【猫と紅茶】第3話
1ヶ月以上更新出来ずにすみません
そんなやり取りを延々と繰り返していたが、カランと小さな鐘の音が響いた。店の入り口に掛けてある小さなブリキの鐘が鳴ったのだろう。
私たちは同時に入口を見つめると、20代前半だと思われるボブヘアの女性が立っている。
「あ……営業中ですか?」
とその女性は尋ねてきた。
「営業中です、お好きな席にどうぞ」
と返し、メニューを取りにカウンターの中に入る。その時に紬希に『絶対喋るなよ』と目配せをしておく。かなり不服そうな顔をしてから紬希はそっぽを向いてしまった。
その女性はカウンターの左端の席に着き、キョロキョロと内装を眺めている。チェーン店でなく今どき珍しい個人経営の店だから好きに内装をいじれる。私の趣味で集めた骨董品なども飾っているから物珍しいのだろう。
「こちらメニューです、決まりましたらどうぞ」
とメニューを渡し、今日のオススメのコーヒーと紅茶を伝えた。
「じゃあ…その紅茶を1つ」
と女性は返す。
「かしこまりました」
そう返してから、カウンターの脇にある棚からその茶葉を探す。気になるのか背中にその女性の視線を痛いくらい感じる。確か今日のオススメは…あった。ウバ茶だ。
世界三大紅茶の1つであるウバ。スリランカ南東部にあるウバの高地が原産地だ。高地特有の気候がバラやスズランの花香の甘い刺激的な「ウバフレーバー」を作り出し、特に珍重されている。人によってはサロメチール臭がするという人もいるが…
爽快な渋み、特有の香気とコク、明るい真紅色の水色が特徴だ。クオリティーシーズンは7~9月、水色を楽しむため、ストレートティーがよいとされているがミルクにもよく合う。
「ミルクはお付けしますか?」
チラリと彼女に視線を送り尋ねる。
「えっと……お、お願いします」
店に入ってきた時もそうだが、声をかけたときも反応がおかしい気がする。纏っている雰囲気からして大袈裟な振る舞いをするタイプの人だとは思えない。
『おねーさんニートなの?』
「そうそう僕もそんな気が……ってえっむ、むぎちゃん?」
頭の中を見透かされているのではないかというくらい的確に指摘されたものだから、ついうっかり返事をしてしまった。身内ならまだしも、お客さんの事をニートみたいだと思っていたなんてことがバレてしまうなんて。首が錆びき上手く歯車が回らなくなったオモチャのカラクリのように後ろを振り返る。
「も、申し訳ございません!!!!」
と叫びながら勢いよく頭を下げた。
『えーだってオトキタさぁ絶対そう思ってたでしょ』
紬希は自由に思ったとこを口にしている。確かにそう思ったけども。
「………。」
あんぐりと口を開け唖然としていた女性は突然吹き出し笑い出した。店内を彼女の笑い声が木霊する。
失礼なことを言ったにも関わらず、怒る気配は一切なく笑い続ける彼女に呆気に取られたのは私だけではなかったようだ。
作者はこの話を書きながら、怖い絵展で買ってきたハーブティーを飲んでいます。
ジャーマンカモミール、ハイビスカス、スペアミント、レモンマートルにブルーマロウを好きにブレンドしてキルケーの気分を楽しむセットだそうです。
ブルーマロウとレモンマートルを1:2で入れて飲んでばかりいます。