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メイドと野次馬

「うわぁ!大惨事だね」

「ご主人様、はしたないですよ」


 子供のように、と言うか子供なんですが、飛び跳ねて人垣の隙間から火柱を見ようとするご主人様は非常に愛らしいものです。

 周りの住人もさすがに突如として上がった火柱が気になるようで、未だに火柱が音を立て上がる貴族様の屋敷を不安そうに見上げています。


「ヒャルトン伯爵はどこかな〜 死んだのかな〜」


 そんな中、ご主人様だけは好奇心に満ちた瞳で周りを見ています。

 おそらくは先ほどあげていたヒャルトン伯爵とやらを探しているのでしょう。話ぶり、というか口ぶりから察するところはご主人様はヒャルトン伯爵を亡き者にしたかったようですね。

 ただ、あの轟々と音を上げながら燃え続ける屋敷の中にいたのであれば確実に死ぬほどの火力です。生きていることを期待するのは絶望的でしょう。


「なんなのだ! なんなのだこれは!」


 ん? どうやら人垣の前の方でなにか騒がしい感じがします。

 取り敢えずご主人様の安全を確…… 保……

 ご主人様の姿が見えない⁉︎


「やあやあ、ヒャルトン伯爵。いい天気ですね」


 慌てて周りを探していると騒がしくなっている前方の人垣から聞き間違えるはずのないご主人様の声が耳に入ってきました。

 すかさず私はスカートが翻ることも躊躇わずに跳躍。

 人垣の何人かが宙を舞う私を見上げて頰を赤らめています。いつもならば下着を見た奴らの目にチョキで目潰しを食らわしてやるところですが、今はご主人様の元に向かうのが先決ですから見逃して差し上げます。


「き、貴様は! フルーティ・ベルモンディアス⁉︎ なぜ貴様がここに! いや、そんなことより儂の屋敷を燃やしたのは貴様か⁉︎」

「はははそんなわけないじゃないですか」


 ニコニコと笑い平然と噓をつくご主人様の前には肥え太った豚…… おっと現在屋敷を燃やされ中である屋敷の主人ヒャルトン・ピッグーの姿があります。顔は怒りのためか真っ赤っかになっている中、私はご主人様と豚…… ヒャルトン伯爵の間に着地。

 それを見たヒャルトン伯爵とその護衛らしき男たちがわずかに驚いたようにしていましたがそちらは一瞥しただけで振り返ると愛しいご主人様の方へと振り返り笑顔を振りまきます。


「ご主人様、急にいなくなっては危険です」

「ははは、大丈夫だよリップス。だってぼくの前にいるのは無害な老害なんだから」


 ご主人様、辛辣です。

 実は手紙の内容にかなりイラついてたんですね。


「ろ、老害だと⁉︎ 貴様、仮にも自分より位の高い貴族に対して無礼であろうが!」


 豚…… 老害…… ヒャルトン伯爵はなにやら唾を撒き散らすようにして怒っているようです。


「人に脅しをかけといて位が高いやなんやと言ってくると言う時点で老害じゃないですかぁ〜」


 あ、やっぱり怒ってます。

 ニコニコと笑ってはいますが目が笑ってません。

 多分、ヒャルトン伯爵が屋敷と一緒に焼かれているのを見にきたんでしょうが、生きているヒャルトン伯爵を見てイラついているんでしょう。


「それより伯爵様、ぼくの送った手紙を読んでいただけましたか?」


 優雅に膝を折り一礼するご主人様を前に思わず眉をひそめてしまいます。

 いえ、ご主人様にではなくそうさせた老害にですが。


「ひぃ⁉︎」


 おっと思わず睨みつけてしまいました。そんな狩られるような動物みたいに萎縮されてしまうと悲しくなってしまいます。

 はい、リップススマァーイル。


「ひぃぃ⁉︎」


 ……おかしいですね。さらに怯えられました。ついでに言えば伯爵だけではなくその護衛の方にもビビられてしまったようです。

 なぜでしょう?


「き、貴様のとこのメイドはなんなんだ⁉︎ 笑ってるが目が笑ってないぞ!」


 なるほど、目でしたか。

 今度はリップススマァーイルを使うときは目を閉じて行った方が良いのかもしれません。


「一級品でしょ〜? ぼくのところ最高傑作なんですよ〜」

「ご主人様!」


 最高傑作!

 いい響きです!

 ならば私もご主人様のメイドとして恥にならないように今後も働かなければいけません。


「いい武力になるでしょ?」

「ご主人様⁉︎」


 今気のせいか武力扱いされたような気がします。

 リップス意外とショック!


「そんなコントはどうでもよいわ! それよりも貴様の送ってきた手紙の内容だ!」


 コント……

 別にふざけているわけではないんですがね。私ことリップスはいつも真面目です。


「ああ、読まれてはいたのですね。それには安心しました。なにせ屋敷が燃えられていたので老害ではありますが伯爵、心の隅では心配していたものでして」

「ぐぬぬ」


 ここで噛み付いても話が進まないと感じたようでヒャルトン伯爵は口を挟まずに呻き声を上げるだけに留めてきます。さすがは老害だと言えども無駄に年を重ねてるだけではないようです。


「で、手紙の内容でしたね」

「そ、そうだ! 貴様は新作の武器を私に提供するという話だっただろうが!」


 地団駄を踏まんとしているヒャルトン伯爵。

 また唾を飛ばしてきます。ばっちぃ!

 そんな怒りに怒っているヒャルトン伯爵をにまにまと笑みを浮かべたご主人様は未だに火柱に巻き込まれながら燃え盛る屋敷を指差したのでした。

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