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メイドと母様クオリティ

「母様!」


 妹たちが悲鳴を上げ、動揺していますがそれは杞憂というものです。

 あの母様に心配という言葉などは不要です。

 母様に向かい直進する凶弾を前に母様はなんの構えもしていません。

 しかし、


「ん?」


 軽い声と共に母様の前の空間が僅かに揺らぎ凶弾が母様の前で停止します。いや、停止したわけではなく停止されているようです。


「なっ⁉︎」


 襲撃者と妹たちが驚愕の声を上げています。ですが私とご主人様は全く動じていません。

 この程度で母様が死ぬのであれば母様はとっくに私にボコボコにされているところですし。

 弾丸が止まった理由。

 それは母様が指で摘むようにして銃弾を止めていたからです。


「よかったぁ」


 無表情でありながらも妹たちは安堵の声を上げています。母様ならこの程度、脅威にすらなり得ないというのに。


「あ、もしかしてさっきの私殺そうとしてたのかな?」

「あはは、メルエムアンがそんな銃弾なんかで死ぬわけないじゃない」

「いや、フルーティちゃん⁉︎ 私も普通のエルフだからね⁉︎ 頭に銃弾なんてぶち込まれた日には赤い花が頭から咲いちゃうからね⁉︎」

「ふっ」

「リップスちゃん⁉︎ 鼻で笑わなかった⁉︎」


 小さく鼻で笑っただけなのによく聞こえましたね。エルフという種族の力を無駄に使っているような気がします。

 母様なら頭をぶち抜かれても「びっくりしたー」とか言って平然としてそうですが。いや、母様ならば頭に銃弾が打ち込まれたとしても頭ではなく銃弾の方が弾け飛びそうな気がします。

 そして普通のエルフなら銃弾を掴むことなんてできやしないんですからね。


「エルフでも鍛えたらこれくらいできるんだよ?」

「はは、できるわけないじゃん」


 はい、できません。

 飛んでくる銃弾を一瞬で魔力で部分強化した指で摘むなんて芸当は普通のエルフではできません。むしろそんなことを言ったら普通のエルフの方々に失礼というものです。

 見たところ指には傷一つ付いていないようですし、いかに母様の魔力が桁外れかということがわかります。


「じゃ、さっさと侵入者潰して商談続けようよ」

「こんなにか細い腕をしたエルフに暴力を振るえと⁉︎ なんのための護衛の妹's(シスターズ)だと思ってるの!」

「それこそ的外れの言葉でしょう?」


 見当違いもいいところの母様の言葉にはため息しか出ません。

 妹's(シスターズ)が護衛?

 それこそ勘違いというものです。そんなこと言うからせっかく恐怖で立ち竦んでいた侵入者がまだいける!なんて幻想を見てしまうんですから。

 ため息をついている間に弾切れになった銃を放り投げ、またどこからかナイフを取り出した侵入者は私の横を一気に駆け抜けていきます。

 あ、決して抜かれたわけではなくわざと抜かして上げたんですよ?

 ナイフを構え、地を這うようにして駆ける侵入者が母様へと接敵。もうあと一歩踏み出せば喉を搔き切れるという必殺の間合い。

 その間合いに入ったにも関わらず母様はにこやかに笑い、閃いた銀の輝きを僅かな動きでかわします。しかし、躱されることを予想していたのか侵入者は立て続けにナイフを閃かせ母様の命を絶とうとします。それでも母様は楽しげに笑いながらまるでダンスを楽しむかのように動き躱しつづけます。

 やがて侵入者が息を切らすように肩で呼吸をし始めた頃合いを見計らうように母様は先ほど摘まみ取った銃弾を手で握りしめているのを侵入者に見えるようにし、


「バーン」


 そんなふざけたような声を上げながら親指で侵入者に向け弾きだします。

 弾き出された銃弾は銃から放たれた時よりも格段に速く宙を飛ぶと侵入者の肩へと直撃。普通ならば貫通するはずなのですが侵入者の肩から聞きたくもないような鈍い音が響き上がり、その衝撃に押されたかのように侵入者は吹き飛ぶとガラスをぶち割りながら外へと放り出される形になりました。

 断じてただの銃弾の威力ではありませんよね?


「弾いたついでに爆散の魔法を付与して見たんだけど」


 普通のエルフはそんなお手軽に創作魔法を使ったりしません!

 普通のエルフって意味を母様は理解をできていない気がします。ご主人様もある意味世間知らずですが母様の場合は世間? 知らんを地で通していそうです怖いです。もっと言うなら隣の芝生は青い? なら私の庭の芝生も青くしてやるわ! とか言って怪しい薬をぶちまきそうです。

 それが母様クオリティ!


「しかし、最後の一人だけはなかなかに優秀だったね」


 間延びした声を上げ、部屋の中が結構な惨状になっているにも関わらず大きな欠伸をしてあるご主人様には大物の風格がありますね?


「ええ、外に放り出されたら迷わず逃げましたし」


 そんなご主人様に同意するように私は頷きます。

 敵わぬから即座ににげるというのはなかなかに難しいことです。それがプロならばなおのこと色々な葛藤があることでしょう。


「うん、歩くエルフ兵器ことメルエムアンの前から迷わずに仲間を見捨てて逃げたことには凄く好感を覚えたよ!」


 もうご主人様は満面の笑みでした。

 それは悪意などが一切ない純粋なまでの賞賛の笑み。

 ふつうなら仲間を見捨てたことに対して軽蔑の眼差しを向けてもおかしくないというのにご主人様は仲間を見捨てた侵入者に対して心底賞賛を送っているのですから。


「生きてまた会えたら今度はスカウントしてみようかな?」

「ご主人様のお好きなようになさってください」


 機嫌が良さそうに呟くご主人様を見ていると私も嬉しくなってしまいます。


「さあ! フルーティちゃん! リップス! パジャマパーティよ!」

「パジャマパーティ⁉︎」


 そんな微塵も空気を読まない母様の言葉に驚愕しながらも私は母様がどこからかだした猫柄のパジャマをどうやってご主人様に着せるかを思案するのでした。

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