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メイドとご主人様の笑顔

「いや、ワシ一応国の要人なんじゃが?」


 頭が血塗れになっている老執事がいつの間にか目を覚ましたのかそんなことを言ってきます。

 馬車の御者がフィル へと変わり、首に縄をつけられている老執事はというと体も身動きが取れないほどに縛り上げられており唯一動かされるのは首から上だけという状態になっていました。

 なのに自称国の要人だと抜かす老執事に対して私は笑顔を浮かべて微笑みます。


「ご主人様に害をもたらす奴らは全て殲滅しますので。あ、そこに流れる川に重りでもつけて沈めましょうか?」

「リップスは頼もしぃなぁ」

「ねえ聞いてる? 爺の話聞いてる?」

「聞いてますよ」


 この爺、この状況であってもふてぶてしいですね。


「フルーティさま、どちらに向かいますか?」


 特に目的地も指定せずに適当に馬車を走らせるように命を受けていたフィルですが爺が目を覚ましたに気づいたようで御者台と中を繋げる小さな窓を開けて問うてきます。


「それはそこのおじいちゃん次第だよ。とりあえずさ、リップス」

「はいご主人様」

「折って」

「へ?」

「わかりました」


 ご主人様の言葉を受けて私は爺のを手を触りたくありませんが甲斐甲斐しく持ち上げ、そのうちの指一本を摘み上げると笑みをマヌケな顔をしている爺に笑いかけながら、曲がらない方向へと全力で曲げてやります。

 ミシリっという感触を指を動かした時に感じましたが容赦なくやります。


「おぉぉぉ⁉︎ まじでやりやがりましたぁぁぉぁぁ!」


 あらぬ方向に曲がった指を眺めながら爺が悲鳴をあげます。うるさいので黙らせようかと拳を作ると静かになりましたが。


「安心して。まだ指は九本もあるよ? 足の指も足したら十九本もあるしね!」


 悲鳴を上げる老執事を楽しげにご主人様が眺めています。

 それでも喋ろうとしない老執事の耳元で囁きます。


「喋らないという選択肢もありますがオススメしません。ご主人様はやると言ったら本気でやります」


 それも笑顔で。

 どんなことでも楽しんでできるご主人様は素晴らしいと考えます。


「じゃ、次行ってみようか! 次は折るんじゃなくて砕くとかどう?」


 めちゃくちゃ楽しそうです。

 やはりご主人様は笑顔でなければいけませんね! それが人の不幸の上に成り立つものであっても私は躊躇わずに他の人を蹴落とす覚悟があります。今まさに蹴落とされそうとしているのは老執事なわけですが。


「ご主人様、生憎と拷問器具は持ってきてはおりません。砕くなら私の拳でとなりますがその場合は数本まとめて砕くことになりますが?」


 いかに私でも拳で指一本を根元から砕くなんてことはできませんからね。やるならまとめてです。


「いいよ!」


 会心の笑顔をいただきました!

 これは嫌でもやる気が漲るというものです!


「では……」


 私が逃げれないように手首を抑え、広げられた指に向かい手を振りかざします。

 すると老執事の目の色が変わり、明らかに焦りだしたのがわかりました。


「待て待て待て待て! しゅ、喋る! 喋るからその物騒な拳を!」


「え?」


 突然口調どころから声音まで変わった老執事に驚きます。聞こえてくる声音は年寄りのようなものではなく若い男のもののようです。

 しかし、驚きはしましたがそれだけです。握りこぶしを作った私はそれを躊躇なくハンマーを振るうが如く振り下ろし、


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 男の悲鳴と骨の粉砕音が馬車の中に響き渡りご主人様はまたいい笑顔を浮かべてあるのでした。

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