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親の心子知らず


社交界シーズンが始まると、年頃の娘を持つ親は途端に忙しくなる。例に漏れず、フィッツモーリス伯爵夫人もその忙しい親の一人であった。


娘のアデラインは十六になったばかりだが、輝かんばかりの美しさがある。夫のエドモンドは生まれたばかりのアデラインを見て、月の女神ディアナの生まれ代わりだと言った。それほどまでに赤ん坊のアデラインは可愛らしかったのである。薄く生えたブロンドの髪は夫から受け継いだもので、少しだけ開いた瞼から見えたヘーゼルの瞳は私から受け継いだもの。はじめての子供で女の子だったものだから夫は落ち込んでしまうかと思ったが、彼はどこへいくにしろアデラインを必ず引き連れるくらいに溺愛した。


時の流れとは早いものだ。あの弱々しい赤ん坊だったアデラインが今や社交界にデビューし、花婿を探すのだから。


フィッツモーリス家と言えばかつてはスコットランドの大半を統治していたもので、今なお彼の地の多くを所有し、あまたの小作人を従えている。名門中の名門のお家柄である。

フィッツモーリス伯爵夫人の母はジョージ四世のいとこに当たる。アデラインには王室の血が流れているのである。


家柄から見てもアデラインは理想的な花嫁と言える。社交界にデビューさえすれば、アデラインに求婚してくる相手は後が絶たないだろう。


家柄に加えて、アデラインはあの美貌だ。夫が称したように月の女神ディアナのような生き生きとした美しさがある。 初めて会う人はハッと息を飲むような美しさである。巷ではアデラインの美貌が噂になっているらしい。


だが、フィッツモーリス伯爵夫人には不安なことがあった。アデラインは、本当に心から愛することができる相手を見つけられるのだろうか。

アデラインはコッツウォルズの田舎でのびのびと育てられた。上流階級に有りがちな窮屈なマナーに縛られて育った子ではないのだ。コッツウォルズではアデラインは馬に乗ることもできたし、木に登ることもできた。好きなように振る舞うことが許されていたのである。

夫のエドモンドは礼儀作法の時間を除けば、アデラインがどのようにしようが微笑ましく見守っていた。

一人娘が村の人間と触れあうことも嬉しく思っているようであった。


本当にあの子を心から理解してくれるような求婚者は現れるのかしら。顔や家柄だけじゃない、あの子の良さを理解してくれるような。


「レティシア、レティシア!ああ、そこにいたのね。聞いてちょうだいな」


足早に部屋に入ってきたエレノアは外出用のボンネットを被ったままであった。かなり興奮したような状態の彼女は何を急いできたのか。


「なあにエレノア。そんなに急いで、どうかしたの。」

「あのウォルズ公爵にアデラインが話しかけられたのよ。私が馬車を呼びに行っている間に、公爵が話しかけらたみたいなの。それに、公爵はあの子をブライトンにあるマナー・ハウスにまで招待してくれたのよ!」


それはレティシアにとっても驚くべきことであった。ウォルズ公爵と言えば今一番人気の独身男性である。イギリスの中でも指折りの由緒正しい家柄に、唸るほどの財産。それにあのハンサムな顔立ちだ。年頃の娘を持つ親はみんな彼のことを知っている。


「彼はアデラインのことをかなり気に入っていたみたいなの。かなり熱のこもった目でアデラインを見つめていたわ。あの子をお披露目するバートン侯爵夫人主催の舞踏会には、ウォルズ卿は出席されるのかしら?」

メイドを呼んで出席者の名簿を持ってこさせた。

「出席されるみたいね。あの子が余計なことをしでかさなければいいけれど・・・」

「大丈夫よ。私もあなたもアデラインから目を離さないようにしましょう。あの子を公爵が最初のダンスに誘ってくださるといいけれど。


エレノアは公爵がアデラインに興味を持っていると話していたが、本当にそうなのだろうか。公爵は魅力的な独身男性だ。数多くの女性が彼を狙っている。階層階級に慣れていないアデラインはその中でうまく立ち回れるのだろうか。

母親としては、娘がなるべく家柄の良い資産もちの男性と結婚するように願うべきであろうが。


「あの子にはもう少し年の近い方が似合うのではないかしら?」

「何を言っているの、レティシア!公爵がアデラインをお気に召したの。あの子が公爵夫人になるのも夢ではないのよ!少し年が離れているからってどうだっていうの。世の中には何十歳と年の離れた夫婦だっているのよ。あなたとエドモンドだって一回りは離れているでしょう」

エレノアは既にアデラインが公爵夫人になるかのように話している。


「エドモンドが帰ってきたら話してみるわ。エドモンドは先代のウォルズ公爵とご友人でしたから」

アデラインはどうなのだろう。ウォルズ公爵にあの子も惹かれているのだろうか。



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