【猫と紅茶】第2話
そんなやり取りをしていたが、やっぱり理解不能だ。
3年前に拾った時から今まで喋ったことなんか無かったし、たまに「にゃあ」と可愛く鳴くくらいだった。
「……で、むぎちゃん。なんで喋れるの?」
他の言い方はなかったのかと自身につっこみたくなるが、本当にこれに尽きるのだ。
『なんでって言われても…喋れたらなぁって思ってたらいつの間にか』
なんだよそのゆるふわな理由は!!!!と心の中で叫びながら紬希を見るが、本人(本猫?)は『だからなに?』と言いたげな表情である。
とりあえず僕が言いたい事は…
「むぎちゃんお願いだからお客さんの前で喋らないでね。今の客足でも手いっぱいなのに、これ以上増えたら流石に困るよ。僕がどうにか頑張って分身しないといけなくなるから。」
……本当にそうなのだ。店員は僕1人だけ、紬希はこの店名物の看板猫だ。猫だから気ままに接客は出来るが、キッチンを回すことは出来ない。それに、ここ喫茶サバトラは注文後に豆を挽くコーヒーとこだわりの茶葉を使った紅茶が名物だ。
カウンター席が6つ、テーブル席が2人掛けが2つに4人掛けが2つ、喫煙席の2人掛けが3つという最大24人しか入れない小さな喫茶店だが、1人で切り盛りするのはかなり厳しい。お昼時はもう猫の手も借りたいくらい忙しい。
猫カフェだと猫と触れ合うことがメインで、飲食は出来ないという所も多いらしいが、この店のメインは飲食だ。実は開店する3ヶ月くらい前にたまたま紬希を拾ったから看板猫になっているだけだ。
紬希は店内を自由に歩き回れるようにしているが、喫煙席には立ち入れないようにしている。僕のパイプが揺れるのが気になったのか突然じゃれついてきて、危うく火傷をするところだったことがあるからだ。
だが、いつの間にかお客さんの大半は紬希がメインになっていて喫煙席を希望する人はほとんどいない。通勤途中にふらっと立ち寄ったであろうサラリーマンくらいだ。もういっそのこと全席禁煙にしてしまおうかと思ったが、僕が吸えなくなってしまうから出来ずにいる。
『別にいいけど、注文とかとれるようになったんだけど。』
「喋る看板猫が注文をとる今話題の喫茶店とか特集されたらどうするんだよ!?その方が大変だぞ!?」
『……自意識過剰』
なにか言われた気がしたが知らないふりをする。