鋼鉄の夢 穏やかな夢現
お酒は貴重品
「クロードさん、お酒をください」
いつも通りの、なんでもない日。昼飯の後、エーヴィヒに突然酒をねだられた。何を言っているんだこの幼女は、と思うがわけがわからないのはいつものことだった。
「金かパーツと引き換えだな」
パラパラと本をめくって暇をつぶす。
「ケチですね」
「タダほど高いものはないと言う。有料なのはまだ優しいだろう。ほら、ご主人様に尻尾振って小遣いもらってこい」
そして一人の時間を作ってゆっくりする。こいつが居ては一人遊びもできやしない。隙あらばシャワールームにまで突入しようとしてくるのだし、一瞬たりとも気を抜けない生活を強いられているのだ。
「代金は体で」
「食肉としてアンジーに売れば、酒代には充分だろうな」
問題はそれをする気になれないことか。解体には手間がかかるし、血で汚れるからガレージを洗わなきゃならない。
実に面倒だ。自殺して、次のエーヴィヒが来て、自分で自分を解体して後片付けまでしてくれるなら構わんが。いくら頭がいかれてても、そんな猟奇的で狂気的な所業はしたくないだろう。
「飲みたいのはここに居る私です。他の私が飲んでも意味がありません」
「じゃあスペアを一つ売ればいいだろ」
「嫌ですよ、自分の体を売るなんて」
呆れるほどワガママな主張だ。金は払わないけど酒を飲ませろなんて、通るわけがない。
「それに、体でというのはそちらの意味ではありません」
「鉄板を可愛がっても面白くないだろ。あと5年経ってから出直してこい」
「……無理なことを言わないでください。この体はケースの外では1年と持たないんですよ」
今知らされた衝撃の事実。正直どうでもいい。
「じゃあケースの中で5年待ってろ」
「その頃にはあなたが死んでそうですが」
「それもそうか……じゃあそろそろ話を戻すか。パーツか金か、どっちを出す」
「……パーツで。これはご主人様に怒られますね」
「怒られとけ」
怒られてここに来るのが嫌になってくれれば最高だ。怒られるのが嫌で戻りたくない、となる可能性もあるが、そっちは最悪だな。