ゾンビ男子の日常【ショート】
ゾンビの朝は早い。
一日のスタートは、体の状態を確認する事から始まる。
どうやら、夜の間に腐敗は進んでいなかったようだ。一安心。
顔を洗って制服に着替える。朝の準備もそこそこに、朝食作りを開始した。
熱したフライパンに、卵を落とす。《ジューッ、ジューッ、ジューッ》 とイイ音を立てている。
今日も、目玉焼きの焼き加減が美しい。自分の料理の腕にホレボレする。
焼きあがった目玉焼きを皿に盛り付け、オーブンで焦げ目の付いたトーストと、サラダも用意。
Simple is best。朝食が完成した。
同じ屋根の下で生活する母と妹を起こし、朝食が出来た事を伝える。
ゾンビの体に食事は不要! 暑い夏の陽気を避けるよう、一足はやく学校へ向かう。
今日も教室に一番乗り。皆が登校してくるまで、まだ時間がある。
鞄から教科書を取り出し予習開始。学年上位を維持する為に、自習に勤しむ。
登校してくる生徒が増えてきた。教室内がざわつき始める。
隣の席の女生徒も登校してきた。挨拶はまだ無い。
席に付いた女性徒は、こちらに体を向けて「ちょっと頭の方、腐ってきてない?」と、辛らつなツッコミをする。
「おはよう」の前に言うセリフとは思えない。
ムッとした顔を向けると、彼女はニカッと笑い「アメリカンジョークだよっ!」と、元気よく口にした。
お互い笑いあう。毎日の日課だ。
朝のチャイムと同時に、出席簿を持った先生が入ってくる。
名前が順々に呼ばれる。
「はい、元気です。」に混じって「はい、風邪気味です。」の声も聞こえてくる。
名前が呼ばれる。
体調も悪く無いので、「はい、元気です!」と元気よく声に出す。
隣の彼女が、コチラを向いてニカッと笑う。お返しに、右腕を上げて力こぶを出すジェスチャーをする。
1時間目の予鈴がなる。先生が教室に入ってきた。
隣を見ると、彼女は既に睡眠モードだった。いつもの事とは言え、ちょっとため息が出る。
お昼の時間だ。皆、お弁当や購買のパンを、適当なグループで集まりながら思い思いに食べている。
隣の席も、女の子グループが出来ている。男顔負けの量のお弁当を口にする、彼女が、少しだけ羨ましい。
ゾンビは食事を取れない。
午後の授業が始まる。隣を見ると、彼女は寝ていた。お腹いっぱいになった様子で、寝顔がとても幸せそうだ。
周りを見渡すと、眠そうにあくびをする生徒、コックリと舟をこぐ生徒、顔を突っ伏している生徒、達が居た。
朝の準備をしてから、かれこれ10時間は経っているだろうか。今日も眠気は襲ってこない。
ゾンビは睡眠を取らない。
6時間目の終了のチャイムが鳴る。
授業を終えた先生と入れ替わるように、担任が教室に入ってくる。
帰りの会を終え、「さようなら」の挨拶をする。
バラバラと帰宅を始める生徒達にまじり、隣の席の彼女に「さようなら」を口にし帰途につく。
この時間はまだ暑いので、日陰を選びながら歩くしかない。
上履きから靴に履き替えて、外へ出ようとする。
日の光に当たるか当たらないかのところで、後ろから「一緒にかえろう」と声をかけられた。
振り向くと、隣の席の彼女が日傘を持って立っていた。
彼女は傘を開くと、ゾンビの体に日が当たらないよう、傘を思いっきりコチラに傾けた格好で歩く。
不恰好な相合傘状態の二人。
彼女の優しさが嬉しい。
家に着いたら何かお礼をしたい、と提案したが、笑いながら、「お礼されるような事はしてないよ。」と、彼女は遠慮する。
お礼をしないと気がすまないと、ゴリ押しを続けると、彼女は少し呆れたような笑みを浮かべた。
「次の休みに、おいしい食べ物をご馳走する」と、強引に約束をつける事で決着がついた。
家の前まで送って貰い、「また明日」の挨拶をする。
次の休みは、彼女とデートだ。浮き浮きな気分で玄関を開けた。
手を洗い自分の部屋へ行く。
女の子とのデートは初めてだ。彼女を思いっきり楽しませてあげたい。
そして、あわよくば手をつないでやる!
性知識の乏しい、男の子ゾンビの欲望は少ない。
仕事で遅い母親と部活が忙しい妹の為に、夕食を用意する。
豚肉、ニンジン、じゃがいも、たまねぎを包丁で、 《トンットンットンッ》 と適当な大きさに切り分ける。
水を入れた鍋を火にかけて、固形のカレールーと切った具で、カレーを作る。
ご飯の炊き上がりを待っている間に、お風呂の用意も進める。
あとは、家族の帰宅を待つだけだ。
家族3人でテーブルを囲んでの夕食。
食べ終わった後の、食器洗いは母の仕事だ。
いつもどおり、先にお風呂をいただく。
洗濯は妹の仕事なので、洗濯籠に汚れ物を入れておくだけ。
体の汚れを入念に取る。
ゾンビの体に汚れは禁物。
お風呂上りに、日課のスポーツニュースをチェック。
贔屓の野球チームが今日は勝ったようだ。気分がイイ。
パソコンを立ち上げ、ネットサーフィンに熱中する。
新聞配達のバイクの音が聞こえる。
読みかけの本がある事を思い出した。パソコンの電源を落とし、本の続きを読む。
外が明るくなってきた。
そろそろ、朝食の準備に取り掛かる時間だ。
ゾンビの1日が今日も始まる。