DANCE
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パーティ会場には色とりどりの色鮮やかなドレスやモーニングに身を包まれたレディース&ジェントルメン達がそこかしこに黒のソムリエ風の制服姿でシャンパングラスをいくつも上にのせて並べたトレーを片手で差し抱えて立っているボーイ達から受け取った透明で泡立った液体の入ったグラスを手に談笑しているのが入り口に立ったばかりの照子の所からまるで映画館のワイドスクリーンみたく別世界に迷い込んだ様な違和感すら与えた。照子は一瞬この間ま中に入ろうかどうか少し思案したが後ろの人に押されて黄色い履き慣れないヒールをトコトコと会場内へと転がり入った。入ってすぐ左手の白いテーブルクロスがかけられたテーブルの上には、シャンパンに合う様に用意されたオードブルやピンク色のフルーツパンチが所狭しと並んでいて照子にはそれらに手をつけることさえ何か贅沢過ぎる様な想いに捕らわれたが近くにいた給仕が皿にキャビアやグリーンサラダを盛り付けて照子に渡してくれたので照子は恥ずかしそうにありがとうございますとお礼をたどたどしく言ってどこでこれを食べたら良いものかと周囲をキョトキョトと見回したがどうやらこれは立った儘食べてもよいものらしいいと分かって会場の隅の方へ行って備え付けのフォークでクラッカーの上に山のように盛られた初めて口にするチョウザメの卵を品の悪くないようにフォークの先にちょこんとのっけて食べた。塩辛くて少し贅沢な感じがするわと照子は感心してもう二、三口口にいれた。
さて、どうしたものかと照子は会場を別の方向からもう一度見渡して見た。すると照子のいるのとは反対側の壁の前にも何やら白いテーブルクロスのかけられたテーブルが並んでいるのが何か気になった。そこで照子は皿の上にまだ随分と残っていたオードブルを急いで全部食べ残しが無いように食べてから先程の給仕の所に皿をまたありがとうございましたと口早やに言って退却してからそのままそのままパーティ会場を斜めに人をかきわけながら横切って念願の白いテーブルの前迄たどり着いた。その白いテーブルの上には丸い美しい銀か何かで出来た様に見える大きな容器とその中に砕いた氷が氷山のようにたくさん入れて合ってそこに緑色の大きな日に焼けたラベルの貼ってあるボトルが自分よりも偉いなにかであるかみたく威風堂々と冷やされていた。これはワインかなにかだろうかと照子はそのラベルの字を読もうとしていると遠くから給仕があわてて駆けつけてきて照子に一礼した後「カクテルをお作り致しますか」と照子に余程練習を積んだのであろう見事に洗練されたスマイルを目を見ながら言って来た。照子はドギマギして訳が分からずにこう尋ねた「あのう、カクテルって何ですか」すると給仕は笑って「カクテルとは英語でcocktailつまりニワトリの尻尾と申します。ニワトリのシッポというのは少しお洒落な感じが致しますでしょう。ですからカクテルは色んなお酒を混ぜてお洒落な感じに致しましたのがカクテルというのでございます。おわかりいただけましたでしょうか。」給仕はそう言って又ニッコリと笑ってもう1度照子にカクテルはどうかと勧めた。照子はそのように言われるとカクテルというものを是非一度飲まねばならない様な気がして自分がまだ19才だという事も言わないでお願いしますと正直にそう述べた。給仕は先程のボトルの栓を開け、足許から様々な種類のお酒を取り出して銀色のシェイカーで何度も混ぜてから実に美しい手つきで照子の前にソッと差し出したカクテルグラスにシェイカーの中身を少しずつ注ぎ入れた。照子の目の前におかれたグラスには、びっくりする程真っ青な液体が入っていた。照子は一目見てこれは余程度数の強いのに違いないと思い、勇気を出して給仕に尋ねた。「済いません、これは何を混ぜたお酒なんですか」すると給仕は先程よりもより一層輝きを増した笑顔でこう答えた。「それはメキシカンブルーサファイヤというわたくしオリジナルのカクテルでございます。本日のお客様のクリーム色のドレスと黄色い靴に合わせまして少し情熱的でメキシカンなムードの漂うしかも度数の非常に低い未成年の方でも安心してお召し頂けるひと品となってございます。」照子は恐る恐るカクテルグラスを口に持って行き、最初の一口を味わって見た。ほんのりと甘く、照子が想像していたようなアルコールの辛さはどこにも感じられず、それでいてまるで青いサファイヤの原石を舌の上でコロコロと転がしている様な陶酔感に襲われ、照子は一口でこの青い奇麗な色をしたカクテルが好きになってしまった。照子はとってもおいしいですありがとうございましたと言って一礼する給仕を尻目に人がいなくてゆっくりとこのカクテルを飲める所を探してから一息吐いてそのブルーの液体を喉を鳴らしながらおいしそうに飲み干した。飲みながら照子の唇の端から洩れた滴がカクテルグラスの外側を伝い、グラスの底の部分で固まりとまって落ち、照子のクリーム色のドレスのスカートの上に落ちて紫色に変わった。