メイドと羞恥プレイ
「姉様はあれですか？ 痴女なんですか？」
「いや、裸で壁に頭から突っ込むような奴なんだから変態だよ〜」
妹から見下されているような刺さる視線と楽しげなものを見るご主人様の視線、両方の視線に晒された私は非常に居心地の悪い思いを受けています。
あ、もちろん服はもう着ましたよ。
壁にめり込んだのから抜ける際に少しばかり壁を壊してしまいましたが体には一つも傷がありません。
ええ、ただ心に傷ができたくらいです。
「…… ご主人様」
「なぁに？ リップス」
ああ、すっごい愉しそうな笑顔です！
ですが今の私の境遇にはさすがに一言！ ご主人様と言えども一言！ 一言言わねばならないのです！
「あの、この首から掛けさせられてるの外しても……」
「だめー」
ほんっとうにいい笑顔ですね！
悪意に満ちてるのにあんな爽やかな笑顔を浮かべれるのは私のご主人様くらいです！
あ、これは別に罵倒をしているわけではなくむしろ褒め称えているんです。
そんな爽やかな笑顔を浮かべたご主人様を見た私は諦めて自分の首から下がったボードに目を落とします。
そのボードには『私は裸で屋敷内を嬉々として走り回りました』と書かれています。
いや、間違いではないんです。
確かに走りましたよ！ 間違いではないんですが、嬉々として！ の部分は訂正を求めたいところです。
「変態の姉様を持つ妹って可哀想だと思いません姉様？」
「ぐぬぬぬぬ！」
なぜでしょう。
ご主人様の人を馬鹿に、見下したような笑みには凄く好感が持てるのですがフィルの人を馬鹿にしたような顔をみるとイラついてしまいます。
「ま、そのボードは一日そのままだよ？」
「え……」
お、鬼です。悪魔です。
羞恥プレイで新たな性癖の扉を開かせたいのですか⁉︎
「そしてそんなことよりお仕事だよリップス」
その一言でご主人様が纏う雰囲気が劇的に変わります。
今まで浮かべていた悪戯を楽しむような色を浮かべた瞳ではなく、計算高く冷酷な色を携えた色へと。
そのご主人様の雰囲気を感じとった私は自然と膝を折り頭をさげます。隣で私を見ていたフィルすらも私と同じような姿勢を取っています。
「まずはメルエムアンのとこに行くよ〜 」
「はい！」
ご主人様の言葉に私が素早く返事を行い馬車の準備をするべく玄関から飛び出します。
素早く馬を馬小屋から連れてくると馬車の留め具を取り付けていきます。
そうしている間に外行き用の服に着替えたご主人様が館より姿を現します。
ああ、背伸びした服を着たご主人様もまた可愛らしい！
黒のスーツを着込み、さらにはいくつかの宝石が埋め込まれたステッキを手にしているご主人様！ あとは複雑な魔法陣が描かれた手袋をつけていますね。
本人的にはきっちりとスーツを着込んでいるつもりなんでしょうが残念なけてに身長が…… 身長が足りません！
「なんだか不愉快な思念を感じたよ？」
「そんなことはありません」
日に日にご主人様が私の心の中の言葉を察する頻度が上がっている気がします。
「フルーティ様、フィルが御者をしますので」
「うん、わかったよ。じゃリップス乗り込もうか」
「はい、ご主人様」
フィルは御者台へと向かい、私はというと馬車の扉を開け、ご主人様を馬車の中へ乗りこんだ後に乗り込みます。
「さていきますか」
こうして私たち三人は私とフィルの母親であるメルエムアンの屋敷を目指すのでした。
