつものように髭を触りながら話していた。
「先生が、そこまでおっしゃるのでしたら承知いたしましたわ」
ニーナは意思を固めた表情をしていた。
「それでは、【あの人】のところへ行きますか」
立花はそう言うと、ゆっくりと歩いていった。
第16話に続く