メイドの姉妹愛
「な、なんだ⁉︎」
いきなり響いた爆音か悲鳴にクリスが驚きの声を上げ、そのクリスを守るようにハロルドが前に出ると杖を構えています。
一応は護衛のようですね。ワンパンで沈みそうですが。
「なにって」
尋ねられたご主人様はきょとんとした顔をしながらクリスを見つめます。その無垢な顔もまたいい! すかさず私はカメラを取り出しフラッシュを焚かずに高速で指をタップさしてその愛らしい姿を記録していきます。
「侵入者の削除ですが?」
壁へと両手を付け、再び錬金術の青白い光を放つと先ほど無くした扉を作り上げます。そうして作り上げた扉の前からご主人様が退くとカメラをしまった私が前に出ると躊躇うことなく扉を開きます。
すると中からは焦げた肉の匂いが漂ってきます。まぁ、食欲を誘う匂いではありませんね。なにせ食べる物が焼けたわけではありませんから。
それにしても恐ろしいのはご主人様の投げ入れた手榴弾ではなく錬金術です。投げ入れた手榴弾は明らかにこの城を吹き飛ばして火柱を上げるほどの威力を秘めていたはずです。それを完全に部屋の中で完結さしてしまったご主人様の錬金術は空恐ろしい物ですね。さすご主!
「な、なんだこの臭いは⁉︎」
私の横から室内を覗き込んだクリスの奴が顔をしかめながら叫びます。
それはそうでしょう。
なにせ部屋の中には真っ黒に上手に焼けている人型の物がいくつも転がりそれが焼けた臭いが充満しているんですから。
「人の焼ける臭いです。あまり嗅いだことがありませんか?」
気持ち悪くなるような臭いが漂う中ご主人様が部屋の中へと入り黒い人型の塊を軽く足で突きます。すると塊は崩れ落ちるようにしてただの煤へと変わります。
「な、なぜこんなにも人が…… 誰もいなかったはずだろ!」
「ええ、ですから尋ねたはずですよ? 部屋には誰もいませんか? と」
にやにやと笑いながらご主人様はクリスを見つめます。それはまるで猫がネズミをいたぶるかのようないじめっ子の顔です。
「確認はした。いないと言ったのはあなたですよー?」と顔で言っているようなものです。
「……最初から気づいていたと?」
「私の部下は優秀ですので」
ふふふ、優秀ですからね!
「ハロルド、こいつらは?」
顔を青くしながらも毅然とした態度を見せようとしたクリスがハロルドへと尋ねるとハロルドは部屋の中の近くの人だった物のそばに膝をつきなにやら観察をしています。
「これだけ見事に燃やされていると確証はありませんが、おそらくはシャフ様の差し金ではないでしょうか?」
名前が色々出てくるのでなかなか覚えにくくなってきましたね。
シャフというのは私は聞き覚えがありません。そんなわけでフィルの方を見るとふるふると首を振りわからないと示してきます。アオイの方を見ると彼はあからさまにため息をつきます。
「俺の記憶ではシャフってのはこの国の皇女だな。それも第一。そこのクリスも王子ではあるがな」
「ほうほう」
「陰謀の臭いがプンプンするよね!」
なぜご主人様はこんなにも楽しそうなのでしょう?
というか兄弟を害そうとするのがいるとは…… 私は姉妹であるフィルを可愛がっているというのに
「姉様、多分姉様の可愛がりは獅子が谷に我が子を落とすのと変わらないような可愛がりだから妹代表としてはやめてほしい」
鍛えてるんですがねぇ。姉妹愛的に。
「それではクリス様、商談といきましょうか?」
「この場でか⁉︎」
「間諜の心配をする必要のない空間になりましたが?」
確かにこの部屋にはもう私たち以外はいないでしょう。
他の部屋に移動しようにも周囲は突如響いた爆発音を調べるべく慌ただしく動き始めた気配がしますからすぐには無理でしょう。
また間諜だらけの部屋で会話というのも不毛な気がしますしこの場で終わらすのが一番最適です。
「……いいだろう」
「ありがとうございます」
不機嫌ながらにクリスは了承してきました。それとは反対にご主人様は満面の笑顔です。百点満点です。
「で、いつクーデターするんですか?」
商談などそっちのけでうきうきとしたご主人様はあっさりと爆弾を投下するのでした。




