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メイドと嗤うご主人様

「私の屋敷がなんだというんだ」


 イラついています。かなりイラついています。それがひしひして伝わってきますよヒャルトン伯爵。

 ですが我慢していただきたい。

 なぜなら人をからかう時のご主人様の顔は何をしている時と比べても生き生きとしていらっしゃるのですからか。そんな、輝いたご主人様の顔をもうしばらく見ていたいのでヒャルトン伯爵にはわるいですがもう少しおちょくられていていただきたい。


「私はちゃんと伯爵にお手紙を渡したはずですが?」

「だからであろうが! 貴様が一時間後に話がしたいというから庭にでて迎えてやろうとしていたというのに!」


 ああ、ご主人様はこの老害に一時間後に話をするという手紙を魔導鳩に持たせたわけですか。

 たしかに私が掃除と言う名の破壊活動を終え、準備体操を始めた時に飛んで行ってました。

 それから一時間後に私は新作武器をヒャルトン伯爵の屋敷にむけて投擲したわけなんですが。


「ええ、伯爵も知っての通り私は職業的には武器商人ですので。伯爵を待たさないように先に武器だけ送ったのですが」


 投げたことを送ったと言うあたりがひどいご主人様です。

 ですが瞳がキラキラしているご主人様を! 楽しんでいるご主人様を! 誰が止めることができようか! いや、できない! というかさせません!


 というわけで再びのリップススマイル。今回は伯爵へではなくその護衛へと向けて差し上げます。

 するとやはりたじろぐ護衛の皆さん。あ、目を閉じるのを忘れていました。


「まさか性能テストをしていないものをご所望されるとは思いませんでしたので慌ててぼくの方も送らしていただいたのですが、まさかこんなことになるとは…… 残念です」


 全く残念そうに見えない笑顔で首を振るご主人様。誰が見てもわざとであるということがよくわかる動きです。


「貴様、わざと我が屋敷を吹き飛ばしたのか⁉︎ 爆発するというのが分かっていて!」

「おや、それは伯爵が強い武器を寄越せとおっしゃったからではございませんか。さらには寄越さなければ命を保証しないとまで書かれていました。ぼくは命が惜しいのでね。そのためぼくの手持ちの中で一番火力が高いものを急いで送らしてていただいのです」


 ヒャルトン伯爵の顔色はすでに赤を通り越し、青へと変わっています。

 そして怒りを表すかのように手にしている杖がミシリと音を立てるほどに握りしめてます。

 おそらくはここまでコケにされたことはなかったのでしょう。それがよくわかるほどにヒャルトン伯爵の顔は憤怒の色で彩られています。


「ベルモンディアス……貴様、私をここまでバカにしてタダで済むと思っているのか?」

「ところで伯爵。屋敷がこの状態ですが今夜の眠る場所はおありですか?」


 怒気の篭った怨嗟の声でヒャルトン伯爵が静かにそう告げてきますが、そんな伯爵の顔を満足気に見たご主人様がまるで話題をぶった切るように質問します。


「なんだと?」

「宿はおありですか? とお尋ねしているのです。なにせ屋敷は現在も燃えている様子。たしか伯爵の別邸はこの街にはなかったと記憶しております」

「なにが言いたい?」


 ご主人様の言いたいことがよくわからないのか伯爵はイライラとした口調で尋ね返してきます。

 私もご主人様の狙いがよくわかりませんのでいつでも守れるように構えながらも話を聞きます。


「いえ、宿がないと大変でしょう? それも商人方に恨みに恨まれてらっしゃる伯爵です。ついこの間も自分に楯突いてきた商会を一つ二つ潰したという噂を聞きましたので身の安全を心配しているだけですよ〜」

「なっ!」

「夜はお気をつけくださいよ〜? 夜の街は物騒です。復讐に燃える輩や金目当ての強盗なんてよくいますからね。安全な(・・・)な宿屋で眠られることをオススメしますよ?」


 要約すると「夜は安らかに眠れると思うなよ?」とも取れる脅迫ですよね。

 さすがはご主人様。

 敵対する者には容赦がありませんね。


「き、貴様!」

「なんでしょう? ぼくはなにもしませんよ? ぼく(・・)はね」


 何かをやる気満々です。

 きっと自分がやったとわかるようにしつつ一切の証拠を残すことなく何かをやる気満々です。

 容赦のないご主人様はキラッキラです。


「く、失礼さしていただく!」


 そんなご主人様におそれをなしたかのようにしてヒャルトン伯爵は徒歩で屋敷を後にします。伯爵ともなれば馬車くらいはあったでしょうがおそらくはあの火柱に飲まれて煤へと変わってしまったことでしょう。


「よかったのですか? 絶対絡んできますよ」


 相手は老害とはいえ伯爵です。

 無駄に権力があるが故の老害ですし絶対ロクデモナイことをしでかすタイプです。

 ま、私にかかればちょいちょいです。いちころです。


「ん〜すぐ潰すから大丈夫だよ〜」


 ご主人様は魔力を流すことで遠くの人物とでも話ができる通信用の魔石を取りだします。


「あ、マルカロ? ぼくだけど。ちょっと暗殺ギルドに依頼しておいて欲しいんだけどさ。ヒャルトン伯爵の暗殺をね。あ、暗殺っていったけど強盗に襲われたように殺っといてね? ついでにあいつには確か闇ギルドで懸賞金かかってたでしょ? それも報酬に上のせしといていいさら。じゃ、まかせたよー」


 一方的とも言えるような会話を終えたご主人様は通信石をポケットへとしまい込むと人をいじめる時によく浮かべるような笑みを深めます。


「屋敷と一緒に燃えた方がマシだったと思わせてやる」


 暗い笑みを浮かべながら嗤うご主人様もまた愛らしい!


「さ、帰ろっか」

「はい」


 愛らしければ全て良し!



 数日後。


「見て見てリップス、この新聞! ヒャルトン伯爵が通り魔に襲われたらしいよ〜」

「まあ、物騒ですね」

「なんか新聞によると色々と恨みがあったみたいだよ。怨恨で殺されたんじゃないかって書いてあるよ」

「怖いこともあるものです。人の恨みは恐ろしいですね」

「全くだよ〜 平和な街に殺人事件だなんて怖いよね〜」


 自分のやったことを無邪気に笑うご主人様、可愛い!

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