かぜたばこ
今日は良く風が吹いていた。
湾岸のビルでシステム・エンジニアを努める彼の一服は、フロア移動からエレベータの昇り降りを含めて、15分と長くなった。
それにしても、今日は風が良く吹いていた。なびいた煙が空に舞い上がって、雲に吸われていくようだった。
後ろ頭が跳ねてゆくのが気になった。整髪料を付けすぎたかと後悔したが、手でこねくり回してもどうにもしようが無いだろう思うと、癖のように上がった手は、元の位置に戻っていった。
煙草に口をつける。ゆっくり、吸う。耳の隣を風が抜ける僅かな間、息を止め、風が落ち着いたら吐き出す。
感覚は穏やかになるようでいて、時間はそれを急かすように目に写った。
勿論、右手に挟んだ紙巻きも早く無くなる。火は人差し指の甘皮に迫っていた。