第13話:パーティーと英雄と幼馴染
第13話
「それでは、特別ゲストを紹介しましょう。名探偵のミスタータチバナ氏です。皆さん拍手をお願いします」
司会の男の紹介で立花は壇上へ上がる。
「ご紹介に預かりまして恐縮です。探偵の立花 仁と申します。まずはスタンレー氏に、この素晴らしいパーティーに誘って頂いたことをお礼申し上げます」
立花は珍しく緊張した様子だった。
「部屋に、籠もって練習していたみたいですわよ」
ニーナがひっそり教えてくれた。
スタンレーが壇上に上がり、立花と握手する。
「皆さん、昨年我々に多大な恐怖を与えた、シンポート王国犯罪史上最大の連続殺人事件はご存知だと思います。犯人は【死神芸術家】フィリップ=デロンという凶悪な男。ミスタータチバナは華麗な推理と行動力で死神を追い詰め確保に貢献。シンポート王国の新たな英雄となったのです」
会場の人々は熱狂した。
立花は、笑顔で手を振りながら声援に応えた。
「それでは、パーティーを続けましょう。ミスタータチバナに今一度大きな拍手をお願いします」
会場は割れんばかりの拍手の音で埋め尽くされた。
「いやあ参ったよ。ははは」
立花は上機嫌であたし達のところに戻ってきた。
「立花さんって本当に名探偵だったんですね」
あたしは、見たままの感想を言った。
「涼子くん。【本当に】ってどういうことだい?まあ、聞かないでおいてあげるよ」
立花は笑いながら返事をした。
「高名なタチバナ先生、会えて光栄です。僕はガルシア=ノーマンと申します。今度、上院議員に立候補する予定なのですが、是非先生にも応援していただく‥」
青い髪をした、端正な顔立ちの男が立花に話しかけた。
「選挙ねぇ、あいにく私はそういうのは‥」
立花が答えようと口を開くと、
「あらあら、早速今度の選挙の点数稼ぎ?顔が良いだけの男は大変ねぇ」
緑の短い髪をした女が割り込む。
「タチバナ先生、こんな男なんか応援するだけ無駄ですわ。私はフィリア=トリビアーノと申します。薬品を取り扱うお店を何件か経営してますの。先生、ウチの広告塔になっていただけないかしら」
立花にベッタリとくっついてきた。
「いやあ、美人の頼みなら聞いてあげたいけど‥」
「コホンッ」
鬼の形相のニーナに睨まれて、立花はフィリアから距離をとる。
「僕が先に話しかけたんだぞ。君の店なんか去年かなり赤字だったみたいじゃないか。大した財産も持っていない癖に」
ガルシアは大声を出して怒鳴った。
「まぁまぁ、せっかく同じパーティーに出席したんですから、今日くらい楽しみましょう」
茶髪で優しそうな女がたしなめる。大きなお腹をしていたので多分妊娠しているのだろう。
「君は黙っていろ、ケイト。良い身分の旦那を貰った君と違って僕は頑張らなきゃいけないんだ!」
そう一言言い残すと立花の返事も待たずに、シャンパンを飲み干してどこかに行ってしまった。
「あいつもあんなにカリカリした奴じゃ無かったんだけどなあ」
黒髪で長髪の男が話に入ってきた。
「俺はクラウド=タイガーヘッドだ。シンポート騎士団に所属している。俺らは4人とも幼馴染なんだけどな。今はバラバラでね」
クラウドはため息をついた。
「まあ人生は長いからねぇ。仲直りする日も気長に待つのも良いんじゃないかい?」
立花はクラウドに返事をする。
「そうですね。まあ、長生き出来ればだけど‥」
クラウドは一瞬冷たい目をしたような気がした。
「クラウドくん‥」
ケイトも心配したような表情で見つめる。
「何かあったのかね?」
立花は、クラウドに尋ねる。
「イヤだなあ、名探偵の先生をからかってみたかっただけだよ。俺なんか騎士団に入っているからいつ死んでもおかしくないしな」
クラウドは笑って答えた。
「ちょっと、変な冗談やめなさいよ」
フィリアがクラウドを咎めた。
「ははっ、ちょっと飲み直して来るわ」
クラウドも立ち去って言った。
「それでは、先生いい返事をお待ちしていますわ」
フィリアは頭を下げて、スタンレーの元に歩いて行く。
「友人たちが、失礼しました。私はケイト=マハラと申します。このホテルでシェフをやってます」
ケイトが自己紹介をした。
「いやぁ。今回のパーティーの料理は最高でしたよ。こんなに美味しい料理を食べれるなんて貴女の旦那さんも幸せ者だねぇ」
立花は料理を褒めちぎる。
「そう言っていただけて嬉しいです‥」
ケイトはそう答えたが、少し寂しそうな表情だった。
「おっと、我々はそろそろ退散しようかねぇ」
パーティーが思ったよりも息苦しかったのか、立花はあたし達に帰ろうと促してきた。
「先生がそうおっしゃるのなら、私は構いませわ。涼子様はいかがですか?」
ニーナはあたしの方を向いた。
あたしが、返事をしようとしたとき‥
「キャー」
「なんだ、なんだ」
「人が倒れたらしいぞ」
ざわざわ‥ざわざわ‥
賑やかなパーティー会場で事件が、発生した。
第14話に続く